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第三十一話 過去と現在からの口づけ

「……し、死んでないよね? お姉ちゃん……?」


「あ、当たり前でしょう!?……ちょっとやりすぎたかもしれないけど、手加減して倒せるような相手じゃなかったし……」


 金属の壁を大きく歪ませ、その少し下で力無く倒れるナターシャを見て小さくため息を漏らす。

 まさか暴走するほど追い詰めてしまっていたとは……私の考えは少し甘かったようだ、まるで眠っているかのように倒れ込むナターシャの前にしゃがみ込み全身を眺めながら少し考える……やはり妙だ、自らへし折った足は関節部分から綺麗に外れておりとても歩行には使用出来ない状態だがそれでも回避や防御ぐらいは出来た筈だ、勿論私は手加減などせず全力の威力と速度で叩き込んだが……どう考えても()()()()()()()ている、暴走状態故に回避の演算に失敗したかもしくは──。


「……とにかく、ナターシャが起きる前に足を直して……げっ」


「どうしたのお姉ちゃん?」


 修理をしやすくする為に仰向けに寝転ばせ、攻撃のダメージを見る為に服を捲り最後に蹴りを加えた腹部や胸部の確認をするが……傷どころか、殆どダメージの形跡が見られない。


「……貴方、さっき自分の事を華奢とか言ってなかったかしら?」


 どうやら機能停止どころか暴走の際の過剰な魔力負荷による一時的な魔力切れか、感情が昂ぶり過ぎたところに加えられた衝撃で気絶しているだけのようだ……どちらにしても、すぐに目を覚ますだろう。


「エルマ、一応彼女の全身をスキャンして足以外に異常が無いか確認してくれる?」


「了解しました!」


 エルマがナターシャの頭上にまで飛んでいき頭部から順番に損傷を確認している……さて、私は私の仕事をしなければ。


「全く……いくら拘束から抜ける為とはいえ自分で自分の足をへし折るなんてね、無茶にも程があるっての」


 軽く見ただけでも数本の金属の骨組みが飛び出てしまっている……が、どれもこれも綺麗に曲がっている上に動力液の流れるチューブの傷も僅かな小さいもの、これならば直すのはさほど難しくないだろう。

 ナターシャに斬られなかった残り数本の雷鋼線(ディミット・ワイヤー)を伸ばし、飛び出た骨組みに少しずつ熱を加えて曲がり具合を調節しながら足の内部へと順番に戻していく……ある程度まで中に戻すと自動で再接続するようなので折れ曲がった骨を戻しつつ、再接続を確認したら表皮を軽く溶接するという作業をひたすらに繰り返す。




