アリの女王編 28話 追加
部屋中に緊張感が満ちた・・・
誰もが動くことができず、息をのんだ、そのとき、
「おっどろいたなーータウ、北の森の奴と同じ種族なのかぁーー!」
マクスは目をまん丸くしてタウを見ながら驚いている、そのあまりにも絵にかいたような驚き方に
オペラクラリスは逆に笑ってしまった。
「っぷーー、あんたねー緊張感ないわねー」
「いやーー、驚いてるぜ」
「それにしても、わたしと似た種族だとは思ってたけど、
まさか北の森の者と同じとはね、さすがに驚きね」
「ごめんなさいね、初めに言うと驚かせちゃうと思ったから」
「今も十分驚いてるわよ、でもやっぱりあなたも毒で身を守る種族なのね」
「ええ、私もキャタピラーの一種よ」
「それで、トキトは知ってるの?」
「いいえ、トキトは北の森のことも知らないわ」
「トキトは人間だったわよね、人って情報に乏しいの?」
「そうね、他はどうか知らないけど、トキトは同じ人間との情報網をまったく持っていないわ
遥か東の地で生まれ育ったらしく、このあたりのことをほとんど知らないわ」
「知らせないほうがいいの?」
「いいえかまわないわ、初めから全部話すと時間がかかるから面倒だっただけ、
ハスから話してもらいましょう」
「案外適当ね、大丈夫? まさかとは思うけど怖がって逃げたりしない?」
「それなら大丈夫よ、トキトは私の守護者にしてあるから」
守護者にするとは何を意味するのか分からなかったが、タウが問題ないと言っていることで納得した
「それにしても、あんたとトキト、考えてみれば随分と変わった組み合わせね」
「そうかしら?、トキトが私の罠にかかって動けなくなっているのを見つけたのがきっかけだけど、
私、人間を見るのが初めてで・・・ずっと興味もあったし珍しくてつい、
それに、信用できそうだったから」
その日の夕食の後、タウがハスに何かを説明した。
そしてそれをハスがボクに分かるように話してくれた。
内容はたしかに驚きを隠せないものだったが、まあ、何が変わるわけでもない、
新しい情報を得たにすぎないだろう、ただ周りにいるメイド達の表情に
恐怖の色が浮かんでいるのが気になり、
大広間でくつろぐ中、タウに直接聞いてみた
「君の同胞の、その北の森に住む者は、何故そこまで恐れられているんだい?」
「んーー、何から話せばいいかしら」
タウはしばらく考えてから答えた
「攻めてきた者達を何度か撃退したらしいわね、それでかしら」
説明が簡単すぎて分からない・・・
「あの、もしよろしければ私達の中で詳しい者がおります、その者から説明を・・・」
バーチェルの申し出にタウも頷き、メイドの1体があらためて説明を始めた。
「まずその北の森はこの町から歩いて10日ほどの場所にあります、そこは数百年の間
誰も入ることのできない魔の森なのです、
あるとき森の周りにヒメサスライアリ達が集結し砦を築きました、
その場所を足掛かりにこの平原すべてに侵攻するつもりだったのでしょう、
その数は1万を超え、いよいよ緊張感が高まったそのとき、彼らは北の森に攻め入ったのです
戦略上どんな意味があったのかは分かりません、しかし、森に入った兵士達は
その日の日没を待たずに全滅しました」
「全滅・・・?」
「はい、そうです、そしてその翌日には砦に残っていた者達もすべて滅ぼされたのです」
「いったい、どれだけの軍勢がその森の中で待ち構えていたんだ?」
「その砦から半死半生の状態で逃れてきたものがいました、その者の話のよれば
砦はたった1体に滅ぼされたそうです」
「1体で・・・どうやって」
「逃れてきた者の話では、砦を滅ぼしたその者の体の周りには
金と銀の光の粒が舞い、その直後仲間達の体が腐り落ちて死んだと、
そしてその話をした兵士も、そこから10日後に腐り死にました・・・
それからも別の種族が幾度か攻め入りましたが、その都度すべて
滅ぼされたのです、そして必ず半死半生の者が数体その惨劇を伝え、
数日のうちに腐り死にました、その者達はその行為の愚かさを知らしめるため
苦しみと共に数日間生かされたのです、
それ以来、死を与える北の森の悪魔と恐れられるようになったのでございます」
メイドの話を聞き終わり、オペラクラリスが言った
「タウの同種はいったいどんな方法を使ったの?それだけの数をいっぺんに滅ぼすなんて」
オペラクラリスは自分の能力と比べたからこそ不思議に思った、
たしかにオペラクラリスの持つ毒のトゲの殺傷能力なら複数を同時に撃退することも
可能だろうが、その数のケタが違いすぎるのだ。
「毒よ、それはあなたと同じ、でも私の種族は体の中で様々な物質を作ることができるの
北の森の者が使ったのもその毒の1つよ、それを小さな針に封入して空気中に飛ばすのよ」
「空気中に飛ばす・・・それで1万の相手を?」
ボクはそう口にしてみたが、それをとても損じられなかった
オペラクラリスも驚きを隠せなかった
「その針の1つ1つは目に見えないほどの小さな物よ、空気中に漂うそれに光が反射して
光の粒のようにみえるのね、それを一度に数万、場合によっては数十万を放出するわ」
タウの説明を頭で考えて理解しようとしても、現実のものとして実感がわかない
「もしかして、君の森で君が使った力も、」
「そうよ、侵入者を阻むために結界としてまいた私の毒の針よ、
あなたもその1つで中毒を起こしていたのよ」
「そうだったのか・・・」
ボクは1つ疑問が浮かんだ
「何故君の森は、君の存在は今まで知られずに、北の森のように恐れられずにこられたんだい?」
「地理的に戦略的拠点の意味を持たなかった、からじゃないかしら、だから今まで誰も
攻め入ってこなかった、だから侵入者を阻む結界も命を奪うほどの物である必要も
なかった、軽い意識障害と記憶障害を起こさせて引きかえらせればよかったの」
「記憶障害・・・そんなこともできるのか・・」
「ええ、可能よ、記憶障害を引き起こすために私が使う毒は、元々旧世界で絶滅した
貝という生物の中にあった毒素を元に、私の種族が解析合成したものよ、
私達は生物毒ならその化学式を元に、体内合成が可能なのよ」
「もしかして、君の棲家にあったあの本・・・その毒についてのものなのかい?」
「全部がそうじゃないわ、そうね、半分てとこかしら」
あの本の半分が毒について書かれた本なのか、毒ってそんなに沢山あるものなのか?
