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朝起きると、隣に女の子が寝ていた。


「誰…」


 ただの女の子ならいいんだ。迷子かなにかで迷い込んできて、疲れて寝てしまったのかな、とかそんな想像ができる。


しかし心配性の俺はもちろん玄関とこの小さな家中の窓という窓に鍵をかけていたのでそんな事は起こるはずがない。


一番問題なのはこの女の子の頭とお尻に何か生えているという事。

震える手で女の子の柔らかな髪の毛をかき分け、その何か、を触る。

それは滑らかな陶器のような感触の、いわゆる角のようなものだった。

真っ黒なその角は窓から差し込む光の筋を反射し、きらきらと輝いている。


お尻から生えているものも気になったが、まだ小さいとはいえレディーのお尻に触るのはよろしくない。強制わいせつだロリコンだと騒がれても困るしな。

白いブランケットに包まれたその小さな体を見ながらふと息をついた俺は、もう一度寝ることにした。


今度起きたらその女の子は居なくなってるかもしれない。きっと神様が間違ってバグを起こしただけなんだ。そうに違いない。

俺は半ばそうであることを願いながらまた、眠りに落ちた。




「おい」


ベシッベシッと体を叩かれ、目を覚ます。

もう、誰だよ、と目を擦りながら瞼を上げると、目の前には先ほどの女の子が胡坐をかいて座っている。どうやらバグでは無かったようだ。


「お前は誰だ。」

「さ、佐々木です…」


予想してたよりも凛とした話し方をする彼女に圧倒され、反射的に答える。


「ささき?それは何だ」

「俺の苗字」

「みょうじ…よく分らんな。」


そう顎に手をあてて考える女の子は口調にそぐわずとても可愛らしい。


「君は?」

「我は吸血鬼だ」


ふふんと平らな胸をはってそう答える彼女は確かに吸血鬼のように見える。

腰まであるさらさらとしたワインレッドの髪の毛に少し目じりの上がった真っ黒な猫目。唇は控えめな色合いで、その隙間からは時折八重歯が見え隠れしている。そしてやっぱり頭には煌めく角に、お尻には…あれは尻尾か?先がハートのような形になった、いかにもな尻尾が付いている。

ぱっと見小学校低学年くらいに見えた。


「…コスプレ?」

「こすぷれって何だ」


さっきからこちら言葉がよくわかっていないようで、中々話が嚙み合わない。このくらいの年齢の子ならコスプレはまだしも、苗字くらいは聞いたことがあるはずだ。


「早く怖がれ。人間。」


俺が怖がらないのがお気に召さないのかその可愛らしい顔が険しくなる。

その顔を見つめていると、ふと彼女が何も着ていない気が付いた。

沢山の事が起こって混乱していたのと、ずっとブランケットを握りしめていたから気が付かなかった。


「服、買いにいくか。」

「おい、怖がれって…」


彼女が吸血鬼にしろ人間にしろ、裸でいるのは色々まずい。

急いでタンスからワイシャツと短パンを取り出すと彼女に着させ、最後にキャップをかぶせる。

弟にださいきもいと散々罵られたキャップだが、こう見ると結構かっこいいではないか。


「じゃあ、行くぞ」

「は?」


角と尻尾が外から見えないように抱きかかえ、多分何も分かっていないであろう彼女と共に俺はショッピングセンターへと向かった。

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