私の人生を変えた「暇つぶし」
34歳の大失恋…シンプルに、こたえます。
何となくだけど、このまま結婚するのかなって思ってました。10年も付き合ってたんだから。むしろ今年で10年になるから、そろそろ?とか淡い期待をしていた過去の自分をぶん殴りたい。嗚呼、人ってこうやってすれ違っていくのですね、カミサマ。
34歳って、もうかなりの『いい大人』だと思ってたけど、そんなことないな。傍を通る人がいちいちギョッとしてから去っていくほど、私は盛大に泣いているようです。34歳にして公衆の面前で泣いてるなんて、ほんと、想定外ですよ。
ガタンゴトン…
絶賛大号泣中の私を乗せて、電車はいつも通りに動いています。こういう『いつも通り』は、弱った心に染みますね。自分が異常運転なときに通常運転のものがそばにあると、落ち着くんだよなあ。
「まもなく到着いたします。お降りの方は…」
次が自宅の最寄り駅…だけど、身体と座席がべったり癒着してしまっているので、引き剥がすのは容易ではなさそう、です。
…いいや、今日土曜だし。彼氏の家から朝帰りで、時間たっぷりあるし?
あ、あいつもう彼氏じゃないんだったあはは。
とにかくいいや。このままシートに身体を預けてボーっとしていよう。それくらいの暇つぶし、構わないよね。だって私、34歳にして10年付き合った彼氏に振られたんだぜ?『次行こ次!』とか、若い頃みたいな元気出ないから、マジで。
◇
ガタンゴトン…
「あ」
どれだけ電車に揺られていただろう。
「…海だ」
視界が一気に開けた。胸が高鳴るのを感じる。
海なんて、いつぶりだろう。
勢いで、次の停車駅で降りてしまう。先程まで電車の座席に沈みこんでいた身体が、今は羽のように軽い。
「わあ…!」
駅のホームからも、海がよく見えた。
これ、少し歩いたら砂浜に降りられたりするんじゃないかな。
細い路地を通り、海の方角を目指す。
更に、視界が開けた。
砂浜、海、空。
私の視界を埋め尽くす、3つだけの要素。
耳に届くのは、さざなみの音、それだけ。
ああ。
私、今やっと、きちんと呼吸が出来た気がする。
気がつくと、頬を涙が伝っていた。
さっきまでとは違う涙だということが、はっきりとわかった。
朝倉まどか、34歳。
大丈夫、私はきっと、大丈夫だ。