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元魔王は感心する。

 人よりも動物のほうが優れていることもある。

 聴覚、嗅覚、視力。動物の種類にもよるが、どれかが人より優れているというのは、極々当たり前のようにある。

 そして家畜小屋の豚や牛たちにしてもそうだ。


『ブピイィィィッ』

『モオオォォォォォォォッ』


 魔物はまだ家畜小屋へと到着はしていない。その前から豚や牛たちは騒ぎ始めた。


「ルインッ」

「倒すのか? それは冒険者として君の仕事になるのか?」

「し、仕事とかそんなんじゃなくって! ここの家畜が殺されたら、村の人が困るだろっ」


 困っている人は助けたい。もちろん手が届く範囲で。

 そうラフィは言う。

 そうか。なら僕も手伝おう。


「牧場……」


 そう言って獣人の少女が駆け出す。


「あ、待って! ひとりじゃ危ないってっ」


 それをラフィが追いかけるので、僕も後を追った。

 家畜小屋の後ろは柵がしてあって、牛を放牧するための牧場になっていた。

 広い敷地を、牛が狂ったように駆けまわっている。魔物の気配を感じてだろう。


「牛、落ち着かせる」

「無理無理無理っ。危ないからっ」

「落ち着かないと、地獄送りにするぞおぉぉっ!」

「ってルインも叫んだからって、牛が落ち着くわけ――あれ?」


 目を血走らせて走って来た牛たちは、僕の一声でピタリと足を止めた。


「よしよし、良い子だ。幼い頃、こうやって村の牛たちを宥めていたんだ」

「……地獄送り……ルイン、時々怖いこと言うよね」

「ん? そうか?」


 牛は大人しくなったんだから、それでいいじゃないか。

 あとは森から出てくる魔物を一掃すれば終わる。


「す……凄い……」


 獣人の少女はそう呟いて、僕を見上げていた。

 だがすぐにはっとなって森の方を見る。

 くくく。どうやら出てきたようだ。

 だが僕は出て来たソレを見て興ざめした。


「ゴブリンだ……うわぁ」

「あ、あんなにいっぱい!? くっ。そこの君、アタイの後ろに隠れてっ」

「がうっ」

「あ、ちょっと!」


 野性味をあらわにした獣人の少女は、森から出て来たゴブリンらの下へと駆けだす。

 まだ距離は十分ある。今から走っては疲れてしまうだろうに。

 それを追いかけラフィまで走り出した。

 まったく、仕方ない。

 ささっと追いついて二人を抱え、牧場の端まで走った。


「ふにゅううぅぅぅっ、は、早いぃー」

「ぅが!?」

「まったく、ゴブリン相手にそんな張り切らなくてもいいだろう」


 神経が磨り減るほど気を使ってデコピンしなきゃ、直ぐに死んでしまうような、治癒の練習台にもならない奴らだ。

 焦る必要なんかないだろう。

 のんびりと柵を跨ぎ、屈伸運動を終えるころ、ようやくゴブリンらがやってきた。


「"我が剣に宿れ、聖なる灯――聖付与ホーリー・ソード"」


 ラフィは自身の剣に属性を付与。

 牙を剥いた獣人の少女は既に飛び出していった。


「ルイン、あの子のことお願いっ」

「分かった。安心しろ、二人ともちゃんと面倒を見てやるから」

「ア、アタイはいいんだって!」


 頬を染め駆け出すラフィ。

 そうは言っても、僕の支援魔法はほとんどが範囲魔法だからなぁ。

 集中すれば掛ける相手を選別できるが、それは面倒くさい。


「"善き者、我が神の……ぷっ……加護を分け与えん――祝福ブレッシング


 まずは身体能力を向上させる魔法だ。

 次に不可視の盾によって、その身をを護る聖光の盾(ホーリー・シールド)を展開する。

 どちらも僕にとっては不要な魔法だが、二人には必要だろう。


 しかしラフィは立派になったな。