「ん……ティス、様……?」


「……驚いた、もう起きたの?」


 作業も半ばというところでナターシャが目を覚ました、先程の暴走状態が続いていたらとも思い一瞬身構えたがこちらを見つめる表情を見るにどうやらその心配は無さそうだ。

 自分が倒れている事に気が付いたのか慌てて起き上がろうとしたナターシャの額に手を乗せてそっと押すと、殆ど抵抗も無く彼女の体は素直に再び横になった。


「修理にもう少しかかるからそのまま横になってなさい、そもそも魔力切れでまだ体が上手く動かないでしょう?」


「……はい」


 多少ごねるかとも思ったが随分と大人しい……まだ本調子ではないという事だろう、治療に専念出来るのでこちらとしてはありがたい。


「ティスさん、全体のスキャンが終わりましたがその足と頬の傷を除いて損傷と言えるほどのものはありませんでした!」


「そう……まぁそれ以外殆ど綺麗に回避されたものね」


 動力液の流出も止まっているようだし頬の傷は最後でいいだろう、今はとにかく一刻も早く歩けるようにしてあげなければ。


「わわわ、やめ……離してくださいぃー!」


「……ん?」


 作業に戻ろうとした矢先にエルマの悲鳴が聞こえ、何事かと視線を向けるとナターシャがエルマの事を両手で鷲掴みにしていた。

 必死に手の中でジタバタと暴れてはいるが、彼女の手からは逃れられずにいるようだ。


「……ナターシャ、何をしているの?」


「この……この小型のドールが今のティス様の隣に立つ者なのですね」


「エルマ、よ。その子は私の相棒なの……離してあげてくれるかしら?」


「……はい」


「ティ、ティスさぁーん……怖かったですぅー……!」


 ナターシャがそっと両手を開くと中からフラフラとエルマが飛び出し、私の肩に飛び乗った。


「はいはい、よしよし……」


 エルマを宥めながらナターシャの方に目を戻すと、そんな私達を見たくないと言わんばかりにそっぽを向いていた。


「……そんなにこの子の事が気に入らない? なかなか可愛く作ったつもりなんだけどなぁ」


「……そういう事ではありません、ティス様の隣に立つ者はあらゆる面で秀でた能力を持ち完璧にティス様をお守りできる者でなければなりません……にもかかわらず、そのちんちくりんなドールはお守りするどころかティス様の手を煩わせ守られる始末、昔と違いティス様はお強くなられました……ですが傍らにそんな足手まといを置いていてはいつか大きな怪我をなさるやもしれません、私はそれが何よりも心配なのです」


「なっ……なぁんて失礼な事を言うんですかぁ!」


「まぁ、確かにちんちくりんではあるわねぇ」


「ティスさん!?」


 エルマが私とナターシャを交互に見比べ慌てふためいている。神妙な表情をつくってみたがすぐに我慢出来なくなって吹き出し、声を上げて笑ってしまった。


「あはははは! はぁ、おっかしいわぁ……貴方意外と口が悪いのねぇ」


「ヴィオレッタ様によって作られましたから……普段は抑えるようにしているのですが、それでも我慢できる事と出来ない事がございます」


「なるほど、これ以上無いぐらいに納得の理由だわ」


 足の修理に戻りながらも私の口元には笑みが浮かんでいた、話せば話す程ナターシャの事が気に入ってしまう……幼い私が彼女の事を大好きだったのも納得だ。




「……よし、これでどうかしら? 少し動かしてみて」


 私の言葉に頷きナターシャが折れていた足を浮かして前後左右に揺らしてみせると、すぐに驚きの声を漏らした。


「これは……凄いです、完全にへし折ったつもりでしたがここまで綺麗に直せるとは……」


「問題無さそうね……良かった、それじゃあ仕上げに頬の傷を直しちゃうわね」


 私も安堵のため息を漏らし、顔の方へと近付いて手を伸ばすとナターシャが傷を隠すように自らの手で私の手の行く手を阻んだ。


「……ナターシャ?」


「いえ、そのこの傷は……残しておいてもいいですか? ティス様の成長の証として……」


「……ふふっ、なによそれ? まぁいいわ、好きにしなさい」


 なんだか照れくさいようなむずむずとした妙な気分だ……頬に伸ばしかけた手を更に上に伸ばし、ナターシャの頭をそっと撫でる。


「ティ、ティス様……?」


 目を見開き驚くナターシャに構わず撫で続ける……それにしても綺麗な髪だ、ツヤもあり私のものよりも綺麗に感じる……これでも手入れには気を遣っていただけに少しだけ悔しい。


「聞いてナターシャ、エルマは地下にいる間ずっと私をサポートしてくれた相棒なの……だから貴方は面白くないかもしれないけど、これからも彼は私の相棒よ」


「……はい」


 私の言葉に段々と表情が曇りその口が固く結ばれる……普段はヴェールで隠しているから分かりづらいが、随分と感情が表情に出るタイプのようだ。


「でも今回の貴方との戦闘で私達もまだまだだって事がよく分かったわ……だから、随分と待たせてしまったけど」


 手を引っ込め、代わりにナターシャの頬へとぐっと自らの顔を近づけ……幼い私がしたのとは反対の頬に唇をそっと押し当てた、ゆっくりと顔を離すと再び大きく見開かれたナターシャの瞳が私を見つめている。


「……私には貴方が必要よナターシャ、もう一度私に貴方の力を貸してくれるかしら?」


「あ……あ、ティス……様」


 私が口づけした右頬にそっと自らの手を押し当てナターシャが僅かに震える、逆の頬に感じた不思議な感触が何だったのかようやく理解したのだろう。


「勿論……勿論ですティス様、いつまでも……どうかいつまでも私をお傍に置いてくださいませ……!」


 震えるナターシャの手が私の頬に触れる、その手を私の手で更に押し当てながら笑いかけると彼女の目から大粒の涙が次々に溢れ出た。


「良かったねお姉ちゃん……でもいいなぁ? 私もお姉ちゃんにキスされたーい」


「僕もです! なんせ僕の方が長く一緒にいるんですからね!」


「わ、分かったから落ち着きなさい二人共……順番、順番だからぁ!」

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