プロローグ:白は最も汚い色
君が崩れ落ちる様を、僕は遠くのことのように眺めていた。
君の最期はスローモーションでエモーショナルでショッキングな……冗長なものに映るのか、はたまた何気なく等速で過ぎ去るものなのか。その答えはどうなるかを密かに楽しみにしていたけれど、その結果が何であれこれからの僕に関係はないことに気づいて、ゆるく首を横に振る。手にした『銃』をゆっくりとおろし、その場から立ち去ろうとして────
────倒れ伏した君へと、振り返ってしまうのだ。
ぴくりとも動かなくなった君の姿は、さっきまでの元気な姿とは程遠い有様だ。
ああ、そういえば。君にも血は通っていたんだよな、とか。でも血が通っているからなんなんだろう、とか。君は話してくれてこそだよな、とか。でもこれからはその会話すら不要になるんだよな、とか。
様々な思考が頭をよぎっては、追い出して、よぎっては、追い出して。やがてはぐるぐると歯止めが効かなくなって、ため息を一つ。
「くだらない」
僕が望んだから、君は死んだ。それ以外の事実は存在しない。全ての行いには責任が伴うし、全ての選択には結果が伴うのだ。
ああ、そうだ。僕が。僕が。ずっと僕が。最初から、最後まで。ずっと。選択肢がない中でずっと僕は、一本道を走ってきて。後悔はないつもりだったのに。ああくそ。
もし、もしのことだけれど。
あの日の僕があの選択をできたら。あの日の僕があんな選択をしなければ。
僕と君は、一緒にいられたのだろうか。
「……くだらない」
ぎりと奥歯を噛み締めて、僕は『銃』を投げ捨てた。人生にたらればを持ち出すやつは、馬鹿だ。取り戻せない過去を憂いて、ありもしない未来に縋るやつは、どうしようもない馬鹿なのだ。そうだ、僕とて所詮は、馬鹿の集いの中の一人でしかない。
ああそうだ。なんてことはない。結局はいつも通りじゃないか。
いつも通り、僕が悪い。
いつも通りに僕が原因で、いつも通りに僕のせいなのだ。
「はは、ははは、アハハ…………」
ああ、君が生きてなくてよかった。倒れて、動けなくなって、その耳が既に機能を失っていて、助かるよ。
こんな汚い笑い声、君に聞かれたら僕はどうにかなってしまうと思うから。
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