アリの女王編 23話 女王
崖の上を走り先回りしたため、今は行列の前方にいる。
そしてこの場所からその先頭に近づくためには、ハンミョウの幼虫の巣を抜けて行かなくてはならない。
「遠回りしていたら間に合わない、突っ切ろう」
「はい!」
ハンミョウの幼虫は頭部が大きく発達したイモムシ型の原始昆虫だ。
地下に張りめぐらされた巣穴で移動し、こちらの足音を聞き分け
捕食可能と判断すれば体の半分を地上に出現させ襲ってくる。
そしてその大きさは、こちらの数倍はある巨体だ。
バーチェルを背負って、襲ってくるハンミョウの幼虫の間をすり抜ける。
しかし、バーチェルの安全を考えて、あまりギリギリで避けるわけにもいかない。
距離を保つため必要以上に大きくよける、
それが動作に遅れを生む。
前後から同時に襲われた、すり抜けず横にかわす、
待ち構えたかのように、地面を突き破り出現した1体に行く手を阻まれた。
しまった、、間に合わない、
とっさに左手を突き出した、 しかたがない、、
「くれてやるよ」
食いちぎらせて、その隙にすり抜ける!
バーチェルを守らなくちゃいけない、
「ハスーーー!!」
聞こえた、 どこから!?
上!?
空を見上げた、
「そんなのにくれてやることねえぞーー!、手ぇー出しなぁーー!!」
突き出した左手を上に伸ばした、その声に頭より先に体が動いた
マクスは真上の空から落ちるよりも速く落ちてきた。
地面に突き刺さると思った瞬間、すさまじい羽音をたて、
あたりを吹き飛ばすほどの突風を巻き起こし、
オレ達の上、伸ばした左手の高さで止まった。
「その子が落ちないようにしてやりな」
マクスはオレの手をつかみ、そのまま引き抜くように、
一気に真上に上がった。
「マクス、オレ達をあの石切り場の向こうへ、行列の目の前におろして」
マクスに叫んだ、
「んーーー?」
マクスは一瞬何かを思ったようだったが、
「何だか分からないけど、訳があるんだね?」
オレ達は黙って頷いた
「ちゃんともどって来なよ!」
向きを変え加速した、
軍団の先頭と石切り場の中間ほどの場所に、オレとバーチェルをおろしてくれた。
「やばいと思ったらあんた達の首根っこつかんででも連れて逃げるからね」
そう言って少し下がった場所にいてくれる。
もう目の前に軍団が迫っている、
バーチェルは覚悟を決めたようね、ゆっくりまっすぐその列へと歩いていく。
ーーーおばあさま、守ってくださいーーー
数十万の兵士が隊列を組み押し寄せる、その圧倒的な力に立ち向かい少女は叫ぶ
「受け継いだ種族の名、エシトン・バーチェルと女王の名において命じます!」
ーーーおばあさま、ーーーハス!!---
両手を胸の前に突き出した。
少女へ向かって軍団が押し寄せる、
数十万の兵士と少女との距離がゼロになり、その両手が1体の兵士の体に触れた。
「止まりなさい!!」
その声は空気を伝わるよりも速く、水の中を走る衝撃波のごとく、
軍団の兵士の体を突き抜けた。
その意思は一瞬で数十万に伝達された。
目の前の兵士がその歩みを止めたのと同時、遥か彼方、最後の1体もまた足を止めた。
突き出した両手を兵士の体に押し当てたまま必死に踏みとどまった、
足が震えていた。
1体がその手をとり、跪いて言った
「新たな女王よ、我らともにあらんことを」
数十万が跪いて言った。
「我ら共にあらんことを」
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