3殺 決闘ですわ~
《sideシューベラ・タクンサー》
私が仕留めようと思っていた庭師。彼は予想外の動きで私の攻撃を躱したあげく、私を取り押さえましたわ。このまま反撃をくらって私は死ぬ。
そう思ったのですが、これもまた予想外なことに、
「お嬢様……何かやりたいことがあるなら、私が協力しますよ」
彼はそういて、手を差し出してきましたの。私、思わずその手を取ってしまいましたわ。それによって、私の運命が大きく変わるなんてことも知らずに。
……その手を取ってから数年。
「君のやったことは到底看過できない!この僕が、決闘を申し込む!!」
私へ投げつけられる手袋。決闘を申し込む証ですわ。
投げつけてきたのはこの国の王子。何度も許嫁になったり結婚したり婚約破棄されたりした、私にとってもなじみ深い方ですの。最初の頃の人生では恋をしておりましたが、今はもうそんな気持ちもありませんわね。ただ、頭の緩いお坊ちゃんにしか見えませんわ。
因みに、こんな決闘を挑まれたのは2度目ですの。死に戻りのことなど知らなかった最初の人生以来ですわ。
ただ、最初の時とは違って、
「俺からも」
「私からも申し込ませてもらおう」
「俺もだ」
「…………」
その手袋は5つ。つまり、5人から決闘を挑まれましたの。
私とて鍛えてきましたので2,3人なら問題ありませんわ。ただ相手は子供とは言え、流石に5人ともなると厳しいと思いますの。
これでもこの5人は天才と言われ、それぞれ同年代とは比べものにならないほどに強いんですわ。才能があるのは勿論のこと、5人とも王子だったり公爵家の息子だったり宰相の息子だったりして、受けてきた教育もレベルが高いんですの。
全員が相手となると、私では勝てませんわ。
……私では。
「騎士達。誰か勝てる物はおりますの?」
まず、私の騎士に聞いてみますわ。
しかし、当然ながら誰も出てはきません。勝てる自信がないのでしょう。それに、ここで戦えば王家や公爵家などに敵対を示すことになりかねません。避けたいというのが分かりますわ。
そんな騎士達が嫌がる様子を見ながら、
「あらぁ。誰も勝てませんの?困りましたわねぇ」
なんて白々しく言ってみます。
なにせ、分かっていますからね。私には彼がいると言うことを。
「……お嬢様。でしたら私が」
私の横から出てくる1人。
全身黒いコートを着ていて、顔には仮面を被っておりますの。とても間抜けそうな顔の仮面ですわ。……確か、ひょっとこ?という仮面らしいんですの。
「あら。ピエロ。やりますの?」
「ええ。勝てるとは言いませんが」
そんなことを言って肩をすくめるピエロ。
私が殺そうとした庭師だった彼は、本名を名乗るより偽名の方が悪っぽいという訳の分からない理由でピエロと名乗っておりますの。最初こそこの格好を馬鹿にしておりましたが、この数年彼とともに歩み、今は彼の強さと優秀さは誰よりも知っておりますの。
だからこそ私は、
「ええ。でしたら、やりなさい」
「はい。お嬢様」
ピエロは頷きます。
そんな私達のやりとりを見た決闘相手達は、
「君が俺たちの相手?」
「おいおい。それはないだろ」
「考え直せ。君は弱すぎる。ふさわしくない」
口々に好き放題言ってきますわ。本当に弱すぎてふさわしくないのはどちらかと言いたいとことですけど。
しかし、私もピエロもその誤解を訂正したりしませんの。それよりも、
「すみませんが、私が相手をさせて頂きます。私としても、ここは良いアピールの機会ですからね」
「「「「アピール?」」」」
ピエロは誤解を加速させる方で話を持って行くようですわ。全員首をかしげておりますの。その様子にピエロはわざとらしく頷きながら、
「ええ。ええ。アピールですよ。天才と言われる皆さんと戦って良いところを見せられれば、良い待遇が期待できますからね」
そう言ってピエロは決闘相手の後ろ。貴族や王族などが集まっている場所に目を移しましたわ。これはまるで、良いところを見せて私ではない誰かに雇われたいと言っているよう。
決闘相手の5人もそう解釈したようで、
「なるほど。そういうことか」
「それなら分かった。……負けることもさして問題ではないということか」
「いいぜぇ!まずは誰と戦うつもりだ?」
なんて言って、それぞれ準備を始めましたわね。それにぷいエロは余裕のある声で、
「そうですねぇ。では全員でお願いします。私も生き残るだけならなんとかなるかもしれませんから」
「ははっ。全員か」
「自信はあるようだな。……いいだろう」
「腕が鳴るぜ」
なんだか戦いが始まりそうな雰囲気ですわね。これだからこの5人は嫌なのですわ。大切なことをすぐに忘れてしまうのですから。
「あら。何を賭けるかも決めずに決闘を行なうつもりですの?」
私はそれを問いかけます。5人ははっとした表情に変わってその足を止めました。やはり忘れていたようですわね。
ピエロの方は仮面の所為で何を考えているのか分かりませんが、先程から動いてはいなかったので覚えていたのでしょう。
「そういえばそうだったね。じゃあ、僕たちが勝ったらシューベラ嬢の公爵継承権放棄。もし負けた場合は……」
王子がそう言って周りを見渡しましたわ。貴族達に求めていることでしょう。盛り上がる何かを。
そするとそれに応るように、
「全ての家が金貨100枚でどうですかな?」
「いえ。男爵が金貨100枚で、それより爵位が1つ上がることに金額が2倍になるというのはどうですか?」
「おお!それは良いですなぁ」
貴族達はそれに応えていきますわ。……間抜けですわね。
まあ、だまされていると気付かない間に、
「……はぁ。そんなに参加する貴族が多いと契約書を交わすのが大変なのですけど?」