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元魔王はギルドへ行く。

 王都まで走って数十分。

 以前どこかで徒歩半日とか聞いた気がするが、きっと気のせいだったのだろう。

 それともあの時に比べて僕の身長も伸び、その分早くなっただけ――なのかもしれない。


 ラフィは王都にある冒険者ギルドを拠点に活動をしているらしい。

 拠点と言えど、一度依頼を受ければ王都を離れることも多く、なかなか会う機会も少ない。

 そうフィリアも言っていた。


 冒険者ギルドとやらはさてどこか。


「そこの人。冒険者ギルドはどこだろうか?」


 目の合った女性に尋ねれば、彼女は頬を赤らめ指をさした。

 町の中央付近か。

 一礼をし、女性が指差す方角へと向かうと、暫くしてそれらしい建物を見つけた。


 大きな建物は三階建て。

 町の中央にほど近い建物前には、噴水広場がある。そこに武具を身に纏った男女が大勢たむろしていた。

 あの建物がギルドで無ければ、冒険者に囲まれた悪党の根城か何かだろう。

 まぁそうならそうで、路銀を稼ぐチャンスでもある。


 僕はたむろしている彼らには目もくれず、中へと入った。

 中もまた混雑していた。

 

 奥にはカウンター台。その手前にはいくつかのテーブルが置かれ、数人がそれを囲む。壁には張り出された紙に群がる人間たちの姿が。

 悪党の根城だろうか? それとも――


「ル、ルインじゃないか!?」


 奥のカウンター台からやってきたひとりの赤毛の女――忘れるはずもない。懐かしい顔がやって来た。


「ラフィ、元気そうだな」

「元気に決まってんじゃん! どうしたの? あ、フィリアに会いに来たとか?」

「それもある。だがここに来たのは君に会うためだ」

「わ、私に!?」


 驚くラフィの顔は赤く染まり、何やら恥ずかし気に視線を泳がせる。


「フィリアに聞いたのだ。今はここに居ると」

「う、うん。三日前にね、帰って来たところなんだ」

「そうか。手紙を読んでも、あちこちに行っているようだとは思っていたが。今回はどこに行っていた?」

「北だよ。護衛の仕事でね。あー……立ち話もなんだし、座る?」


 そう言ってラフィは建物奥にある酒場へと案内してくれた。

 ギルドの建物内には、酒場も併設されているのか。

 ここでも大勢の武具を身に纏ったもの――冒険者が居る。


「ルイン、昼飯は?」

「いや、まだだ」

「じゃあここで食べるかい? ここ、飯も美味いんだぜ?」

「ほぉ、それは楽しみだな」


 そう言うとラフィは嬉しそうに微笑んだ。

 その瞬間、周囲の空気が変わる。


「おじちゃーん。おまかせ定食のAとBひとつずつねー」


 気にした様子もなくラフィは店員を呼ぶが、明らかに周りの男たちの視線が彼女へと集まっていた。

 この一年半でラフィはさらなる成長を遂げていた。主に胸のサイズとやらだ。

 それに比べ、フィリアは……まぁこれも個性だ。何も言うまい。


「んでさ、その後、ルインのほうはどうだった?」

「僕が君に質問したのにな……まぁいい。苺のほうは順調に出荷出来ているよ」

「あの苺美味しかったもんなぁ~」

「ほぉ。残念だったな。手土産に持って出た苺は、先ほど全部大神殿に置いてきた」

「これは大神殿に取りに行くしか!?」

「もう誰それの胃袋に消えているだろう」

「ふみゅうぅぅぅっ」


 唇を尖らせテーブルに顎を乗せ不貞腐れるラフィ。

 

 ガタタッと、周囲で何人かの男たちが立ち上がり、その姿を見ようと必死だ。


「随分と人気者だな。まぁ聖女候補時代もそうだったが」

「はぁ……アタイなんかのどこがいいのか。フィリアはさ、お淑やかだし、男からしたら守ってやりたいって思うだろ?」

「まぁそうだな」


 非力だし、重い物は一人で運ばせられない。


「だろ? でもアタイはさ、そうじゃないし……お、女としての魅力なんて……全然……」

「そうか? 君にも魅力はあるさ」

「言っとくけど、胸の大きさがとかだったらぶん殴るよ」

「……健康的な美少女だと思うぞ」

「何その間! ねぇ、今の間はなんなのさ!」


 視線を逸らすと、先ほどラフィが注文した料理が運ばれてきた。

 おまかせ定食Aは鶏肉がメインディッシュとなる料理で、Bは豚肉だ。


「どっちがいい?」


 にこにことそう尋ねるラフィに、僕はもちろん「両方」と答える。


「贅沢者ぉ。アタイだって食べるんだぞぉ」

「だから分け合って食べればいいだろう」

「お、なるほどですな。じゃあ半分こね」

「あぁ。半分こだ」


 ラフィが肉を切り分ける間、背後から凄まじいまでの殺気を浴びせられる。

 まぁスローライフの邪魔をする訳でもないから、殴り飛ばしたりはしないけれど鬱陶しいな。

 ほんの一瞬だけ、魔力を解放し殺気を飛ばしてきた連中に「地獄に落とすぞ」と念を込め一睨み。


 ガタガタと、何人かが椅子ごと後ろ向きに倒れ込む。


「ん? 何かあったのかな?」

「さぁ、何だろうな。ところでラフィ、肉のサイズが違うぞ」

「ぐ……分かったよ。大きいのやるから、文句言うなってば」

「ふふ。ならよし」

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新作の異世界転移物を投稿しております。
そちらもぜび、お読みいただけるとありがたいです。
ゴミスキル『空気清浄』で異世界浄化の旅~捨てられたけど、とてもおいしいです(意味深)~
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