アリの女王編 26話 追加
バーチェルが仲間となってからボク達はいくつかの集落と町を訪れた。
驚いたのはグンタイアリ達のその数の多さにだった。
女王の暮らす場所から離れるほど他種族の割合は増すとのことだったが、それにしても
あの数十万の行進をした者達が各地で暮らしているのだから、
当たり前といえば当たり前だろう。
「姫様、ようこそお越しくださいました、お供の方々もご苦労様でございます」
町の入り口に10体ほどの者が並び、バーチェルを出迎えた。
大がかりな歓迎をしようとする種族の者に対して、
出迎えは10体まで、歓迎式典も不要との指示をバーチェル自身が出していなければ
どれほどのものになったか、
「皆、ありがとう、この町にいる間の事、よろしくたのみます。
あ、それから、この方達は私の供の者ではありませんよ、
一緒に旅をしてくださる同志の方々です、失礼のないようお願いしますね」
バーチェルは女王らしく落ち着いた態度でそう告げた。
「はい、畏まりました、大変失礼致しました、では姫様、皆さま、こちらへ」
出迎えた10体の中から1体が進み出て前を歩き、案内した。
残りの9体は後からついてくる、そうやって町の中央部まで歩き
2階建ての大きな建物の前までやってきた。
扉を開け中に案内されると吹き抜けの大きな玄関ホールに8体のメイドが並び出迎えてくれた。
ここまで案内をしてくれた者達は引き継ぎをすませ、1体を残し帰っていった。
その1体が改めてこちらを向き、
「こちらにご滞在いただく間、この者達が皆さまのお世話をさせていただきます。
何なりとお申し付けくださいませ」
「ようこそお越しくださいました」
そういって、8体のメイドは声を揃えて挨拶をした。
「皆さま、どうぞこちらへ、2階にお部屋をご用意させていただきました。
ご案内させていただきます」
どうやら、それぞれに個室を用意してくれたらしい、
さらに担当メイドまで付くという、なんとも贅沢な待遇だが、
なれないと、逆に落ち着かない。
手前から順々に部屋を割り当てられていく、
一番奥がバーチェルに用意された部屋のようだ、
バーチェルにはメイドも3体付く様子だった、
女王というのも、なかなかに窮屈なものに思われた。
「おーーい、オペラクラリス、いるかーー?」
ドアの前で呼ぶ声がした。
「どうしたの?マクス」
ドアを開けると、いたのはマクスだけだった。
「んーー、暇なんだよ」
ふーーん、ひまなんだ、
「やること、ないんだよ」
「何言ってんの、いつもたいがいの事はハスとトキトがやってて、あんたもわたしも、
普段からほとんど、やることないでしょ」
「なあ、下にいってみようぜ」
「しょうがないわね、まあでも確かに暇ね、いいわ、つきあってあげる、行きましょ」
そうしてそのまま部屋を出て階段を下りた。さっきのメイド達の姿は見当たらない、
用事のあるときは呼び鈴を鳴らせと言っていたが、聞こえるのだろうか、
玄関ホールの奥の扉を開けると大広間になっていた。
大勢がくつろげるよう、テーブルと椅子がいくつも並べてある。
それ以外にも見たことのない物がいくつも飾ってある。
「でかい家だな、普段誰が住んでるんだ?、椅子もフカフカだな」
マクスはあちこち珍しがっている
もちろんそう思っているのはマクスだけではないが、
あまりはしゃぐのも、何だか気恥ずかしい。
「お?、こりゃなんだ」
広間の奥に飾ってある物の一つにマクスは興味を示した。
「何かしらね、見たことのない物ね」
それは、塊と棒でできた妙な形の物だ、
「それはハンマーという物でございます」
すぐ横の扉が開き声がした。1体のメイドが扉から歩み出た。
「どうかなさいましたか、何か御用がございましたらお申し付けください。」
他のメイドもその1体の後に並んだ。
「ああ、とくに用事ってことはないんだけどさ、珍しくてさ見てたんだよ」
珍しくて見てたとか言うのやめなさい、ちょっと恥ずかしいじゃない、
「それよりさ、ハンマーってなんだ?」
「はい、それは鉄という素材で作られた武器でございます、本来の道具としては別の使い方が
あるとのことですが、今ご覧いただいておりますものは、戦うことを目的とした物でございます」
「へーー、これが武器なのかーー、で、どうやって使うんだ?」
「振り回して相手を叩くのでございます、と申しましても鉄という物はたいそう重く
そのハンマーも私達3体ほどの目方がございます、振り回すなど、とても・・・」
マクスは、メイドがそう言い終わるよりも先に目の前にあるハンマーの柄の部分を片手で握り
ひょいっと、持ち上げた。
「は?????」
説明をしていたメイドが驚きの声をあげ、その声が裏返る
他のメイドは口を開けたまま、固まっている、
片手で持った柄をそのまま軽く放り投げ空中で1回転させて受け止める、
まるで小枝で遊んでいるように見えるが、足元の床がミシリと軋む。
マクスは広間の真ん中あたりまで歩いていき止まった、
そしてなにやらこちらを見て、微笑んでいる。
あっ、何かやる気だ、やな予感する、
左手で柄の端を持ち、右手を添えて体を右側へ捻った、
その力が腰まで伝わり、いっぱいに溜まったところでタメを入れ、
左足を踏み込み、一気に・・・
「おおっ りゃあーー!」
振り回した・・・
本気だすんじゃないわよーー!
ズボオオオ!っという何か巨大な物が風を切る恐ろしい音と、
バキーーッという音が、 同時に、
今のバキッって音、何?
「あはーー、ごめーん」
ハンマーを肩に担ぎ、照れくさそうに笑っている。
「あ!、あんた、ちょっとなにめり込んでるのよ!」
分厚い床板を突き破り、ひざの下くらいまで床に刺さっている。
「どうすりゃこうなるのよ」
「つい思いっきりやってみたくなってさ」
そう笑いながらバキバキと音をさせて、マクスは自分の足を床から引き抜いた。
「あんた達、悪かったな、これあたしが直しとくよ」
「あんたやり方分かんないでしょ、わたしも手伝ってあげるわよ」
言われたメイド達は、ハッとしてようやく我にかえった。
「あ、いえ、とんでもありません、あの・・・どうぞお気になされませんように・・・」
いったん完結いたしましたが、26話から追加で掲載させていただきます