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「ここはどこだ。」

「君の服を買うところ。」


やっと目的地に着いた。

思わず溜息をついた俺に向かって不服そうな顔をみせるのは俺を困らせた張本人。

彼女は吸血鬼だからか、この世界のものが珍しいらしい。

信号機を見ては「あの三つ目のものはなんだ」と叫び、車を見ては「この世界には変な生き物がいるんだな。」と走って近寄る。さらには彼女と同じくらいの子供を見ると「元気に育つんだぞ、人間。」と声を掛けて回るのだからたまったもんじゃない。

結局普段なら10分でつく道のりが30分もかかってしまった。


「服など我は要らないぞ。」


なんてったって、吸血鬼だからな、とすました顔をする彼女の頭をわしゃわしゃと撫でる。


「君が良くても俺が困るんだよ。試しに裸のまま家にいたとして、何かの間違いで誰かが家に入ってきてしまったらどうするよ。俺の世間体が死ぬ。」


まぁ元からマイナスの世間体だ。

これ以上悪くなってもあんまりダメージはないかとも少し思ったが、余計な事は黙っておく。


「む、難しいことはわからん。ならさっさと服を買いに行くぞ。」


そう言ってずかずかと歩いていく小さな体。

広いフロアを自由に動きまわったと思えば、エスカレーターの前まできて立ち止まった。


「ここにも変な生き物がいるな。」


また始まった。

後ろからは何人かの家族連れが歩いてくる。邪魔にならないうちにどこかの店に入ってしまおう。

そう考えた俺は若い子の後を追うことにした。

もちろん変な意味ではなく、最近の若い子はどこで服やアクセサリーを買っているのか知りたいからだ。

吸血鬼だっておしゃれはしたいだろう。

そしてたどり着いたのはピンクや黒、白など可愛らしい色で統一された可愛らしい店だった。

最近よくテレビで流れている8ビートの軽快な音楽が俺の鼓膜を刺激した。


「ほら、好きなの選んで。」


最初は入るのを戸惑っていた彼女も、背中を押し出してやると素直に従った。

さて、あの小さな吸血鬼はどんな服が好みなのだろうか。

さすがにこんな店の入り口に20代半ばのおっさんが突っ立っているのは良い営業妨害なので、外のソファーで待つことにした。


十数分後。

店の中から大声で「おい、人間!」と呼ばれ、やれやれと中に入ってみると白いワンピースを抱えた彼女が立っていた。


「それがいいの?」

「うむ。」

「どれどれ。」


そのワンピースはとてもシンプルなものだった。

小さな丸襟がついたノースリーブに、ふわふわとしたレースのスカート。

彼女が着るところを想像して思わず頬が緩んでしまう。


「いいね、かわいい。」

「我が選んだからな。」


でも、柔らかな純白の生地はなんだか吸血鬼らしくないと感じる。

もちろん、彼女に似合うことは間違いないのだが。


「そんなにこっちを見てどうした。人間。」

「いや、吸血鬼なのに白いワンピースなんだなって思って。」


すると少し寂しそうに笑った。


「吸血鬼は白い服を着てはいけないというルールはない。」


確かにな。

納得した俺は彼女をソファーに座らせると、会計をしにレジへ向かう。

残された小さな吸血鬼はその背中を見送った後、意味もなく足をぶらぶらと動かした。

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