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温泉にて

 涙が止まって冷静になったアリシアは、ハッとして現状に赤面する。

 まるで赤子をあやすようにミューアに優しく抱き寄せられたままで、アワアワとしながら小刻みに両手を震わせていた。


「あのあの、ゴメンなさい! お恥ずかしいトコロをお見せしてしまい……」


「あ、いや。落ち着いた?」


「は、はい。ミューアさんのおかげです。なんだか、お姉ちゃんのような包容力を感じました。まあ私にはお姉ちゃんはいないのですが……」


「昔、私にも妹がいたからかもね。ともかくスッキリできたなら良かったと思うよ」


「えへへ。ミューアさんは優しいですね」


「べ、別に優しいワケじゃない。普通だよ。普通」


 アリシアは満面の笑みで感謝を伝え、照れくさそうにミューアはプイッと顔を背ける。なんだかアリシアの笑顔が輝いて見え、あまり他者と交流することのないミューアには眩しかったのだ。


「さて、じゃあ体の方もスッキリしちゃいましょうか」


「か、体もスッキリ…? ひ、卑猥な話ですか…?」


「違うわ! そうじゃなくて、この宿には温泉もセットで付いてんのよ。体を洗い流すためにも行こうって言おうとしたの」


 なんという勘違いをするのだと、イケナイ事をしてしまった子供が言い訳を並べるようにミューアは早口で説明する。


「あ、ナルホド! 納得です!」


「アリシアは可愛らしくて清楚だと思ったケド…案外、エッチなコなんだ」


「そ、そんなコトありません! 至って健全なエルフです!」


 先程よりも更に顔を真っ赤にし、茹でたタコのようになりながら否定するが、ミューアはアリシアについての脳内メモに以外と痴女かもと書き込むのだった。






 宿の裏手には湯気が立ちこめていて、そこには小さな温泉が湧いていた。特筆するべき点は無い露天形式の物であるが、この世界においては重宝される入浴場である。

 というのも、浴槽の普及していない一般家庭においては水を用いて体を洗い流すだけというのが定番であり、このような温泉が湧く施設も少ないためだ。水道技術を向上させて機械による制御を行えば各家庭でも実現可能だろうが、そうした時代が来るのは遥か先の事であろう。


「温泉とは良いものですよね。エルフの村の銭湯が好きで、よく通っていました」


 アリシアはここ最近の疲れを癒すため、熱めのお湯に身を沈める。この体の芯にまで届くような温度が好みであり、対してミューアは慣らすように少しずつ足を入れていく。


「アリシアのボディライン凄いな……」


 フとアリシアを眺めたミューアは呟かずにはいられなかった。

 それも仕方のないことで、細身でありながらも出るトコロはしっかり出ており、アリシアのボディラインは彫刻のような美しさなのだ。

 かくいうミューアも、引き締まりながらも柔らかさを主張する自分の肉体に自信があるのだが。


「何を食べたらそんなに育つんだろう…?」


「え? なんです?」


「アリシアは綺麗だなって」


「わ、私なんて平凡で、特徴が無いのが特徴みたいなエルフですので!」


「特徴しかないと思うんだけど……」


 首をブンブンと振って否定するアリシアだが、謙遜なのか本当に違うと言っているのかは分からない。しかし、出会ったばかりとはいえアリシアの性格はなんとなく把握してきたので、恐らくは謙遜ではないのだろう。


「モテるんじゃないの?」


「いえいえ、モテたことはありません。誰かとお付き合いしたことも無いです」


「皆の見る目がないんだな。アリシアレベルだったら声掛かりまくるハズじゃん」


「あはは。ミューアさんは面白いコト言いますね」


「至ってマジメなんだけど……」


 ミューアは熱さに慣れてようやく上半身まで湯につかり、アリシアの隣に位置取った。風呂は数人が入れる程のスペースがあるので別に隣ではなくてもいいのだが、なんとなくの行動である。

 村を出た後にはエルフ族との交流もめっきり減ってしまい、だからこそミューアは同族のアリシアを気遣っていた。だが、それとは関係無い親しみやすさや、まるで一目惚れのような惹き付けられる感覚があったのだ。このような気持ちは初めてで、だから仕事のパートナーに誘って共に行動したいと希望したのである。


「ミューアさんこそ、あんなに強いんですし惚れるコとかいるかもですよ」


「さあ、どうかな…アタシは一匹狼を気取っているから他人と行動するなんて滅多に無いんだ。だからアタシの戦いぶりなんて誰にも知られていない」


「なのに私を?」


「ダークエルフになって何年も一人でいるから寂しくなったのかもね。それに追い出されたとはいえ、故郷の惨状を目の当たりにして人肌が恋しくなってさ……まあアタシのセンチメンタルなんだよ」


「分かりますよ。だから私もミューアさんとご一緒できて嬉しいんです。もし一人だったら絶望し切っていたでしょうね」


 きっと行く宛てもなく行き倒れていただろう。そもそもミューアの助けがあったために生き残れたので、あの晩に本当なら命を落とすはずの運命だったのだ。

 なのでミューアの仕事の手伝いを引き受けたのは、村が破壊された理由を知る手がかりを掴めるかもという意味もあるが、どちらかというと恩返しとしての行動であるのだ。



  -続く-

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