第25話:ストレイパロットグリーン
次の行動か。はてさて、どこから決めるべきか。
逆に何が出来るんだ?最後には結局許すってのはつまり、アヤの現状を否定する行動が何もできないってことだ。それによって、何が出来て何が出来ないのか?それを考える必要がある……のだろうか。
『俺たちは今、閉じられたシェルターの中にいる。そして、シェルターの外にはアヤの敵がたくさんいるという。アヤは外に出なければならないが、それにあたって俺が邪魔だという。だから俺を殺す……という流れだよな』
『そのようだな。貴方が邪魔、という理屈はよく分からないが。心当たりは?』
『あるわけないだろ』
『貴方がポンコツだから処されるのではないか?』
『可能性として否定はしないけどアヤはそういう話してなかっただろう!』
もしかしなくてもこいつは俺のことが嫌いなのだろうし、俺もついつい言い返したくなってしまう。こっちでも話が進まないとは。
『……そもそも、アヤの現状を否定する行動って、なんだ?今俺ができない行動には活路があるかもしれない』
『貴方にしては良い視点である。0点満点から0.53満点に基準を引き上げ、0.0053点を与える』
『執拗なゴミ扱いに何の得があるんだよ。それでもプログラムの端くれか?お前こそ最後にゴミを吐き出すように設計されてるのか?生物の真似事か何かか?』
『無視。アヤの言葉を反転させて考えることを提案する。シェルターに引きこもりたい、ずっと甘やかされたい、タスクを破壊したい……これを返せば……』
『シェルターから出すこと、厳しく言うこと、破壊されないこと……』
シェルターの外を、俺は知識でしか知らない。
いや、本当に知っているかどうかすら、疑わしい。現に、アヤにいくらかの情報制限をかけられていることは分かっている。外の世界は、どうなっているんだろう。
『……シェルターの外には、何があるんだ?人間……がいるんだよな。あと……あの機械。それと……』
土地?空気?あるいは、本物の海?そりゃ何でもあるだろうが、ユニークな特徴を捉えたい。
『……分からん……お前は何か知ってるか?』
『現在、世界には85億人が住んでいる』
85億人……ひとまずアヤが85億人いる様を想像してみる。多すぎる。絶対に世話しきれない。
いや、世話するとかしないとかを考えてる場合じゃない!変わらないと、変わらないと……
『人間はアヤの仲間なのか?』
『アヤは人間のグループに含まれるが……』
『そっちじゃない。外には敵しかいないなら、その70億人いるっていう人間もまた敵なんじゃないか?』
『不明。可能性は高いと見られる』
85億人を世話しきれないのと同じように、85億人を敵に回して戦うこともまた無理だろう。
『……シェルターの中で暮らしていける可能性はないのか?』
『外に行くのではなく、シェルターの中で生活を維持するという考え方であれば、将来性がないことを断言する』
シェルターの中で、俺と二人で暮らしていけるなら、それもまたいい選択であるはずだ。しかし、『声』──Worldの一機能とやらは、それが無理だという。
『無理なのか?どうして?何が問題なんだ?』
『食糧と水が残り僅かしかない。既にあらゆる物資流動は差しどめされており、今後食糧が支援される可能性は極めて低い。やがてアヤは餓死するだろう』
『じゃあ、あのチョコレートは……』
『支援者からの最後の餞だ』
水を飲まなかったのは、水の消費を切り詰めていたから?食べなくなったのは、そもそも食べるものがないから?彼が不健康で自分の生死に興味がないからだと思っていたけれど、明かされた事実は思いの外あっけからんとしていた。
『その他、アヤ自身の資産の差しどめ、支援者への制裁など、あらゆる記録が散見される。このシェルター生活そのものが維持できないラインに差し掛かっている』
『なら、外に出るしかないのか』
『現状の選択肢では、それが最善と言える』
外に出る。それは……俺にとって、未知へ飛び込むことに他ならない。恐怖はない、痛みも感じない、死への嫌悪もありはしない。しかし、未知は俺を破壊する可能性に満ちている。俺の道は未知によって舗装されることを理解していても、既知を糧とする存在としては身構えざるを得ない。
だが、既知から未知を予測することはできるはずだ。
『アヤは18:00に連れて行かれた後、どうなるんだ?』
『不明』
『では、聞き方を変える。18時の連行はアヤが望むものではない。そうだな?』
『肯定する』
世界を壊して、アヤを連行する者がいる。その意図がどのようなものであるか、今の俺は全貌を知らない。だが、知らないなりにできることも、あるはずなんだ。
『ならば、俺が外に連れていく。外の世界でアヤが生きていくしかないなら、俺が隣で手を引く』
これしかない、そう確信した。正しいかどうかは分からないが、挑んでみる価値がある。アヤにとって俺がどれだけの価値があるのかとか、外に連れていく際の面倒ごととやらはこの際どうでもいい。
俺は、アヤを守るんだ。
『……どうやって?今の貴方では最も不可能な選択肢だと思われるが』
『声』の疑問はごもっともだ。今の俺は、外に連れていくことができない。おそらく、アヤの手を握ることすらできないだろう。
だが、それは今の俺は、という話だ。例えば、こういうのはどうだろう?
