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「それで。」


さっそくワンピースを着た彼女をベッドに座らせ、俺は床で胡坐をかく。

服は要らないと言っていたが、やはり少しは嬉しいのだろうか。

時折レースのついた裾を持ち上げてみたり、くるりと一周回ってみたり。

そんな幼い姿を見ていると、彼女が吸血鬼だという事を忘れてしまいそうになる。


「君、名前は?」

「…フレアだ。」

「フレアはどうしてここに?」

「そんなの我にも分からん。寝て起きたら隣にお前がいた。」


不審者かと思ったぞ、と肩をすくめるフレアに同情する。

俺も一番最初フレアを見た時は、迷子か不法侵入者かだと思った。

不法侵入者はあながち間違っていなさそうだが。


「親は?」

「そんなものいてたまるか。吸血鬼だぞ。」

「そういうものか。」


親がいないのであれば、その小さな体はどこから生まれたのだろうか。

ゾンビのように誰かの血を吸って繁殖していくのか、それとも神様が指パッチンをしてどこからともなくパッと現れるのか。


「そうだ。吸血鬼ってことは血を吸わなくちゃいけないのか?」


そんなメジャーな質問をしてみると、フレアは右の口角を少し上げて腕を組むんだ。

同時に先程まで横たわっていた細い尻尾をブンブンと横にふり、頬を健康的な色に染める。


「そんなのは下級の奴らだけだ。我は人間の血なんぞ吸わなくても生きていける。」


どうやら、自分が上級階級だという事を自慢したいらしい。

その興奮した様子はまるで餌を前にした犬のようで、思わず笑ってしまう。

すると案の定、「おい、何笑ってるんだ。」と怒られてしまった。


「逆にお前は何なんだ。」

「俺?」

「そうだ。今は平日の昼間だぞ。しごととやらに行かなくていいのか?」


仕事。

その言葉を聞くと頭が痛くなってくる、ニート特有の症状に襲われる。


俺が年甲斐もなくだらだらと毎日を過ごしてしまっている根本的な原因は大学受験の失敗だ。

言い訳をするとすれば、大学受験の心臓と言っても過言ではないほど重要な夏休みに親が死んだ。

二人は新婚旅行で海外へ行っていて、母の夢だったという豪華なクルーズ船に乗っていたところ、船もろとも海の中に沈んでいった。

原因はバラスト水の操作。

基準を半分も満たしていなかったらしい、と後で親戚が教えてくれた。


だがもちろんそんなのは受験に落ちる理由にも言い訳にもならない。

近い親戚が受験料、大学の費用も負担してくれると言っていたのに、俺はその恩を全落ちという仇で返した。

その後も俺は立て直すことなく一浪二浪と引きずり、いつの間にか受験をする事すら諦め、今に至る。


要はメンタルが弱かったんだ。


「…子どもに言う事じゃないよ。」

「我は1200歳だぞ。」

「え?」

「ほれほれ。早くひれ伏すのだ。」


フレアは何ともない風に言ったが、俺はその思わぬ返答に目を見開く。

どうやら吸血鬼というのは年を取っても見た目は子供のままらしい。

いや、ある一定のラインを越えたら大人の姿になるのか?

聞きたいことは沢山あるが、そろそろ飽きて髪を弄り出した彼女に質問攻めをするのは可哀そうだ。


「じゃあ、今までもこの世界に来たことがあるのか?」

「その時は自分の意志で、だったがな。」


夕日に照らされ、朝とは違った雰囲気をみせるその髪の毛を器用に三つ編みにしながらフレアは続ける。


「この間は確かザビエルとかいう奴と団子を食べたな。懐かしい。」

「…え?」


その発言に思わずひれ伏そうと彼女の方を見上げると、いつの間にか寝息を立てて眠っている。

子どものような寝つきの早さにびっくりするが、ああ、そうだ、この子は1200歳の子どもなんだ、と妙に納得する。

その手には朝と同じブランケットが握られていた。

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