愛の証明
主人公が自分の不幸に気が付く回なのでご注意ください。
僕は、いつも外に出してもらえなかった。
両親は、流行り病で人が死んでいるからだと言い聞かせたが、窓からは広場で追いかけっこをする子供の姿が見えた。
僕と同じ位の歳ごろ。
そして、友達がいるようだった。
僕にはいない。生まれてからずっと友達と言える人がいなかった。もしいたならば、一緒にお話をして、絵をかき、一日中疲れるまで木登りや追いかけっこをしたい。そして怪我を沢山してお母さんに怒られながら、眠りにつくのだ。
この家にいては、友達はできない。
そう思って何度か脱走を行おうとしたが、決まって自分の部屋には鍵がかけられていた。まるで僕は囚人だ。
お母さんは、それに心を痛めてか、書庫に僕を入れてくれた。
自分も体が弱くて遊びに行けなかったこと、本の中ならば世界中どこへでも行けることを教え、読み方を教えてくれた。
それからはもう、凄かった。
僕はトイレと寝るとき以外のほとんどを書庫の中で過ごし、棚を左から右へ片っ端から読み漁る。
特に好きなのは戦記物だった。名も無き戦士が、国と国民のために命をかけて戦った記録だ。
いつしか気が付くと面白かった棚は、あっという間に終わってしまう。そこで仕方がないので古びた棚に手を伸ばした。どこか薬とカビの匂いのする本たちは、すべて医学に関する本だった。
きっとお父さんが医療の勉強に使ったものに違いない。
その中身は、読めない言葉の方が多かった。書いてあったのは癌、壊疽、人の死に至る病のことで、僕とは関係の無い話に思えた。
ただ一点だけを除いて。
その項目は、「獣化病」。人が人ならざる物へと変化する病気の項目だった。
ぱらぱらと挿絵のない文字ばかりのページをめくる。
それはここにあった。
吸血病。その患者は青白い肌を持ち、多くの場合ブロンドの髪と碧眼の目。成長に従って匂い立つような妖艶な姿へと変わる。一方で、その生態は醜悪で、生き物の生き血から生命力を吸い取って生きる獣だ。
短命であり、成人まで生きられない。その唯一の治療方法は炎で焼くことである。
全身から血の気が引いた。
それが自分のことだとすぐに分かったから。
僕は、何より血が、好きで……。
どうしようもない寄生虫だった。
■
膝を抱えて泣く坊ちゃんを見つけたのは、黄昏時。
真っ赤な夕日が沈むころに起きているのは珍しかった。
「どうされましたか? メイドに出来ることがあれば何なりとお申し付けください」
私がそう言うと、坊ちゃんははっと顔を上げて
「僕に近づくな!」
と怒鳴りました。
「な、なにかお気に触ることを致しましたでしょうか……?」
今まで、これほど取り乱した姿を見たことはなかった。彼は私の声を聴いて、ひどくおびえているように見える。まるで嵐の夜にずぶぬれとなった迷子の仔犬だった。いつもはあれほど輝いている髪も、老婆のように掠れて見える。
「おまえが……嫌いだ。僕は、一人で生きていくことにしたんだ」
「嘘、ですね。そのようなことをお優しい坊ちゃんが言う訳がございません」
「だから!!嫌いになったと言っている!!」
「申し訳ございませんが、私は貴方に雇われているわけではないのです。嫌いだからと言って解雇する権利はございませんが」
「離れろ……病気がうつる」
ああ、それで。私は、彼の後ろにある本棚を見た。私は字が読めない。それほど裕福な家には産まれなかった。しかしそこに書いてあったのだろう。自分がどんな存在かを。
勿論私はそのことを知っていた。この家で働く条件こそ、秘密の厳守であったから。
「存じております」
「は?」
「少し、寒くはありませんか?」
私はそっと坊ちゃんを抱きしめた。驚くほど細い。女の子だと言われても疑わないほど華奢な体躯に見える。だが脱ぐと凄い。
「私は、遠の昔から存じています。その上で一緒にいたのです」
肩を熱い雫が伝うのを感じ、ああ、私は、残酷な私は、その信頼を我が物にしたのです。全て、どっぷりと。
「今まで稼いだお金は全て溜めてあります。私がお金のために働いていたわけではないことを証明するために、坊ちゃんに全てお渡します」
「……いい」
「受け取ってください。そして出来れば、いつものようにせがんでいただければいいのです。私の血だけを所望して」
ぐああああ!!!自分の好きな展開だ!!
以下が可能性でした。
1.腕骨折
2.足骨折
3.爪が剥がれる
4.お金をもらう
5.初めて家の外に出る
6.もっとイケメンになる
今回の出目は4。主人公はお金をもらうことになりました。