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ユアエニイの完全証明  作者: 砂ノ隼
1章
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第8話:ブルースクリーンリビング


 「ゲームセット」

 「参りました……」


 ゲームでボロ負けした。いつも通り。どうやったらアヤに勝てるのか考えてはみるのだが、全く分からない。変えられるものなら変えてやるとは言った。このままでは言っただけになってしまうかもしれない。

 『ボムマンズ』……奥が深すぎるゲームだ……深すぎて何も分からないことしか分からない。


 今時珍しい有線コントローラーを握りしめながら、俺はうなだれていた。人の手に握られることを極限まで意識したコントローラーは、握る手に対して何かを応えてくれるというが。

 俺のプレイングが下手ならどうしようもない。悲しいことに。


 暗いリビングルームに、穏やかに浮かび上がるブルーライトスクリーンの光。そこに表示される、1PWIN!2PLOSE...の文字。明るくしてプレイした方がいいだろうに、アヤ曰く『こっちの方が雰囲気あるだろう?』とのことで。

 確かに、ゲーム画面以外のものが見えないというのは注意を割く対象が減るということだから、その観点で見ると悪くないのかもしれない。しかし、目に悪いし精神にもよくないとされる。今度は注意するか。


 ──今度があったら、だけれど。


 ──なければならない(・・・・・・・・)のだから(・・・・)あるのだけど(・・・・・・)


 「いやあ……」


 アヤがうんと伸びをする。勝ったおかげか、伸びの調子もいいみたいだ。


 「やっぱりゲームは対人に限るね。勝てるし楽しいし!」

 「俺、そんなにゲーム得意じゃないけど勝って嬉しいか……?」


 ここはずっと気にしていたことでもある。もちろん、ゲームの楽しみをどこにおくかは人それぞれ。しかし、基本的には拮抗していた方が面白いと感じる設計になっているはずなんだ。ゲームってそういうものではないか?


 しかし、アヤは一味違った。


 「もちろんさ!君をこてんぱんにして完勝すると強い喜びが得られるんだよね」


 ……。


 「質問を変えよう。弱いものいじめは楽しいか?」

 「楽しいよお」

 「……そこまで元気に言い切られると逆に嬉しくなって困っちゃうな……」


 嬉しくなって……いいのか……?


 「……マゾヒスト?」


 いじめてる自覚は本当にあるのが困る。


 「それで嬉しくなるのはよく分からないけど……タスクをつつくのはやっぱり楽しいんだよ。つついて負けた時が、かわいいなあって思う」

 「なんで……?」


 時々アヤの感性はよく分からない。


 「まあ、僕とゲームやってくれるのは君しかいないわけだし?もっと強くなってくれたら嬉しいのは確かだよ?」


 アヤは俺の握りしめているコントローラーをこつこつと叩く。

 さっきと言ってることが違う……!


 「完勝するのが楽しいって言ってたじゃないか!」

 「互角の戦いだってきっと楽しいのさ。ゲームの楽しみ方はたくさんあるんだから」


 さっき俺が考えていたことだ。それはその通りなのだが。


 「暗に俺の腕前をおちょくっているな……?」

 「事実じゃないか?いつどこで互角の戦いができた?言ってみたまえよ、ほらほら」

 「ない!ずっとボロ負けです!」

 「分かっていればよろしい」


 そりゃあ、いつか勝てるようになればアヤは楽しいんだろうけど。いつだそれは。

 ボムマンズで勝てないなら、別のゲームを極めた方が有益なんじゃないか。例えば……


 「チェスなら勝てそうな気がする……何度かやったけど、『ボムマンズ』よりかはコツが掴みやすくて楽しいゲームじゃないか」


 えー、とアヤの不服そうな声。


 「先攻(シロ)なら、でしょ?」

 「うん」


 アヤは足を組み直しながら俺にしなだれかかった。そうして俺の服を────黒い布地のパーカーをちょいちょいとつまんで遊んでくる。


 「そういうのは後攻(クロ)で勝てるようになってから言うべきじゃないかな?君には黒がお似合いなんだ。白は僕のものだし譲る気はないよ」

 「ははーん、なるほど?俺に負けるのが嫌ってことか?」

 「僕は後攻だろうと君を打ち負かすってことだよ。思い上がりはほどほどにするんだね」


 確かに思い上がっている。勝てそうな気がする、とは100回やって1回はもしかすると勝てるのではという意味であって、残り99回は確実に負けるものを一般的には『勝てる』とは言わないのである。


 はぁ、とアヤはため息をつく。


 「……気のせいなのかなあ。今日の君なら勝ってくるんじゃないかとなんとなく思っていたんだけど」


 根拠は分からないけれど、アヤはそういう意図でゲームを持ちかけたらしかった。はて。


 「買い被りすぎだろう。今までこのゲームで149連大惨敗しているやつが急に勝てると思っていたのか?」

 「己の敗北を恥ずかしげもなく言い切られると困る」

 「ごめん」

 「でも気のせいなら気のせいで別にいいんだ。そうだろう?」


 そう言って、アヤは俺の頭をわしゃわしゃと撫でてからキッチンに移動していった。


 「ふっふふ〜んふ〜ん……」


 謎の鼻歌付きで……


 『気のせいなら、気のせいでいい』……それこそ、気のせいだろうか。何かの含みを感じる言葉だ。アヤがこの手の表現を使う時はだいたい隠し事をしている……


 いやいや、それこそ気のせいなら気のせいでいいじゃないか!アヤを信用することがまず一番大事なんだ。隠し事をしていない場合だって、あるんだ。


 それでも、もし……もしもの話だけれど。あり得てはいけない話なんだけど。


 ……アヤを信用すること、アヤを軸に動くこと、それが崩れてしまったら……俺はどうすればいい?


 崩れない、よな。


 崩れないことが、俺の存在意義なのだと思う。だから、崩れるべきではない。

崩れるべきでないのなら、崩れているはずもない。

 それは、正しい理屈……だと思う。


 ……どうすればいいのか分からないけど、アヤの様子をとりあえず見に行くか。


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