 一撃で確実にゴブリンの息の根を止めている。流石だ。

 そうかと思えばあの獣人の子は、まるで猛獣のようだな。

 落ちていた石を拾い、それをゴブリンの脳天へと力任せに叩きつけている。

 いや、たかが石だろうと、勢いよく急所を突けば殺せなくもない。

 少女は素早く、そして確実にゴブリンの脳へダメージを与えられる位置を狙っていた。

 一撃で倒せないものの、石で殴られたゴブリンは等しく地に転がっている。

 短剣のひとつでも持っていれば、確実に仕留められる実力を持っていそうだ。


 ふむ。では与えてやるか。


 手近なゴブリンが持つ質の悪い短剣を鷲掴みし、持ち主にはパンチをくれてやる。

 おっと。力加減を失敗したせいで、顔だけ吹っ飛んでしまった。

 グロい。


 ラフィが倒したゴブリンの短剣も拾い、これと僕の血を混ぜ錬金魔法を用いる。

 純度が高く、僕の血が混ざることで魔力を帯びた鉄の塊が完成すると、これを更に形成しなおして――

 よし、赤く光る刀身の短剣が完成したぞ。

 欲を居れば装飾の類も欲しかった。


「獣人の少女よ、これを使うがいい」

「うが?」


 野生化しているのか、人語ではなく獣のように返事をする少女。

 投げた短剣を空中で一回転しながら受け取ると、瞳をぎらつかせゴブリンへと迫った。


 喉を裂き、頭を一突きにし、次々とゴブリンを屠っていく。


「良い腕だ。家畜の世話で終わらせるには勿体ない」

「ほんと。冒険者になればいいのにねっと、ルインも関心してないで、手伝ってよ!」

「君だって今関心していただろう。まったく仕方ない――"神の祝福を我が下に。聖なる光よ我が手に宿れ――聖なる拳(セイント・ナックル)"」


 僕の拳が聖なる輝きを放つ。

 正義を掴めと疼く!


「地獄に落ちろ」


 拳を掲げ、僕はゴブリンの群れへと一歩近づく。


『ギ、ギギィッ!?』

『ゲッギャ、ゲギィッ』


 ん? このゴブリンども――


『ギギャギャーッ(こ、こいつ! 王様を倒したあの人間ギャ)』

『ゴブゴブブギャッ!? (な、なぜここに居る!?)』

『ゴブリャーッ(逃げろーっ)』


 どうやらアルファート領の森にいたゴブリンの生き残りのようだ。

 ゴブリンが人の顔を覚えられるほどの知能があったとは、驚きだ。


「な、なんなの? なんかゴブリンの様子がおかしくない?」

「そうだな。逃げるようだ」

「え? いやそれマズいよ。もっと仲間を呼んで報復なんてされたら……」


 なるほど。では皆殺しが一番いいのか。

 なら――


「"全ての闇を消し去り、世界を光に見たせ――邪悪なる者よ、滅びよ! 爆裂聖光弾ホーリー・バースト


 頭上に巨大な光の玉が現れる。

 それはどんどん膨らんでいき――


「ル、ルインそれ大丈夫!?」

「心配ない。邪悪な者にしかダメージを与えないから」

「が、がぅ」

「お前も大丈夫だ、安心しろ」


 大丈夫じゃないのはゴブリンだがな。


 光を地面にぽいすると、辺りを閃光が包む。

 光が消えた後、残ったのは僕ら三人と牛たち。


「やはり一撃で片付くのは効率的にもいいな。無駄な時間を費やさずに済む。そう思わないか?」


 振り向いたそこには、ぽっかりと口を開けたラフィと獣人の少女が居た。


*ここは46話です。

サブタイトルに話数を入れないやり方は失敗だった。

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新作の異世界転移物を投稿しております。
そちらもぜび、お読みいただけるとありがたいです。
ゴミスキル『空気清浄』で異世界浄化の旅~捨てられたけど、とてもおいしいです(意味深)~
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