もしも人類最強の令嬢だったら
「ベルゴ嬢! 君との婚約は破棄させてもらう!」
学園主催の披露宴でのそれに、場に集まる人々はざわめきの声を上げた。
そんな中、王子は冷や汗を滲ませながら相手を睨め付けている。
「今まで君が行ったその狼藉など、もはや言うまでも無いレベルで不敬! これ以上、無様な姿を晒すのならば……」
「だぁれが無様だってぇぇぇっっ!?!?」
「ぎゃああぁぁぁっっ!!!」
ベルゴ嬢……筋骨隆々のマッスルガールなご令嬢は、タックルかまして王子を吹っ飛ばした。
壁に激突して崩れ落ちた相手へ、拳をゴキゴキさせながら目を光らせる。
「で、なんだって? 誰が、誰の婚約を、破棄するんだってぇ!?」
「くっ……あ、相変わらず馬鹿力……」
「誰が馬鹿だってぇああああぁぁぁんんっ!?!?」
「ぐわああぁぁぁぁっっ!?!?」
窒息し死者すら出かねない逆エビ固めで王子は固められ、悲鳴を上げていた。
場外へタップしてタオルを要求するも、ほわ~んとしたつぶらな瞳の王様は言う。
「諦めなさい、王子。婚約したからには何事もねぇ、責任ってのがあるわけだし。ねえ王妃ちゃん」
王様の言葉に、前髪を隠した王妃は微笑む。
「ええ、そうよ……ちゃんと責任取ってあげなさい、王子」
「いやいやいや!? 会えばいつも技をかけられる僕の身にもなってくださいよ!? ってギブギブギブッ!!」
「いやぁ、ベルゴ嬢は凄いねぇ。一目惚れしてそのまま婚約させてください~って言うんだもん。なんか王妃ちゃんの時を思い出したよぉ」
「わかるわ。私も一目惚れしやすかったら……ああでも、今は貴方一筋よ」
「もちろん僕も君一筋だよぉ」
「うふふ……裏切ったら首だけにしちゃうからね」
「あははぁ良いよ~。君だったら首だけになってもかまわないからねぇ~」
「もう、お上手なんだから……!」
デレデレしあう国王夫妻そっちのけで、王子はベルゴ嬢へ言いつのる。
「だ、だ、だからぁ!! 君のその粗暴なところを治してくれと言っているんだ!!」
「アタシのど・こ・が! 粗暴だって言うんだいっ!?」
「現在進行形で粗暴されてるんだけど!?」
「これがアタシの愛情表現だよおらぁぁっ!!!」
「ぎゃああぁぁぁっっ!!!」
首がゴキッてなる恐ろしいドラゴンスープレックスによって王子が撃沈。
カンカンカーン! とゴングが鳴り、令嬢は吠えた。
そんな阿鼻叫喚の只中で、ベルゴ嬢の父は感涙に噎び泣いた。
「ああ、あの病弱だったベルゴがあんなに立派になって……うう、神よ! 感謝します! でもできればもうちょっと筋肉率を減らしていただけると尚のことよ」
「お父様ぁぁっ!!」
「あ、はい」
ベルゴ嬢に呼ばれる父。
いつ見ても筋肉の圧迫率が凄い娘へ、父は尋ねた。
「それで、ベルゴ。婚約破棄だそうだが、どうするね? まあ彼の言うことはわからんでも無いのだが、もう少しお前もお淑やかにすれば王子も考えなお」
「お父様、武闘会を開きますわよ!!」
「……はい? 舞踏会?」
否、武闘会である。
哮るベルゴは筋肉をピクピクさせながら叫ぶ。
「王子はまだまだ筋肉の素晴らしさがわかってないみたいだわぁ……だから!! 大陸中の猛者を呼んで武闘会をするのよ!! そうすれば筋肉の素晴らしさがわかろうってなもんよぉ!!」
「いやぁ、でも流石にそれはちょっ」
「やらなかったら武者修行の旅に出るわ」
「オッケイ任せたまえ我が娘!! その程度の大会なぞちょちょいのちょいで開催してあげよう!!」
妙な高笑いをする親子を前に、王子は死にかけながら頭を抱えた。
「ああ……頼むから、誰か、誰かアレをなんとかしてくれ……! あんなのより酷い婚約者なんてこの世には存在しないに違いないっ……!」
「あ、王子。アンタも出るんだからな」
「ええっ!?」
こうして急遽、天下一を決める王国武闘会が開かれ、恋愛漫画路線から大陸中の猛者がひしめき合うバトル漫画路線へと突っ切っていくのである。
ちなみに王子は一回戦敗退した。
「勝てるかあんなんっ!?」