第12話:ブルースクリーンデッドオアアライブ
そもそも『ボムマンズ』とは何なのか?
ジャンルはストラテジー。地力と駆け引きと定石の応用、そして運がものを言う、アドリブ・陣取り・爆発アクションだ。俺はゲームに詳しくないが、一部で根強い人気を誇るシリーズらしい……
……のだが。俺はその駆け引きが絶望的に苦手だ。アドリブも苦手だ。なんなら全ての癖をアヤに把握されている。だから負ける……すごく当たり前の話である。勝てる要素がどこにもない。
俺は正直すぎる。その自覚はもちろんある。向こうが何を考えているのかを探るのは苦手だし、アヤを前にするとすごくいけないことをしている気分にもなってしまうのだ。
アヤに勝つとか、アヤを出し抜くとか、そういったことを今まで考えたことがない。ゲームだって、正直なところ勝とうが負けようがどうでもよかったのだ。アヤが楽しんだのならそれが全てでしかない……
しかし、今は違う。俺はアヤから何かを引き出さなければいけない。つまり、だし抜かなければいけないのだ。生まれて初めて、俺はアヤに勝たねばならない状況を迎えている。
……もちろん、アヤが何かを隠しているのならそれでいいじゃないかと思う自分もいる。しかし、今は不思議と真実が何なのかを知りたいという衝動が勝っている。この衝動を無視したら、それこそ良くないことが起きる気もしてならない。
だから、勝負をするしかないのだ。
初めてだろうがなんだろうが、やらねば0回、やれば1回。この場合の0と1の間は、決して存在しない。
コントローラーを互いに握りしめたところで、アヤが声をかけてきた。
「ルールはどうする?ハンデつけてあげようか?」
「いつものでいいよ。ハンデつけて勝っても嬉しくないんじゃないか、自分がとことん格上だって分かったら、ちょっとやる気をなくすものだろう」
あえての豪語。こういうのは実力ではなく、はったりが重要だ。
「……確かにね。でもこれまで149連大惨敗の君が言ってもかっこ悪いよ?」
「確かに。それじゃあ、『今日』で大惨敗記録を切れるように頑張らないとな」
「……」
アヤの視線が俺の顔、胸、腕、そしてコントローラーを握りしめている手へと。
しかし、特に何を言うでもなくスクリーンへと視線をうつした。ともなって、俺も前を向く。
「……それじゃ……」
一瞬の空気の張り詰め。後。
「スタート」
ゲームがスタートした。俺とアヤの操作キャラクターが盤上へと放り出される。
この手のゲームにおいて、相手がどう出るかを読むことは一番大事だ。俺はこれまでのアヤの行動を全部見ていた。それを生かして導き出せるのは──
「ッ!?」
アヤが息を呑む音が聞こえた。驚いてくれて何よりだ。
『アヤならここに打つ』という先読み。
『アヤならこれを選ぶ』という布陣の定石。
『アヤならここに賭ける』という確率の精査。
俺にはそれができる。勝てるかどうかじゃない、ベストを尽くすかどうかだ────!
「……ほんとに、生意気なことするじゃないか……」
────アヤは笑っていた。完勝するのも楽しいが、いい勝負をするのも楽しい。その言葉は間違いなく本当なのだと理解した。
それを知れただけでも、この勝負を仕掛けた価値があると思った────
「……ゲームセット」
「……参りました」
結局負けてしまった……
しかし、残り1分になるまではいい勝負をしていたように思う。
最後にはアヤに色々出し抜かれてしまったが……これは、惨敗ではなく惜敗……と呼ぶべきものなんじゃないか?
「……君さ。僕の手を真似たよね」
「……そうだな。それがどうかしたのか?」
あのさあ、とアヤが嘆息する。
「僕の手を真似ただけじゃあ、僕と互角以下にしかならないに決まっているじゃないか。何でそれで勝てると思ったんだい」
……………………たしかに。
「その通りですマジで」
「こういう時にすごく馬鹿だな君は……」
アヤが指で俺の頬をつついてくる。だが、その顔に浮かんでいたのは呆れ顔ではなく、極めて自然体な微笑みだった。
「……でも、楽しかったよ。……ありがと」
結果として何かを引き出せたかは分からないけれど、アヤが楽しかったのならそれに勝るものはない。
「これで149惨敗、1惜敗だな。……どう、いたし……」
突如として、めのまえがぐらりとゆらいだ。
あ、あれ……?
なんかからだがあつい。なにがおこってるのか、よくわからない。
あたま、つかいすぎたのかな……
「!」
アヤがあわててる。それはわかる。アヤがいる。うん、よかった。
「うわあっつ!ああもう、何をしてるんだか君は……!」
うう…………眠、倒、休…………
よろしければ、ブックマーク、いいね、感想、評価のほどよろしくお願いします。




