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緊急会議 2


 初めて見る国の保護を受けていない移民の民の登場に少しざわめいたが、ゼノと呼ばれた男性は高位の精霊のようでアリステアがホッとしているのに気付いた。

 ゼノは芽依達の隣の空席を引き女性を座らせる。


「…………まあ、ごめんなさいねゼノ」

 

「いやいい、ほら座れ」


「はいはい、もうせっかちねぇ」


「お前がゆっくりなんだろ」


 ぶつくさと文句を言いながらも女性の体をいたわっているようで、優しく座る手伝いをしている。

 そして、空いてる席がない為後ろに立とうとするゼノをメディトークが空中から椅子を出現させた。


『座れ』


「あ……ああ、悪いな」


 軽く頭を下げてから座ったゼノを見てからアリステアは話し出した。


「彼らはゼノ殿とチサメ殿という。国に属していないドラムストの移民の民だ」


「非常事態だ、悪いが一緒に協力を頼みたい」


 ゼノが頭を下げるのを黙って見ていた。

 いよいよ危機感をヒシヒシと感じてきたのだろう。


「ヒサメ殿は以前のシロアリに遭遇し助かった数少ない移民の民なのだ……なにか、対策や気にするべき事があったら教えて下さい」


「………………そうねぇ、シロアリは脅威よ。シロアリよりも位の高いはずの人外者や私の伴侶を簡単に殺していったわ。私が助かったのも奇跡だったのよね」


 眉を寄せ悲しそうに話すヒサメ。

 そう、彼女は伴侶を失った移民の民、片翼なのだった。


「…………しかし、ここでゼノ達が来たのは朗報だろう。どう対策するべきか実際に切り抜けた者がいるのなら話しは早い」


 狙われた移民の民の殆どは喰われている。

 残っている半数は、極小数逃げきれた移民の民とシロアリの進行から外れた範囲にいた移民の民が殆どなのだ。

 ヒサメは眉を寄せて首を傾げた。


「…………私も詳しくはわからないのだけど、シロアリが来て私も死ぬと覚悟した時雪が降ったのよ」


「…………雪」


「貴方を見た気がするのだけど……」


「え?僕?」


 ヒサメはフェンネルを見て言ったが、張本人のフェンネルは首を傾げるだけだ。

 そして、あ……と呟く。


「………………多分、僕が花雪になって狂う時期とシロアリの時期が一瞬被った時があったから……その時かな」


 良く殺さなかったなぁ……と歪に笑うと、美しい外見から朗らかに殺すと言ったフェンネルに移民の民が目を見開いていた。

 芽依は、コラ!と手の甲をパチリと叩き注意する。


「多分だけどね、雪なのか寒さなのか分からないけど苦手なんじゃないかな」


「苦手?ですか……?」


 アリステアが不思議そうに聞くと、今度は素直に頷いて芽依を見た。


「…………僕が協力するのはメイちゃんの為だって事は忘れないでよね……」


 はぁ……と息を吐き出してから、小さなケースを取り出した。

 普段対価を必要とする契約や手助けをする人外者であるフェンネル。

 しかも相手は嫌いな移民の民、したくて手助けする訳ではもちろんない。

 だが、芽依を守る為に少しでも確実性のあるものを選ばなくてはならない。

 

 さらに、芽依が友人として見ているユキヒラやミチル、他の移民の民の安否と優しい芽依は心配をしてしまう。

 

 テーブルに出したケースを開けると漂うのは土の香り。

 芽依が少しだけ伸び上がりケースを見ようとすると、フェンネルは直ぐに芽依にケースを手渡した。


「ん……?これはフェンネルさんの庭の土じゃない?この冷たい手触り」


「そう」

 

