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…どうしてこうなってしまったのだろうか。


「ほれほれ、次はあっちだ。早くしろ。」


絶対にこんなつもりではなかった。


「立て。早くしないと人間共が列をなしてしまう。」

「わ、分かったから引っ張るなって。」


その黒目がちな大きな瞳を輝かせ、小さな手で俺の服の裾を掴むフレアは、なんだか想像していたよりも遥かに楽しんでいる。


「またあれに乗るぞ。」

「…また?俺もう死にそう。」


老若男女の絶叫が響き渡るジェットコースターを指さす姿に、俺は思わず肩を竦める。


昨日約束した通り、今日は家から1時間ほどの遊園地へやってきた。

フレアを元気付けるためと言えばそうだが、半分くらいはフレアに人間界の恐怖というものを味わってもらおうという意地悪である。

まぁせいぜいジェットコースターに2、3回乗ったらあの頑固な吸血鬼も降参するだろうと思ったが、平日なのをいいことに少なくともその3倍は乗っている。

…逆に俺が虐められている気分だ。


「怖くないのか?」

「楽しいぞ。我の世界にあんなものはなかった。」


白いレースに身を包みニコッと笑う彼女を見れば、まぁそれならいいか。と思えてくる。


いつも通りしっぽはワンピースの中にしまってあるが、今日は角を隠す為のキャップは被っていない。

出発する直前に、あのキャップはダサいと騒ぎ立てられたからだ。前は被っていたくせに。

だから仕方なくなにも被らずに出てきたというわけだ。

一応遊園地だし、その可愛いらしい角をさらけ出していてもきっと髪飾りか何かだと思われるだろう。


もう顔を覚えてしまったその女性スタッフに笑顔を向けられ、俺は縮こまりながらシートに座る。

フレアは頬を染め興奮した様子で足をぶらぶらしている。

ワンデーパスを取っておいてよかった。一応この方金欠なのだ。


「それでは宇宙の旅へ、いってらっしゃーい」


その声と共に尻に振動が来る。

俺も決して絶叫系に弱いわけではないが、流石に。

…吐きそうだ。


「来るぞ来るぞ」

「…」

「ふぉぉぉぉぉぉ」

「ぎゃーーーーーー」


ガコン、と一回り大きな衝撃が着た瞬間。

宙に浮いていた。

本日何回目かの恐怖の宇宙旅行に俺は髪を逆立てて絶叫する。

多分ほとんど目は開いていない。というか開きたくても開けない。

開きたくもないが。

その後もGによる攻撃で首やら背骨やらが折れそうになるのをぐっと堪え、ようやくあのお姉さんのいる場所へと戻ってくる。


「お疲れ様でした~」


ゼェゼェと肩で息をしながらトロッコを降り、俺はなるべくジェットコースターから離れようと小走りで向かう。


「おい、歩くのが速いぞ。」

「…」


急ぐ様子を全く見せないフレアの手を引き、やっとベンチへ辿りついた頃にはもう放心状態だった。


「怒っているのか?」

「…怒ってないよ」

「そうは見えないが。」

「…とりあえず休ませてくれ。」


少し眉を顰めてこちらを覗き込んでくる彼女には申し訳ないが、あと数分は動けなさそうだ。


「人間は脆いな。」


君たち吸血鬼が強いだけじゃないか、と思ったが黙っておいた。

フレアは暇になったのか、自分の髪の毛をくるくると人差し指に絡めて遊んでいる。

それは黄金の光を受けまるでルビーのように美しく、そして妖しく輝いている。

人々はみな彼女を見ると心底惚れ惚れした様子でほぅ、と息を零して通り過ぎていった。

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