2殺 転生だよ
《side???》
ボクは転生者だ。気付いたらなぜか赤子に生まれ変わっていた。
ただ、ボクが転生者でここが普通の異世界ならただそれだけで良かった。適当に知識チートでも活かして金持ちにでもなれば良いからね。……でも、ボクはそれだけでは足りないと悟った。
なぜなら、この世界が物語の中の世界だと気付いたのだから。
この世界を表していると思われる物語の名前は『悪役令嬢の100周人生』というもの。所謂乙女ゲームなどに出てくる悪役令嬢が死に戻りを繰り返す。毎回色んな変化があるんだけど、そんな人生の1つ1つを細かく描写した作品。死に戻りするごとに主人公のシューベラが成長していき、死に戻りの謎を解き明かしていくのが魅力。
なんだけど、
「そこの花を植え替えておいてくれるか?」
「分かったよ父さん」
ボクの生まれた家、いや、ボクという存在自体が問題だった。
この世界が、主人公であるシューベラにとって何周目なのかは分からない。ただ、1つだけ、1つだけボクが出てくると思われるルートがある。それが22周目。シューベラが大虐殺をするルート。
何段階かの計画を立てて世界中を大混乱におとしめるんだけど、最後の最後、所謂乙女ゲームの主人公みたいな子が、自身の闇落ちした状況と同じ状況に置かれたのに折れないところを見てその子に心打たれるというのがこのルートで1番重要なところだった。
このルートの前までは、主人公枠の子にシューベラは苦手意識を持っていた。1番最初の人生で婚約者を取られて、しかも復讐をしようとしたらそれが失敗して処刑されることになるからね。でも、ここで心を打たれたシューベラは主人公枠の子を信用するようになっていく。これ以降のルートだと主人公枠ちゃんはずっと親友みたいなになってたからね。
で、そんな主人公枠ちゃんの優しさを知る虐殺ルートにおいて、最初の被害者となるのがボク。名前すら出てこない、庭師の息子。
「おい聞いたか?次の当主はシューベラ様だってよ」
「へぇ?候補じゃなくて、もう決定なんだ」
「おお!お前と同い年だって言うのに凄いよなぁ」
シューベラが次の公爵となる事が決まった。この時期にこうなるのはかなりルートが絞られてくるんだよね。そして、その中には……虐殺ルートが入ってるんだよね。
「今日はそこのを片付けておいて貰えるか?裏だからそこまで綺麗にしなくても怒られることはない」
「はぁい。分かった」
最近、ボクはこんな風に1人での仕事を任されるようになったんだけど、その時は凄くピリピリしてる。1人で仕事をしていてミスをしちゃうんじゃないかと考えているわけでは勿論なく、シューベラが殺しにやってくるんじゃないかと警戒している。
「……ふんふふ~ん」
そして今日も、警戒(?)しながら庭仕事をしている。そんな時だった、
ガサッ。
「っ!」
微かな。本当に微かな足音。ボクは息をのむ。
何も気付いていないというフリをしながら、金属製のスコップを鏡のように使って背後を確認……いるね。シューベがボクを見て……あっ。石材を取りに行った!
これは虐殺ルート確定だねぇ。確実にボクのことを仕留めに来てるじゃん。どうしよう。……まあ、どうしようって言ってもやることなんて1つしかないんだけどさ。
ボクはできる最大限のことをやって……生き残る。
「よいしょ」
ボクは気がついていないフリをしながら、花を植え替えていく。でも、そうしながらも耳を澄ませ、少しずつ近づいてきている足音を聞く。かなり近づいてきたところからは、足元に置いてあるスコップに姿が映りだしたからそれも見る。
ゆっくりと綺麗な姿勢で近づいてきて、ボクのことを攻撃範囲に捉えたシューベラ。その石材を持った手を大きく振り上げ、
「ふっ!」
「っ!?」
振り下ろされる瞬間、ボクは横に体を倒し、片足を引く。そしてそのまま手をついて安定した姿勢を作り、引いた足で、
「はっ!」
シューベラの石材を持っていない方の手を蹴り、体ごとに吹き飛ばした。綺麗に決まったねぇ。
ボクの蹴りを受けたシューベラは驚愕して目を見開き、ゆっくりと倒れ込む。それからワンテンポ遅れて口を開こうとするけど、その前にボクが飛びかかって口を塞ぐ。
「ん~~~!!!!!」
ボクの手に抑えられ、響かない叫び。ボクに飛びかかられて自由をなくしたシューベラを、そのまま地面に押し倒す。
……さて。とりあえず死ぬのは回避したけど、ここからが本番みたいな物だよね。ボクは覚悟を決めて笑みを浮かべ、
「お嬢様……何かやりたいことがあるなら、私が協力しますよ」