デリントン、現る。
エヴァがパーティーに加わって二カ月が過ぎた。
痩せ細っていた体には、すっかり栄養が行きわたって健康的になり、それに比例して彼女の体力も増えた。
そうなると当然、パーティーの戦力もアップし、次々に仕事をこなせる様になった。
そんなある日、ラフィが持ってきた仕事は、胡散臭そうな集団の調査というもの。
ここ最近、子供や若者が行方不明になる事件が相次いでいる。その事件現場でたびたび赤いフードの集団が目撃されていて、彼らが事件と関係があるのかないのか、その調査だ。
「しかし赤いフードという目立つ格好で、人攫いなどするものだろうか?」
「アタシもそう思うんだけどさ、不明者の消息が途絶えた付近で確実にその赤い集団が目撃されてるから、疑わないのも変だろ?」
「赤い……派手……わざと目立とうとしてる、のかも?」
「わざと……」
エヴァの言葉に引っかかる物がある。
かどわかしとは悪党のすることだ。その悪党が目立とうとしている?
いや、有り得ないだろう。
そう僕は思うのだが、今回はエヴァの予想が当たっていた。
最近行方不明者が数人出た町へと向かい、町中にうすーく伸ばした僕の魔力を垂れ流しにして監視していると、それに引っかかる者が現れた。
時刻は真夜中。悪党どもが好む時間帯だ。
微弱な魔力の変動元へと向かうと、そこには案の定、真っ赤なフード付きローブを羽織った集団がいた。
10人ほどのそいつらの中には、眠っているのか眠らされているのは、幼い子供を担いだ者がいる。
「あんたたちが人攫いの犯人ね! 覚悟なさいっ」
「ん? 殺すのか?」
「ダ、ダメよルインッ。こいつらは捕まえるの! 他に仲間がいるかもしれないし、アジトも聞きださなきゃけないもの」
あぁそうか。よし分かった。生かして捕まえよう。
そう思ったのだが、派手な集団のひとりがフードを脱ぎ、その顔を見た瞬間に気分が変わった。
「ふ。久しいな、ルイン・アルファート。うぐっ。貴様を思い出すといつも胸やけがする……貴様と再会したのも運命だろう。ここで……死ねっ!」
そう言って剣を振りかざし挑んで来たのは青い髪の男――
「デリトリン!」
「デリントンだ! 人の名前を勝手に改変するなっ」
あぁそうだった。デリントンだったな。まぁそんなことは些細なものだからどうでもいい。
問題は何故彼がここにいるかだ。
「デリントン。君は何故ここにいる? 一応念のために聞いておこうと思ってね」
「ふん、知れたこと。俺はあの方のために動いているに過ぎない。あの方が求めるモノの為に……その邪魔をするお前は、生かしておかん!」
「あの方……それが誰なのかは教えてくれないという訳か」
「当然! あのお方の名を、貴様の耳になど入れて堪るか!」
そうか。まぁ聞きだす方法は幾らでもある。
血の色に光る魔法剣を振りかざし、デリントンが目前に迫った。
この魔法剣の源……デリントンが扱うには随分と上等な魔法が込められているな。
神クラスの魔法が。
その剣が振り下ろされたが、僕は指先でそれを受け止める。
ふむふむ。これは狂気の女神の魔力か。なるほどねぇ。
大神殿の地下深くに眠るアレの封印が弱まっているのだろう。
その封印を解くための生贄に子供や若者を集めているのか。それとも他の理由か。
とにかくデリントンは僕の邪魔をした。
「いいよね、殺っても」
僕の問いはこの場に居る者に向けてはいない。
「殺られるのは貴様だ! ぐぎぎぎっ」
どんなに力を込めようと、親指と人差し指で挟んだ剣は引き抜けないぞデリントン。
逆に僕がほんの少し力を込め、刃をポッキリと折ってやった。
「な、なっ。マリアロゼ様から頂いた剣が!」
「マリアロゼ!? ル、ルイン、どういうこと?」
「ふむ。どうやら彼女は聖女に選ばれなかったことで、闇への道を進んだらしいね」
折れた刃を見つめ愕然とするデリントン。
「僕は言ったはずだ。次はないからねと。思い出してくれるかなぁ」
「つ……ぎ……」
折れた刃を抱きしめるように竦んだデリントンへ、僕は最大の笑みを浮かべて見せた。
「じゃあ地獄に落ちてね」
そう一言だけ言うと、僕は持てる魔力の全てを右手に収束し、そして唱えた。
「"爆裂聖光弾」
無詠唱のそれは彼を浄化するには十分な力だった。それだけの魔力を込めたから。
影すら残さず天へと召されたデリントン。
あ……。
天に召されてしまったら地獄に落とせないじゃないか!?
「まぁいいや。よし。じゃあ次は誰にしようかな?」
残った赤い集団に笑みを浮かべ振り向くと、その場で全員が失禁して降伏した。