アリの女王編 30話 追加
その言葉を合図に、お互いの握りあった左手から毒が注入された、
そして同時に体内でその毒の解析に入る、
それが遅れ、解毒できなければ意識を失い勝負は決する。
分解解毒するための物質を合成し、そしてそれを右手で自身の左腕へ
その手のひらにある微小な針で注入するのだ。
分解、解毒後、新たな毒の合成に入る
相手より早くそれを注入するために。
基本的に合成する毒は神経毒に限られる、出血毒などを使用した場合、
肉体を激しく損傷させてしまうからだ。
タウが、次の毒を合成する
C 11 ・・・H・・1・・7・N・・・3・・・
北の森の者が、
・・・C6760H10447・・N・・17・・43・・O20・・・S・・・
互いに注入、そして解析に入る
「テトロドキシン合成ね、でも甘いわよ」
解析された!? もう解毒に入ってる・・?
まずいわ・・・ボツリヌストキシン・・・違う!?
タウが僅かに遅れた、
私の知る配列と少し違った、手間取った、解毒!
「遅いわ!、次よ、」
タウに新たな毒が注入された。
解析に入る・・・タウが後手に回った、
C10・・・H・・1・・7・・N7・・・・サキシトキシン・・・同じじゃない!?配列が・・・
タウの膝が落ちる、
必死に踏みとどまり、かろうじて解毒する、
「守護者を身代わりにしてもいいのよ、主を守らせることは認められているわ、それは知っているのでしょう?勝負がついてしまうわよ、あなたの守護者を連れてきなさいな」
「おことわりよ、私だけそんなこと、できないわ」
「意地っ張りな子ね、私のほうが長く生きてる分、知識も多いのよ、ハンディをあげるわ!」
「っく・・・なめたことを・・・いいわ、後悔させてあげる」
再び両者共に合成に入る
・・・ほぼ同時に注入
北の森の者が毒の解析に入る、タウは・・・そのまま次の毒の合成に入った!
北の森の者が合成した解毒物質を自身に注入し、次の毒の合成に入る、タウは動かない・・・
「遅いわ!それじゃ間に合わないわよ」
北の森の者が言った、そして次の毒の合成を完了した
「あなた!、解毒していないわね!?、二種毒混合投与するつもりね、でも私のほうが早いわ!」
「トキトーー!、ここへ来て!、後ろから私を支えて!!」
タウが叫んだ!
ボクはタウに駆け寄り後ろから抱えるようにして支えた。
「何があっても、そのままで、」
ボクに小さく言った
「後ろの子たちじゃなかったのね、でも誰が守護者でも同じよ、私が早いわ」
タウが解毒しないまま、北の森の者は2種目の毒をタウに注入した
「あなたの守護者も、このまま同じ毒で落としてあげるわ、覚悟して」
ボクの腕に北の森の者の手が触れた、でもかまわない、タウの言う通りにするだけだ
「あなたこそ、覚悟して」
北の森の者にタウが言った
タウの手から合成された物質が北の森の者に注入された
「今更2種混合投与しても、すでにあなたの方が私からの2種毒に侵されているのよ?このままあなたの守護者を落とせば終わりよ」
ボクの中にたしかに何かが入ってきた、触れられた場所からそれが伝わった。
ボクはすぐに意識を失うだろう、そしてこの僅かな時間がタウの役に立つことを願った。
「2種じゃないわ・・・それに・・・」
「まさか、3種混合?私より早く!?・・・たとえそうだとしても、」
北の森の者はボクを見て、戸惑いの表情を浮かべた。
「私の守護者は、落ちないわ」
ボクの体に異変はなかった、そうだ、ボクは何故なんともないんだろう、
「まさか・・・あなた人間・・・」
「そうよ、私の守護者は人間よ、今から人間用の毒を合成投与してその効果が表れるまで、あなたの意識がもつかしら」
まずいわね、にんげんと昆虫では神経回路が違う、同じ神経毒では効果がない!
さっきの毒も効いてない・・・
ならば、体内の3種毒を解毒してみせるわ!
北の森の者は3種の毒の解析に入った
αーブンガロトキシン・・・βブンガロ・・・デンドロトキシン・・・・蛇毒の3種、
しかも即効性を強化してある・・・間に合わない・・・
「タウ、何故ボクは平気なんだい?」
「あなた人間だから私達と同じ神経毒が効かないのよ」
なるほど、そういうものなのか、
「あなた達、おしゃべりなんて、緊張感がないわね・・・でも・・そうね、私の負けね・・」
そう言って、北の森の者は左手を離し、その場に崩れるように倒れた。
「マスター!」
守護者がそこへ駆け寄った。
タウはボクの腕の中で意識を失った。
「さばえ、私の体を起こしてちょうだい」
守護者に支えられ、北の森の者はこちらを見た
「まったく、ヘビ毒の3種混合強化なんてね、ほんと悪趣味だわ・・・さてと守護者の人間の方、私まで意識を失うと、その子の解毒もできなくなってしまうわ、だからまず私自身の解毒をするまで待っていただけるかしら」
北の森の者はその言葉通り、自身を解毒したあとタウの解毒もすませた。
そして大広間の長椅子に寝かせ、タウの意識回復を待った。
タウのそばで椅子に座る北の森の者とその守護者、そしてそれを囲むようにボク達はいた。
「それにしても人間を守護者にしているなんてね、面白いわ」
そう言って、笑いながらボクを見た、そして
「てっきりそっちの子達だと思ったわ」
マクスとオペラクラリスのことのようだ
「あの、やはり守護者とは、それに相応しい強さを持つものが、なるものなのですか?」
ボクはずっと気になっていたそのことを、北の森の者に聞いてみた。
「いいえ、そうとは限らないわね、むしろ強い力を必要とすることの方が稀なのよ、通常はつがいになった相手、雄がその役目を果たすのよ」
「つがいの雄・・・では、守護者の役目とは何ですか?」
「そうねーいろいろあるけど・・・例えばね私が年老いて棲家の中で死んじゃったとするじゃない?
そしたら誰も入れなくてほっとかれちゃうわけ、そういうとき守護者が後のこともやってくれるのね、あなたも知ってるでしょ、私達の棲家には結界が張ってあるから守護者しか入れないってこと」
「はい、もちろん」
「まあ、身の回りの世話係ってとこかしらね」
せ、世話係・・・?
タウを守るということに使命感のようなものを感じていたのに・・・なんだか・・・
ボクが少しションボリしていると、
「いいじゃない、世話係でも・・・」
目を開けたタウが小さくボクに言った
「トキト、起こしてくれるかしら」
まだ体が思うようではないらしく、ボクは肩を支えながら彼女を起き上がらせた
その長椅子にそのまま座り、北の森の者と向かい合った
「さあ、習わしに従い、私の持つ知識のすべてをあなたに託します」
北の森の者がタウに言った、そして続けた
「それで、あなたはどうするつもり?あなたの覚悟は見せてもらったわ、次はあなたの考えを聞かせてちょうだい」
タウは少し沈黙のあと、口を開いた、
「んーー、勢いで勝っちゃったけど、後のことはまだあまり、考えてないの」
そんな・・・タウは意外とおおざっぱだ、
「あははは、まあ別に今決めなくてもいいわ、あなたの思う最善であるなら好きにしてくれていいわ、もう、あなたに託すと決めたのだから」
こっちも、こっちで、おおざっぱだ、
タウのそれは種族的な特徴なのだろうか、