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未来の星での物語  作者: 凡人(ぼんど)
20/31

アリの女王編 20話 王位継承

「すごい、私を背負っているのに、こんなに速くはしれるなんて、

 優れた力をお持ちなのですね」


少女を背負ったままで少女の全力疾走よりも遥かに速く走ることに驚いているようだった。


「そんなにたいした力があるわけじゃないよ、ちょっとすばしっこいだけだよ」


事実、マクスとオペラクラリスの身体能力と殺傷力は驚異的で自分とは比べ物にならない

タウのことはあまり知らないが、オペラクラリスが自分と似た種族と言っていた、

つまりは、近い能力があるのだろう。


「私達は、能力らしい能力を持っていないのです、あるのは同胞を見分け

 そして意思を伝え合う力なのです」


純血種の昆虫はそれぞれ固有の能力を持っている、

その中でこのグンタイアリの種族の固有能力は平和的なものなのだろう。


少女は集落での暮らしや町でのこと、そしてそこに生きる新蟲や自分達種族のことなど

話してくれた、その声を聴きながらひたすら走った。


塚、いや砦と言った方がいいだろう

砦についたのは、まだ空の色が変わる前だった。

建物に近づきその壁のわずかな凹凸に指をかけ、少女を背負ったまま

はしごを登る勢いで屋上まで上がった。


「あの中だよ」


少女をおろして、石牢を指し示した

少女は自分の足で近づいていき、月を背にして中を見た。


「女王・・・」


「来てくれましたか」


「このような場所に、、許せません、必ずお助けいたします」


少女は怒りをにじませながら石牢に手を触れた


「良いのです、それよりも、あなたに話があります」


女王の真剣な言葉に少女は冷静さを取り戻し、女王を見た。


「まず、はじめに、私達には仲間を識別し意思伝達をする力があることは知っていますね?」


「はい、もちろんです」


「一見すると小さく思えるその力は、我ら種族にとって大きな力に、

 そして他種族にとっては脅威となるのです」


「脅威・・・?私達がですか?」


女王の言葉に少女は戸惑った


「私が捕らえられたとき、その事実は数日のうちに地の果ての同胞にまで

 届いたことでしょう、緊急時に発する音や匂いで離れた場所の仲間にも

 意思を伝えることができるのです」


「はい、それは私にも届きました、仲間から仲間へと、そして私からも、

 伝わっていきました」


「それは本能なのです、自分の意思とは関係なく種族全体に1つの意思が瞬時に

 伝達され共有されるのです」


「意思の共有、」


「そうです、そして女王消失の知らせは、各地の同胞に伝達され

 この地にすべての仲間を呼び寄せるのです」


「この地に・・・どういうことですか?」


「女王消失によって目覚める本能なのです、

 この地を目指す者たちの波はまず遠くはなれた場所から始まります、

 小さなその波は次々に仲間を巻き込み、大きな波となり女王消失の地に押し寄せるのです」


「では、私もその波に、その一部になるのでしょうか?」


「そうなるでしょう、しかし問題はその後です、押し寄せ集まった集団は

 その集結完了を持って軍団に変化するのです」


「軍団、我々が?まさか、」


「事実です、軍団は行く手にあるすべてを滅ぼしながら進む 死の行軍を開始するのです」


「そんなまさか、、信じられません」


「各地にちらばり、新蟲にまぎれ、静かに生きる我ら種族に

 何故今も女王がいるのか、考えたことはありますか?」


「いえ・・・」


少女はちいさく首をふった


「女王の存在とは、他種族を滅ぼそうとするグンタイアリの、

 その本能にはめられたタガなのです」


「タガ・・・では、女王消失の知らせが伝わった今、何をすればいいのでしょうか?」


「軍団は女王の消失をもってのみ招集され、新たな女王の命令によってのみ止まります」


「新たな女王・・・では同胞を止めることは、」


「残念ながら私ではもう、止められないのです」


「何故ですか、女王は今、現にここにいるではありませんか、」


「無理なのです、何故なら私はすでに消失した女王なのです、

 種族の本能は新たな女王でなければ受け入れないでしょう」


少女は絶望にのみこまれそうだった。


「軍団が招集された場合、死の行軍の中で新たな女王が生まれ、

 そして種族を導きます」


「それでは、なにもかも遅いではありませんか」


「そうです、だからあなたが王位継承をし、新たな女王となって

 同胞達を止めてください」


少女の表情は絶望から驚きへと変わり、必死に希望を探していた。


「・・・それで、、止められるのですか?」


女王の言葉を待った


「可能です」


女王は少女に話した、


通常、次の女王は時の女王自らが選び。そして新たな女王となる者の体に

王位継承の証としてその意思を残す、

その者は自らの女王たらんとする意思と先代女王から刻まれた王位継承の意思とを

重ね新たな女王の証とするのだと


「あとはその証が、なすべきことを教えてくれるでしょう」


絶望で満たされていた少女の心に不安と重圧と、そして小さな希望が生まれていた。


「分かりました、女王の仰せのままに」


女王は格子の隙間に自らの腕を差し入れ、少女にその手を握るように命じた

そして厚い壁の途中で互いの手をとった。


「あなたに重荷を背負わせてしまう私を許してください下さい」


少女に話しかけるその声に、女王の厳しさはなかった


「あなたの両親が亡くなってからも、女王として接してきました、

 辛い思いをさせてしまったことでしょう、ほんとうに、ごめんなさい」


物心つく前、両親はハンミョウに襲われて亡くなった

以来、祖母が育ててくれた。

祖母には女王としての役目と立場があり、誰の目もはばからず甘えることはできなかった

たしかに、当たり前の家族の形ではなかったかもしれない、

しかし、祖母の心がいつもそばにあることを感じていた。


「私は、寂しくはありませんでした、

 幼い私の手を握ってくれたおばあさまの手はいつも、今と同じように温かかった」


女王から王位継承の意思がつないだその手から流れ込んできた。


種族の運命を左右する責任の大きさに怯え、怖気ずきそうになる、

奮い立たせたのは、最後に流れ込んできた少女を想う祖母のやさしさだった。


女王はもう立つことはできなかった。

その命が燃え尽きようとしていることを知り立ち尽くす少女に、

小さくやさしい声が届いた


「さあ、いきなさい」


「おばあさま、お別れです、」


少女は告げた


そしてそのまま下がり、ハスの腕をつかんだ


「行きましょう」


うつむき言った少女の声が震えていた。



夜が明けようとしていた。

少女を背負い砦を出て、来た道を走った

顔は見えなかったが、肩につかまるその手がときどき離れるのは、

涙をぬぐっているからだろう、


「女王の命はつきかけていました、捕らえられてからひと月あまり、誰かをずっと

 待っていたのだと思います」


「待っていた?」


「女王から意思を受け取ったときに感じました、女王は悔やんでいました

 自身の油断が招いたこの事態を、でもその最期に、

 祖母は女王の誇りを取り戻せました、あなたのおかげです、ありがとう」


走るハスと少女の背中に日の光が届いた、新しい朝がきた。


そしてその頃、少女にすべてを託した先代女王の命も、静かに終わった。




ここまでお読みいただきありがとうございます


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是非 よろしくお願い致します。


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