「じゃあ残り半分の本には何が書いてあるんだい?」
「旧世界の技術についてよ」
「旧世界の?・・・技術、」
その言葉の意味・・・ボクの同胞達が生きた世界・・・
「そう、あなたの死んだ仲間はそこから来たのでしょう?」
その通りだ、ボクのいたシェルターではボク以外は皆、旧世界から来た人間だ、
そう、父や母もだ、
「あなたの仲間が旧世界からやって来たことも、旧世界の技術なのよ、」
そうか、その旧世界の技術をタウは知っているんだ!
「素晴らしい!」
素直にそう思った
「ボクが仲間から聞かされた旧世界の話は信じられないほどのすごい物ばかりだった、
それを君が知っているのなら、この世界を変えることができる」
ボクは興奮していた、タウはそんなボクを見て静かに言った。
「ええそうね、でも世界が変わった先に何があるの?」
それは・・・
「この世界は変わらなければならないほどに不幸なの?」
ボクは予想もしていなかったタウの言葉に戸惑い、そして苛立った。
「旧世界のあなた達の技術がすべて、今の私達にとって必要だとは限らないのよ」
たしかに、そうなのかもしれない、だけど・・・
「誰かを救う力には、なるかもしれないじゃないか」
「人間達が到達した技術の高み、それによって得られる力は余りにも強大すぎるのよ」
強大なちから・・・タウはボクが知らない旧世界のことを、知っている・・・
「私の持つ知識の中には未完成の物もたくさんあるわ、
それらも同胞と会い知識を統合することで完成に向かうはず・・・
でもその中には100万の命を一瞬で焼き尽くす悪魔の業もあるのよ」
想像すらしなかった、そんなものが、あるなんて・・・
「そんな技術が、人間はそんなものを作ったのか、でも、だとしても・・・
それを使うほど人間は愚かじゃないはずだ!」
「聞いてないのね、あなたのルーツである旧世界の極東の国は、
その悪魔の業で数十万の命が失われているわ」
そんなばかな、、なんて、愚かなことを、人間の技術っていったい何のためなんだ!
「旧世界の技術を集めてしまった私達にも責任はあるわ、
だからその知識をむやみにこの世界に放ってはならないのよ」
「ぼくは・・・進歩は皆を幸せにすると思い込んでいた・・・」
現実にショックを受けた、そして今までそれを知らなかった自分にも・・・
「間違ってはいないわ、進歩の先にはまだ見ぬ幸せもあるはずよ、
でも同時に見たこともない不幸も潜んでいるのよ」
「タウ、君はその知識をどうするつもりなんだい? 同胞と会って・・・
封印をするのかい?、もしも危険なものなら、いっそ無くしてしまったほうが」
「たしかにそれで永遠に失われるのなら、それでもいいわ、でも世界の各地で
今も目覚め続ける人間がいつかは失われた自らの技術を復活させるでしょう」
「それじゃあ、そのとき対応するために?」
「違うわ、力に力でつり合いをとるのは愚かなことよ、
それに旧世界の人間達が残した技術は命を奪うためのものばかりじゃないのよ、
本能にあらがって自らより良いものになろうとした記録も残っているわ」
「それならボクはこの先人間を見つけたとき、会って何を話せばいいんだろうか・・・・」
「今、それを決める必要はないわ、まだ答えが出ていないのなら探せばいいのよ、
私は思うの、人間達が最期まで追い求め手に入れようとしたものは、
きっと、争わない力だったんじゃないかしら、知識の先にそれがあるなら、
たとえ遥か彼方だとしても、探しに行きましょう」