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元魔王は墓を掘る。

「ねぇルイン……その山は……なに?」

「おはようラフィ。よく眠れたか?」


 東の空が白み始めると、ラフィが起きてきた。

 僕は悪党を手厚く埋葬するべく、穴を掘って今しがた埋め終わったところだ。


「なに、ただの墓さ」

「……いったいアタイが寝ている間に、何があったのさ」

「特に何も? まぁよくあることだ」


 森や人気の無い夜だと悪党はどこからともなく湧いてくる。

 前はそういった奴らで、覚えた神聖魔法の試し打ちをしたものだ。

 

 ラフィが起きて暫くすると、小屋から御者も起きてきた。

 朝食は各自でというのがこの乗合馬車の仕様らしく、御者は自分の分の食事を用意しはじめた。

 そしてラフィと同じく、さきほど僕が作った土の山が気になったらしい。


「あの……あれはいったい?」

「墓だ。彼の仲間のな」


 僕はひとりだけ生かしておいた。もし賞金首だった場合、この男が証人になってくれるだろう。

 違えばまぁ、仲間と同じように地獄へ送ってやるだけだ。


 続々と起きて来た乗客たちも、その都度墓を見て唖然とする。

 こんなことならもっと目立たない場所に墓を作るんだった。いや、寧ろ炎の魔法で焼却すればよかったのか。

 ここのところ、神聖魔法ばかり使っているが、実はこの魔法、対人には効果が薄い。

 まぁ当たり前か。元々は人を癒したり、支援するのが目的の魔法なのだから。

 それでも聖属性を拳に付与し殴れば、対人攻撃として使えなくもない。


 うん。これからは神聖魔法に拘らず、臨機応変に使い分けよう。

 もちろん対魔物相手なら、神聖魔法が抜群に効果がある。

 思う存分、神聖魔法を披露してやろう。


 全員の食事が終われば、直ぐにでも馬車は出発するという。

 魂の抜け殻のようになった夜盗を縄で縛りあげ、乗合馬車の屋根に括り付ければいざ出発!


 昨日の昼過ぎに出発した馬車は、今日の昼前には目的地のオムーアへと到着した。

 田園風景の広がるこの地は、葡萄や林檎を栽培で豊かなのだという。


「葡萄か。今は収穫時期ではないようだな」

「あれって秋の果物だろ? 林檎はその後だっけ?」


 どことなく弾むようなラフィの声。

 ポッソが以前言っていたな。

 女子は果物やスィーツに目がない――と。


 女らしくないなどと自分で言っておきながら、ラフィも立派な女子ではないか。


「しかし依頼は家畜運搬の護衛だろう?」

「うん、そうだね。まずは村長さんの家に行こう」


 と言ってもどの家が村長宅なのか分からない。

 村人に聞きながら一軒の家へと辿り着く。

 

「僕の実家のある村とは大違いだな。この村の家々は随分と造りがしっかりとしている」

「アタイの村とも大違い。もっとこう……壁板には隙間があって、屋根に穴が空いてるなんて当たり前って感じだけど」

「屋根の穴は塞ごう。雨漏りなんてもんじゃ済まないぞ」


 屋根に穴のある家はさすがに無いが、隙間風が入り込みそうな家ならある。

 いや、あったと言うべきか。

 ここ一年でアルファート領にある村の家も修繕し、だいぶん住みやすくはなっているはずだ。

 だがこの村の家はどれも立派に見える。

 木材だけではなく、壁の下半分は煉瓦で補強されて見た目も美しい。

 何よりどの家も同じようなデザインで、葡萄畑が奥に広がる景観に、実にマッチしていた。


「おや、お客様ですかな?」


 男の声がして振り向くと、美味しい物をたらふく食べていそうな中年男性が立っていた。


「王都のギルドに張り出された依頼を見てやって来た」

「おぉおぉ。ようやっと護衛の冒険者さまが来てくださいましたか。さあどうぞ。中へお入りください」


 どうやらこの男が村長らしい。






「王都の肉加工業者に、豚と牛を合わせて三十五頭届けます。数が多いので二往復する予定でして。家畜は村人が世話をしますので、お二人は護衛をお願いします」

「家畜を狙う夜盗がいるのか?」


 揉み手をする村長の話を聞きながら、疑問に思ったことを尋ねてみた。

 食用として奪うのか、それとも換金するためなのか。


「まぁ夜盗よりも、獣に襲われたり、場合によっては魔物が狙うこともありますので」

「あぁなるほど。肉を欲するのは、何も人だけではなかったな」

「その通りです。報酬のほうは家畜を売った金額の5%で。ですので、一匹も殺されずに送り届けられれば報酬は上がります」


 成功報酬というわけか。確かに金額固定で、無事に届けられる家畜が半数以下となると、村の損失は大きいだろう。


「村長さん。家畜はどうやって運ぶんです?」


 ラフィの質問に村長の表情が曇る。


「豚は荷車で、けど牛は……」

「歩かせるのか?」

「はい……」


 まぁそうだろう。牛を乗せて荷車を走らせるとなると、一台につき三頭ぐらいが限界か。

 荷台を大きくし、多頭引きにしても限界はある。

 それに馬は貴重だし、高価だ。いくら裕福な農村だと言っても、家畜の運搬だけに馬を数十頭も飼えぬだろうな。


「二往復かぁ。王都までどのくらい掛かります?」

「お、往復で四日と言ったところでしょうか。もちろん帰りは荷下ろしをして軽くなった分、早くこちらへ戻ってこれます」

「一瞬だ」

「「え?」」


 ラフィと村長が呆けた顔で僕を見た。


 王都は既に僕の記憶デバイスに刻まれた。

 空間転移の魔法で一瞬で行ける。もちろん家畜含めて。


 その為に特大の魔法陣を描く必要はあるが。

完結まで本日中に更新終わらせます。

完結は50話。ラスト3話ぐらいはちょっと強引な流れになっております。

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新作の異世界転移物を投稿しております。
そちらもぜび、お読みいただけるとありがたいです。
ゴミスキル『空気清浄』で異世界浄化の旅~捨てられたけど、とてもおいしいです(意味深)~
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