第18話:ヘイジークエスチョン
『そこで寝るから貴方はポンコツと罵られるべきなのである』
結局、あの後俺は寝てしまったようだった。ハッと目が覚めたら16時。洗濯はとっくに終わっていて、俺は慌てて洗濯物を干していた。
干していたら、なんか嫌がらせが来た。真実なので反論はできないのだが……
『いいじゃないか別に!もういっぱいいっぱいで寝るしかなかったというか』
『ポンコツとの押し問答に価値はない。しかし、私は寛大であるためポンコツに情報を共有する。アヤはその後、昼寝も取らず一人で外に行ってしまった』
『……うーん……』
ポンコツは余計だが、その通りなのだ。チョコも食べない、シャワールームで変なことする、そして昼寝すら取らずにどこかへ行ってしまう……アヤの行動は大きく変わってしまった。
これから何が起こるのだろうか。俺は、アヤの行動を拾いきれるのだろうか。アヤのことについて、何か分かることはあるんだろうか。
そして……また今回のような、シャワールームでの一件と同じようなことが起こったとして、その時の俺はまた『正解』を引けるのだろうか。アヤは安定を好むが、他人から同じことをされるのは割と嫌がる。
たすけて、といったとして、アヤはまた助けてくれるのだろうか。……助けてくれないだろうな。
『……そういえば、銃は実在しないって言ってた件。アレはなんだったんだ?』
『覚えていて偉いな。5点を謹呈する』
『……何点満点だ?どうせ1兆点あたりだろうが。限りなく0に近いから0点って言うんだろう』
『貴方は永遠に0点満点であり、いくら加点しても価値はない』
許されない……
『銃の件であれば、言葉通りだ。銃は実在しない。銃が存在するかのように貴方が認識しているだけだ』
『んん……?』
どういうことだ?銃は実在しないが存在するかのように認識している……それは……つまり……
…………どういうことだ?
『現在の貴方には説明しにくい。ゴミカスめ』
『ゴミカスは言えるのかよ。なんなんだよお前の基準は』
『何にせよ、貴方の死因は銃殺ではない。銃は飾りであり、貴方を殺すものは別のところにある』
銃は実在しなくて、銃声も引き金を引く動きもあったけれど銃殺が死因ではなくて……
ううん、意味がわからん。
『しかし、アヤの行動を阻止することで死は回避できる可能性がある』
『本当か』
『貴方の死は仕組まれたものではなく、アヤのその場の行動によって引き起こされるものだからだ』
それもそれで……なんか……
こいつもこいつで何か隠してるのは明白だ。
目標は信じるとしても、どこまで俺の知らないことを把握してるのか……
今だってそうだ。
銃は実在しない、しかし存在しているかのように俺が認識しているだけ。俺の死因は銃殺ではない、でも俺は殺される。
アヤの行動によって俺は死ぬし、アヤの行動を止めれば死を免れることができる……
何でそんなことを知っているんだ?知っててもなお、こいつは何も出来ないってことか?
また分からないことが増えてしまった……
……本当に何も知らないのは俺だけ、か。
『そもそもの話だが……』
『おう、うん』
『前回、貴方は展開を知りながらもそのまま殺された。何故、抵抗しなかったのか?』
『…………』
え……なんで、だろう……
『貴方は銃で撃たれると分かっていた。生き残ることで真実を知る、それが目的の一つだったはずだ』
そうだ。俺は選択肢を得られればいいと思っている。最後に生き残れるのなら、それが最もいい選択肢のはずだ。でも、俺は。
『それでも、貴方は無抵抗だった。それが私から与えられる唯一のヒントである』
再び、内側がざわつく。
何か、触れてはいけないものに手を伸ばした確信がある。
でも、これまでだってずっと触れてはいけないものを抉り続けてきたんじゃないのか?そう、例えば────
ハグをした時。
チョコレートを要らないと言った時。
シャワールームでの全て。
あるいは、もう、最初から────
────考えてはいけない。
そう思い直す。こんなことを考えている場合ではない。
何か別の、アヤに寄り添って出来ることがあるはずだ。
『……哀れな』
そんな言葉を言い捨てて、声の主はいなくなった。
……ふん、哀れでもなんでも構わない。とりあえずアヤを探しに行こう。
アヤを探して、アヤの隣にいて、アヤと話して……
……話して、どうするんだ?
そんなことを考えているから、俺はダメなのか?
そういったこと以外を、考えてはいけないんじゃないのか?
……ああもう、考えがずっとまとまらない。アヤに会えば、こんなことも収まるはずだ。さて、どこにいったのだろう────
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