『…………ああ、俺もそうかもしれないと思ったが、こうも変化が出てんなら確実じゃねーか』


 メディトークが芽依からケースを取り上げテーブルに中身をひっくり返した。

 トサ……と軽い音を立てて落ちた土は湿り気がありツヤツヤとしている。

 栄養が豊富ないつもと変わらない土だ。


「………………痩せて、いない」


 アリステアはフェンネルの隣まで来て土を見ると、メロディアとユキヒラも近付いてきて指先で土を捏ねるように触る。


「…………冷たいけれど水分、栄養どちらも問題無いとても良い土だわ」


「うん……良く手入れされた土だね」


 庭持ちに太鼓判を押され、何故か芽依が胸を張る。

 なんでだよ……と文字が浮かぶメディトークにペチりと黒光りする足を叩いてからメロディアを見る。


「…………そうね、他の庭とは完全に別物だわ。もしかしてシロアリの嫌う何かがあるのかしら」


「その土がある庭はどこにあるんだ!!そこに避難すればいいんじゃないのか!?シロアリが嫌うならそこでシロアリが過ぎ去るのを待つべきだ!」


「…………………………は?」


 比較的新しい移民の民なのか、移民嫌いだとしらないのだろう。

 フェンネルの肩を掴み言うと、絶対零度の冷たい眼差しが向けられビクリと肩を揺らした。


「僕に触らないでよ、移民の民。僕はメイちゃん以外を助けるつもりはないし、あの場所は僕達皆の家なんだから、何土足で入ろうとしてるわけ?」


「なっ…………」


「お、おい!お前の犯罪奴隷だろ!!躾ろよ!無礼な奴隷だなったく!!奴隷をそんな野放しにしやがって、好き勝手させんじゃねぇ!犯罪奴隷を連れ歩く時は鎖繋いで口封じの魔術くらいしろよ!伴侶に見放されたヤツはやっぱり不気味な考えしか出来ねぇな!」


「『あん…………?』」


 騒いでいる男性の移民の民の伴侶なのだろう、紫の髪の妖精が芽依に言ってきたが、これに不機嫌になる芽依とメディトーク。

 そして、芽依を軽んじる発言をした事によりフェンネルの殺気が部屋中に広がり温度を下げた。

 すぐさまフェンネルの手を優しく握ったのだが、その表情は冷たい。

 

「なに躾けるって。何を躾けるって言うの?何であんたがうちのフェンを躾けろなんて指図してるの?うちのフェンはあんたが言わなくても良い子でしかないわ。それとも主人の私より偉いの?」


『テメェは人様の奴隷を自分のものの様に扱おうとすんじゃねぇよ。たとえ今は奴隷だろうがお前より遥かに強い妖精だってことを忘れんじゃねぇよ…………テメェもだ、移民の民。伴侶からは特別だろうが俺やフェンネル、ましてやメイにとってはそこらに小石と大差ねぇ』


「…………こ、小石」


「たとえ奴隷になったとしてもその人の気質や今まで出来た価値観はそのままでしょ。ならこの世界の常識に乗っ取り、他の人外者と同じ何かを得るには対価を。それも変わらないんじゃない?奴隷だからって自分より下に見るのは浅はかだね。なにより、主人である私は他人からのそんな扱いを許してない。フェンネルさんはフェンネルさんらしく私の傍で生活してるんだから物のように扱ったら…………ねぇ?」


 チラリと冷たい眼差しを向ける芽依に全員が驚いた表情を向ける。

 最近の芽依はこちらに来てから変わったことがある。

 それは、少しの好戦的な感情。

 気を付けなくてはいつ自分が死んでもおかしくない世界だと芽依は身をもって理解した。


 だからこそ、自分の味方とそうでない者の線引きをして身を守る為には非常になる場面もきっとあると思っている。

 自分だけじゃない、大切な人達を守る為に、守られるだけじゃない自分でいたいと。

 それはやはりリンデリントの命の危機やフェンネルの狂った妖精や葛藤、その後の変化をまじかで見た衝撃が強かったのが一因になっているのだ。


『ナメた対応しか出来ねぇなら俺達は庭に引きこもりメイだけを命を懸けてシロアリから守る。他は知らねぇし、緊急時の備蓄放出についても契約分以外は関知しない…………言っとくが俺とフェンネル、ハストゥーレがいれば少なからずメイは無事だろうし庭は壊滅するかもしれねぇが、復興もなんとかなる確信がある。契約分は手助けするがそれ以上を望むんじゃねぇぞ』


