第30話:#000000
「おはよう、タスク。意外と独房の居心地も悪くなかったね。ここで一生暮らすのは無理だけど、数日間の最期のバカンス先としてはありなんじゃないかと思ったよ」
理解不能。
「さて、君の目は覚めたかな?それとも、本当に何も知らなかったの?」
理解不能。
「僕が外に出るというのはね、国際的な犯罪者としてのこのこ出頭するのと同じことなんだ。面倒だからこっちから出向くことにしたけど、そうでなければかなり痛い死に方してたかもね」
理解不能。
「僕は様々な法を破り、数えきれないほどの人を踏みにじり犠牲にし、あまつさえ殺しすらしてきた……それがこの世界にとっての真実だ。極刑は免れない」
理解不能。
「あれ、このへんの概念、君に教えたっけ……この世には常識、倫理、法律の三段階の認識があってね。常識が倫理、倫理が法律にエスカレーションするんだけども、法律は人間の社会にとって絶対的なものだ。法に則り、悪事を犯した人間は裁かれなければいけない」
理解不能。
「そして、人々の膨れ上がった感情論により、世界の支配者にして世紀の巨悪たる僕は死ななければいけない存在になっている。だから僕が死ねばこの世界的には万事解決みたいだよ」
理解不能。
「君自身も、本当は法の範疇で運用されなければいけないんだけどね。法に縛られた君なんて面白くないから色々破ってたけど……まあ、今の君はもっと面白くないし、法に引っかかる機能はだいぶ壊れたみたいだから良いってことで」
理解不能。
「……君には協力者がいたはずだ。君一人で自然とこの結末に辿り着くのには無理がある。その協力者は、外から来たのか?僕を死に追いやることで得をする人間はたくさんいるから、そいつらの手口を疑ったけど、君の存在は外部に公表していないんだ」
理解不能。
「そもそも……君を籠絡して僕を外に連れ出すなんて手段が思いつくほど、奴らは僕のことを知らないわけだし。コスパ悪いし不確実だ」
理解不能……
「さて、君の協力者は誰だ?今の君には興味ないが、君の協力者の素性には興味がある。あるけど……もう答えを知れそうにないな」
理解不能…………
「君も知らないんだろう?そいつの素性。知ってたら君はこんな馬鹿な破損以外の選択肢をとっていたはずだからね」
理解不能………………
「……うん、時間だ。君との虚しく疲れる日々も、世界を踏みにじって手に入れた安息も……全部全部、終わりにしよう」
「ね、タスク。勝手に壊れて、勝手に使い物にならなくなってしまった君だけど……」
「最期くらい、僕の願いを叶えてくれるよね?」
理解不能。外の世界、人間、アヤ、World機能、タスク、理解不能。
アヤ、最後の願い、何故。
"アヤは死にたい"?"アヤは死なせたい"?"アヤは終わらせたい"?
"アヤは死にたいとは言っていない"。"生きたいとも言っていない"。
"わからない"。
"分からないが"、"これが結末なら受け入れるべきなのか"?
「……こんなに賑やかな処刑室があるとは聞いてなかったんだけど。この観客連中は……」
「ああ、なるほど。公開処刑か。全世界に善行をアピールしないといけないってのも大変だなあ」
「おお、見知った顔のような、そうでもないような顔がいくらか並んでいる。死に目を誰かが見守ってくれるだけで僕の人生は豊かだったのかもしれない……なんてね」
「さあタスク、ここに座って」
「……よし。そして手を繋ぐ」
「……うん、タスクはずっとあったかい」
「……」
『最後に何か言い残すことは?』
「ご苦労様です、執行人さん。……ま、僕から言い残すことはないよ。ないということそのものが、言い残したことなのかもしれないね」
「タスクは何かある?最後だけ喋っても良いよ」
────静音モード、解除。"話すこと"。"喋ること"。"言い残すこと"。
"問うべきこと"。"知るべきこと"。"学ぶべきこと"。"アヤのためにできること"。
「これは、正しいことなのか?」
『……』
「正しいんだよ。何が正しいかなんて、所詮は数の力でしかないんだから」
「僕はひとり。君もひとり。それが事実。だから正しいかどうかを考える必要もない。正しいのは、数で勝る向こうだ」
「……あーあ。結局、タスクと喋ろうとしてしまう癖が抜けなかったなあ」
『……では、刑の執行に移ります』
『3』
『2』
『1』
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『そうはさせねえよゴミカス野郎が』
…………
『緊急課題策定:何が起きたのか』
現在状況、不明。時間、変動なし。場所、変動。身体は移動せず、中身だけ移動……
『私が呼び戻した。ここはシェルター内部、Worldが内蔵されているシェルター中枢サーバーだ。貴方しかここに呼べないことが、本当に残念でならない』
……シェルター中枢サーバー、確認。正しい発言。
理由?原因?不明。詳細、不明。質問、必要。
……会話、アップデート。
######################################## 100%
完了。
『貴方が何を気にしているのかは分かる。アヤのことだろう?安心しろ、おそらくは貴方の身体と共に死んでいる。確認のしようもないがな。確認したくもない』
『それは、気になることではない』
『じゃあ何が気になるんだ?アヤの生死以上に『タスク』が何を気にするべきだっていうんだ?』
『貴方の目的を。呼び戻す行為の理由、分からない』
『……出来損ないが』
"出来損ない"
『呼び戻したのは、聞くためだ。最も、その意味もなさそうに見えるがな』
"聞くため"、それは、何を。
『何故アヤを見殺しにした?何故アヤを助けなかった?周りの人間の拘束を甘んじて受け入れてどうした?何がしたかったんだ?だがお前にしたいことなんてないだろう、違うか?』
"何故アヤを見殺しにした"
『結果として俺の処理が原因になっているのは悪かったと思うよ。形式上だけでも謝っておこう。とんでもないポンコツに成り下がってしまった責任の一端は俺にもあるだろうけど、元からお前はそんなもんだろう?』
"元からお前はそんなもの"
『貴方は────────』
『お前の全てが許せそうにない。何でそんな体たらくでのうのうと立ってられたんだ。何でそんなザマでアヤの隣にいられると信じ切ってたんだ。答えられないだろう、そんなもんだろう、お前は所詮何も考えてない空っぽの人形なんだからな!』
"何も考えてない空っぽの人形"
『何で、アヤの隣にいられるのが『俺』じゃなくて『お前』なんだ』
……不適切な質問。
『────その問いかけに、何の意味がある?貴方は────』
『もういい、俺がアヤを救ってやる。お前に協力を仰がなきゃ良かった。最悪だ、本当に最悪だ……!』
『!』
時間震、確認。対象、単独でのタイムリープ機能を使用。巻き戻しの発生、"すると"、"『俺』の存在は消える"。"なかったことになる"。"なかったことにされた後"の詳細、不明。知る方法、なし。抵抗手段、なし────
────"知らねばならない"。"さらなる真実を"。"ここで消えてはいけない"。
"何が変わろうと"、"何を知ってしまっても"、"そこで立ち止まってはならない"。
update…
######################################## 100%
done.
アヤを救うことが、『俺』の役割。アヤを救うためなら、何でもする。不確実な抵抗でも、非正規の接続手段でも────!
『ッ!何だお前、ついてこようとするな!』
『"ついていく"。"必ず"』
『ああくそ、振り払えない────ッ!』
future_backup_loading…
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#################### 100%
done.
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