アリの女王編 25話 本能
丘でバーチェルと話してから3日後の朝に出発することになった。
トキトの体調も回復し体力も問題ないだろうとタウが判断した。
トキト本人はもう何日も前から、出発しても大丈夫だと言っていたが、
タウがなかなかに過保護のようなのだ。
「人間があれほど弱い生き物だとは思ってもなかったわ、もっとちゃんと守ってあげないと」
などと、どちらが護衛か分からないようなことを言っている。
トキトはもちろん自分を守るためにタウが決意を新たにしているなど、
知るはずもなく、新しい弓矢を手に入れて張り切っていた。
新しく用意してもらった荷車は今までの物より大きいにもかかわらず、
押してみると軽く転がった。
これはほんとうにありがたかった。
日の出を待って荷車を押して集落のはずれまで来た。
夕べのうちに、集落の者達には挨拶は済ませた、見送りも不要と伝えてある。
「最後くらいあの子に見送ってもらえば良かったのにさ、」
マクスはわざとこちらを見ずに言っている
「いや、いいよ、、 さあ行きましょう」
ふっきるように皆に声をかけ、新しい荷車を押した。
積み込んだ荷物には新しく丈夫な布がかぶせてある。
雨が降っても染み込まないほどの、きめの細かい厚手の大きな布だ。
日よけにもなるため、食料の保存も楽になりそうだ、
もちろんそのためのツボも用意してくれた、何から何までほんとうにありがたかった。
「ありがとう、バーチェル、」
思わず言葉がもれた、
「どういたしまして・・・」
かぶせた布の下から小さく声がした
「んふふふ、どういたしまして、」
布をめくり、荷車の上にちょこんと座り、こちらを見て微笑んでいる。
「あ!、えーー?、何やってるの!?」
「大丈夫です、皆には言ってきました」
「大丈夫じゃないよ、何て言ってきたの、」
「女王として、種族のこれからを考えるために各地の同胞と話がしたいと、
それでハス達と行くといいました、ならば安心だと、こころよく」
「・・・・・・・何てことを、、」
「いいじゃない、ハス、 女王さまにそこまで言われたら断れないわ、
いえ、むしろ歓迎よ」
フフフ、女王から交換条件として旅へのさらなる援助の申し出があったことは、
ハスにはだまっておきましょう。
「グンタイアリの情報網があれば助かることも多いと思う、こちらとしてもありがたい
あとは、皆と協力して女王を守れればいいんじゃないかな」
「守るっていっても、もしまた、さらわれるようなことが起きたら」
「そうならないように、あたしらも協力してやるよ」
あれ?何だろう、皆おどろいてない、、知ってた?
「実は今回、そのこともあって外に出てみようと思ったのです」
そう言ってバーチェルは自身の考えを話してくれた、
「女王消失という事態が発生した場合、軍団の招集は避けられません、そしてその消失が
王位継承をしていない状態での死亡によるものだった場合、
死の行軍を止めることは不可能です」
そこに1つ、疑問があった
「だったら、あらかじめ王位継承を済ませておいて、ことがおきたら新女王が正式に名乗るよう
準備をしておけば、それまでの間は現役女王が役目を果たしていればも問題は
なくなるんじゃ?」
「それも不可能ではないでしょう、ですがその者は、その時がくるまでの間、
その真実を隠し通さねばなりません、誰とも会わず、
種族の者ならばその者に触れただけで、それが女王であることを、
即座に理解してしまうのです」
バーチェルは種族の本能をだますことは無理なのだと、説明してくれた
「今回のことで私達は思い知りました。私達の体の深部に眠る本能を、
それは種が存亡の危機に直面したとき、その地域にいる他種族の排除と
新たな女王のもとでの種族の再構築なのです、そして・・・
仮に他種族とつがいになり、子を成していたとしても、
本能はそれすらも排除するでしょう」
「そんなことって、」
オレは言葉を失った、皆もだまって聞いていた。
「ですから話し考え、同胞達と決めねばなりません、
私達が私達のまま、存在するべきなのかを」
バーチェルは純血種としての存続と他種族交配による種族の新蟲化、
そのどちらかの道を選ぼうとしているのだろう、
そして後者の選択はグンタイアリの滅亡を意味する。
なんという重荷を背負っているのだろう、
その小さな体に種族の運命は重過ぎる。
「ですからハス、これからもよろしくお願いしますね」
「そこまでの覚悟を聞かされたら、もうしかたないか・・・でも、
旅をするだけならお供を大勢連れて同族達と一緒の方が楽じゃないの?」
「言いましたでしょ、あなたと共にあると」
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