「メディトーク!待ってくれ!それは困るのだ!力を合わせなくては乗り切れない天災が控えている今、お前たちから見放されたらドラムストの再生は難しくなる!」


 焦るアリステアにシャルドネやブランシェットもマズイ……と顔色を悪くする。

 この世界は今通常ですら食料不足であって余裕はない。

 そんななか大飢饉が訪れる時に強い豊穣と収穫の祝福や恩恵を持つメディトークと芽依の存在は必要不可欠となるのだ。

 だからこそ、芽依の……いや、メディトークの機嫌を損なわせる訳にはいかなかった。


『こいつらは自分の奴隷じゃねぇフェンネルを勝手に使おうとした事もだが、なによりメイを軽んじただろう。馬鹿にすんじゃねぇぞ』


「そ!そんなつもりは!!」


 マズいと思ったのだろう、明らかに不穏な状態に焦りだした相手の人外者が言い訳をしようとするが睨みつけられ肩を揺らす。


 

『自分に従うように言うその浅ましさが許せねぇって言ってんだ!……なにより不気味な考えだぁ?そのメイのおかげでテメェの伴侶は今笑ってんだろうが!!移民の民の死亡率を下げて皆が笑ってこの場にいんだろ!?市場の食料の流通を増やしてるのは誰だと思ってやがる!テメェの頭はそれすら理解が出来ねぇのか!!』


「……………………不気味な考えだと言うならそれで結構。今後は私に一切絡まないでください。私も貴方に関与いたしません。全てにおいて」


「アリステア、ねぇ?ここまでメイちゃんをコケにされて僕が怒らないとでも思っている?僕の事はいいよ、でもメイちゃんはだめ。君さ、自分も伴侶を迎えておいて移民の民をバカにするなんて、随分浅はかだね?」


 3人の怒りが膨れ上がっている。

 ゼノは静かに立ち上がり、芽依の後ろに来ると手で口元を抑えてきた。

 メディトークとフェンネルはすぐさま引き剥がし、芽依を隠したが、芽依は黙って口を両手で抑えている。


「ちょっとゼノ!なんのつもり!?」


「手袋してるんだ、大丈夫だろ」


「大丈夫じゃないよ!」


 フーフーと怒り出したフェンネルを見てからゼノを見るとニヤリと笑われた。

 そして、ベールの上から頭を撫でられる。


「なぁ、有事の際はよ誰だって焦るし普段理性で押し隠されたことを言っちまう事もあるけどよ」


「不気味な移民の民と思っていた本心を言ったって事ですね、理解しました」


「まーまー、今はよ、あんたが知らないくらいの飢饉がせまってんだわ。あんたもこのドラムストに住んでんだからちょっとの融通をしてくんないかね」


「ただ私に我慢しろと?」


「今だけだって、飢饉が無事すぎるまで。そうしたらあんたはあんたなりの対応をすりゃいい……どうだ、あんたが納得してくれなきゃこいつらは動かねぇだろ?」


 親指で刺された2人、メディトークとフェンネルの座った目を見てからゼノを見る。


「それに、少なからず知り合いはいるんだろ?客とか」


「……………………」


 それを言うのはずるいのではないか。

 たしかに、知り合いは増えた事によりメディトークたち庭の人達とアリステア達領主館の人達だけが助かればいいとは思えない。

 だが、それを駆け引きのように持ち込まれるのは非常に気分が悪い。


 しかし、これはドラムストだけでは無い、ファーリアひいては全世界を震撼させる飢饉の前兆なのだ。

 どんなに嫌だろうが芽依個人の感情で押し通そうとする内容では無い事を普段だったならわかるはずなのに、今の芽依には冷静さを欠き苛つく気持ちを抑え込むのでいっぱいだった。



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