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34/50

元魔王は聖職者になる。

 ぼくのスローライフ計画の邪魔をする者がいる。


 それを知ってからというもの、ぼくはより一層努力を惜しまなかった。

 下級魔法は完全スルー。

 中級以上の神聖魔法を片っ端から習得し、十日掛かってようやく全て身に着けた。


 だが習得しただけだ。

 これを実用レベルにまで鍛えなければならない。


「クリフドー師匠! ぼくを鍛えてください!!」

「よう分からんが……お前、なんかいろいろ大きくなっておらんか?」

「? あぁ、そういえば最近、背の伸びが良くなってますね」

「いや、体の事では無くて……まぁよい。邪悪な意思は感じられぬし、心身共に鍛えてやろう」


 全ての神聖魔法を習得して分かったことは、攻撃に使える物が非常に少ないという事。

 まぁ神聖魔法は回復や戦闘補助が主な役割だから、仕方ないか。


 だからこそ、ぼくの戦い方に合った神聖魔法を極めるっ。

 

 拳に属性を付与し、直接殴る!


 師匠の指導で地下墓地でアンデッドどもを殴った時も、森の中で盗賊らに正義の鉄槌を下した時も、気持ちよかった!

 殴り最高!


 魔法一発で敵を消し飛ばすのもいいが、直接殴って再起不能にするのもなかなか楽しい。


 だが師匠が課した修行は厳しいもので――


「まずは落差二十メートルの滝行じゃ」

「はい!」


 大神殿と隣接する小さな森に滝があった。

 見習い神官も利用する、心を無にする修行に使うという、落差二十メートルの滝だ。

 この滝に打たれて心身を鍛えると言う。


 これに半日打たれたところで、


「もういい! もういいわ! 次!!」

「はい師匠!!」


 平日は神殿での授業もあるので、修行は週末のみ行われる。

 次の週末には神殿から馬車で二時間ほどの場所にある、


「落差五十メートルの滝行じゃ!」

「はい!」


 これに半日打たれたところで。


「も、もういい! 寄宿舎には儂から外泊許可を取っておる。次行くぞ!!」

「はい師匠!」


 そうして暗くなる前に次の滝へと移動。


「落差百メートルじゃ! ここなら……ここなら貴様も根を上げるじゃろうて。ひっひっひ」

「はい!」


 これに翌朝まで徹夜で打たれたところで、師匠が根を上げた。


「お、お前の体はどうなっておる? 限界というものは無いのか?」

「限界? ……さぁ?」

「さぁって……あー……この先に落差三百メートルの滝があるんじゃが……」

「行きましょう!」


 馬車は通れず、徒歩で二時間掛け山を登った。師匠を背負って。

 そうして到着した滝は巨大なもので、幅が数百メートルに渡って広がっていた。

 

 三百メートルの高さから落下する水量は、相当なものだろう。

 水面から十数メートルは水しぶきが上がり、滝つぼは真っ白で見えない。


「見事な絶景ですね」

「うむ。まぁ流石にあれに打たれては、生きて帰って来れぬからな。ほれ、あっちのちっこいのに――ってどこに行っとるんじゃ! おい! 帰って来い!」


 さて、どこに立とう。

 泳いで滝つぼまでやって来たが、水底へと落下する水と、吹き上がる水しぶきとでぼくの体はもみくちゃにされる。

 師匠の声が遠くで聞こえるが、滝の音で何を言っているのか……。

 あぁ、手を振ってくれているな。頑張れということなのだろう。


 よし、頑張るか。

 ふふ。頑張れという声援も、人の身に転生してから送って貰えるようになったものだ。

 有難い。


 師匠の声援に応えるためにも、ぼくは立派に滝行を行って見せる!


 水に潜って立てそうな場所を探していると、大きな岩が転がっているのが見えた。

 僅かだが水面からも出ているようだ。そそこに立とう。


 落下する水をかき分け岩の上へと立ち、そして祈りのポーズを作る。

 くっ。さすがに落差三百メートルの滝だ!

 肩に打ち付ける水が、まるで巨漢大男の拳で肩叩きされているようだ。

 肩こりをほぐすにはちょっと過剰過ぎる。

 なかなかに辛いぞ。


「し、師匠! こ、これが修行なのですね!!」


 岸辺のクリフドー師匠を見ると、項垂れた彼の姿が目に入った。


 この日からぼくは週末になるとここへやって来て、一日滝に打たれるのが日課となった。

 更に裸足で山を歩き、火山地帯を駆け、毒の沼地を渡る。

 心身を鍛えることで、魔力は磨かれ、魔法の威力も底上げされる。


 そうして一年半が過ぎ――


 は遂に神官としての称号を得た。

 つまりこれで、ようやく聖職者となったのだ!


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新作の異世界転移物を投稿しております。
そちらもぜび、お読みいただけるとありがたいです。
ゴミスキル『空気清浄』で異世界浄化の旅~捨てられたけど、とてもおいしいです(意味深)~
― 新着の感想 ―
[一言] 師匠(諦めさせるために修行を口実にきついこと端からやらせてたら、全部クリアされて化け物が生まれてしまった)
[一言] 時がたつのは早いね~
[一言] バレットモンクはこうしてできあがる
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