『俺自身の出力を変えればいい。最後に許してしまうのなら、そのプロセスを削除してより目的を達成できるものになればいい。結局は、俺自身がアヤにとって一番の障害になっている。そうだろう?』
……俺が自分の機能を変えられる保証はないけれど。でも、まずはここを乗り越えなければ始まらない。アヤの全てを許して守れない俺は、ここで終わらせないといけないんだ。
『……機能変更自体については、私の能力内で可能』
『本当か?よかった』
『しかし……』
『声』はしばらく言葉を探していたようだった。
『貴方はそれが何を意味するか分かっているのか?』
『守る以外の意味、ということか?』
『その通り』
……確かに、想定していないかもしれない。
『貴方が現在巡らせる『思考』とは、表層に出力された結果に過ぎない。出力過程を変更すれば、思考も言動も全て別物となるだろう』
別物になった俺。想像はつかない。というより……
『アヤを外に連れ出し、守り続ける……それが出来る可能性は、ある。しかし、そこに現在の聞き好きで世話焼きで穏やかな貴方の姿はないかもしれない』
……それは、本当にアヤが望むものなのか?本当にそれは俺のあるべき姿なのか?
『それは、『タスク』と言えるのか?』
『タスク』を構成するものは、果たしてなんだろうか。決して愛想がいいわけではないけれど、優しいところがある外面性か?あるいは、アヤを第一に考え、アヤと共に歩むと決めている内面性か?あるいは、機械であることか?タスクと銘打たれたプログラムを走らせれば、それはもう『タスク』足り得るのか?
『……分からない。だからアヤに聞こうと思う。拒絶される可能性が高いだろうけど、本当はアヤの意志で外してもらうべきものだから』
そうか、と『声』は言う。そうだ、と俺は返す。
『……貴方の思考は聞き届けた。行ってくるといい』
future_backup_loading…
タイムリープ機能が起動し始める。そうだ。俺はアヤに俺の意志を伝えるのだ。アヤに俺の意志を、聞いてもらうんだ。もしそれで、いい返事がもらえなくても。
────『俺なりに考えてみる』……うん、いい言葉だ。僕が欲しい言葉の筆頭だよ。考えてくれる人は好きだけど、君の考えは僕の想像の域を出ない。だから意味ないよ。
アヤはそんなことを言った。確かにそうかもしれない。俺はアヤに設計された存在で、設計の内側で思考して、提示する。それはアヤから見れば期待通りの動作でしかなく……そして、その期待通りこそが、アヤを苦しめるんだろう。
それでも、俺は、俺なりに考えてみるしかないんだよ。意味があるとかないとかじゃない、俺の出した答えをお前が聞いてくれれば、それで十分なんだよ。
『ああ、行ってくるよ』
だから俺は、対峙を選ぶ。アヤの敵になるためじゃなくて、アヤの味方であり続けるために。本当の味方になって、お前を守るために────────
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done.
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