元魔王は謎を解明する。
「これが『聖域』です」
フィリアが中庭で実演したのは中級魔法。
聖属性の小さな結界を作り出し、中に入った者の傷を癒し、魔物にはダメージを与えるものだ。
あぁいう魔法もぼくも欲しい。
フィリアの次はラフィが実演。
確か治癒魔法が使えるようになったとは言っていたが……。
しかし彼女の右手には剣が握られている。
「"我が剣に宿れ、聖なる灯――聖付与"」
「おお!?」
ぼくの聖なる拳と同じ物か!?
ラフィめ、いつの間に。
しかも内緒にしていたのが、今の彼女の顔で分かる。
ぼくを見てしたり顔だ。
「マ、ママ、マリアロゼささ、さ、さまも、な、何か見せて、く、くくくだ、くださるのですか?」
変態の一言に、マリアロゼが慌てて身構える。
「な、何を仰いますの? この私があなた方ごときに魔法を披露すると思って?」
「す、すみませんでしたっ」
まぁ披露できないだろうな。聖属性を持っていないのだから。
その後もフィリアがいくつかの魔法を披露し、やや疲れ始めたところで実演は終了。
試しに学徒も魔法を試みるが、発動出来た者は居ない。
ただ掠る程度の者は居た。
「わずかに発動の兆しがあります。もうちょこっと頑張れば、きっと直ぐにでも出来ますよ!」
「フィ、フィリア――フィリアさまっ。私、頑張ります!」
「私ももっともっと頑張らなくちゃ。一緒に頑張りましょうっ」
「は、はい!」
今朝までは女子のフィリアに対する印象は悪かった。
だが素朴な彼女の姿を見て、感化されてきた女子も少なくないようだ。
幼い頃から知っている身としては、彼女が嫌われるより好かれる方が嬉しい。
「ルインくんは魔法を試してみないのね?」
「ん? ううぅん……治癒すら使えぬしなぁ」
聖付与はそもそも使える。だが聖域は使えない気がする。
何故なら――回復魔法だから。
回復の初期魔法、治癒が使えないのだ。無理なんじゃないかなぁ。
――あら。まだ気づかれていらっしゃらないのですか?
ぬ? 出たな暇人女神。
――暇人!? ち、違いますー。そこそこ忙しいんですー。
「あれ? なんだろう、この感じ」
「うん。なんだろう……とても暖かい感じがします」
「え? どこ?」
「するか?」
「さぁ?」
どうやら聖女候補の二人は、お前の気配を感知しているようだ。
――ふふ。あの子たちは私が啓示により予言した子ですもの。
ではマリアロゼは?
――鑑定なさったのでしょう? では分かるはずです。
お前が選んだ訳ではないのは分かる。では何故ここに?
――簡単な事ですよ。彼女の家はこの国でも有力な貴族。聖女候補が予言により誕生する――と噂が流れて直ぐ、教団へ莫大な寄付をしたのです。
金で聖女の地位を買うのか。
もしかして過去にぼくの所へ来た出来の悪い聖女もそうなのか?
――……ノ、ノーコメントとさせてください。
金で聖女の地位を得て、そしてぼくの所へやって来て殺されるなんて……。
馬鹿だろ。
ところで先ほどの、まだ気づいてないのかとはどういう事だ?
ぼくに隠し事してる? それとも嘘を付いていた?
地獄に落とすよ?
――ま、待ってください。隠していませんから。ほんと、ね?
――わたくしも気づいたのはつい最近なんです。そう。ほんと。
ふぅん。気づいたって、何に?
ぼくはフィリアやラフィが学友らに囲まれるのを、笑みを浮かべ眺めながら女神に問う。
――ルイン・アルファート。あなたは魔王です。転生した身であっても、魔王であることに変わりはありません。
鑑定では元ってついてたけど。
――ついていても魔王なんです! で、魔王であるあなたは、聖属性とは相性がよろしくありません。
それは分かる。
――ですが聖属性を持って生まれたのは、偶然なのでしょう。
――ただ闇と聖、本来相反する属性が同居しているせいで、魔法の発動そのものを妨害しているのです。
――ですから、闇属性の魔法も、以前ほどの威力を持てないようになっているのだと思われます。
つまり、ぼくの闇の衣でオーガを倒せなかったのは、聖属性が邪魔をしていたから?
――だと思います。そして神聖魔法の初級魔法が使えないのも、闇属性が妨害しているからだと。
――簡単な魔法だからこそ、妨害も簡単。
――難しい魔法になればなるほど、練る魔力量が増します。
――ですから中級魔法あたりだと、発動するのかもしれません。
なるほど。それで初級聖書の全ての魔法が発動しないわけか。
しかしその理論だと、魔力をしっかり練れば初級魔法でも使えそうだが。
――まぁ試してみれば分かる事ですね。
――種を芽吹かせ密林にしかけたほどですから、出来ないことはないと思います。
おぉ!
――ですから下級魔法は諦め、中級以上を習得する方が早いかもしれませんよ。
ぬ? そうなのか?
――中級以上の魔法は、下級魔法の応用だったり上位版ですし。
――まぁ威力が高いとか、範囲魔法になるとかありますが。
威力が高い。
くくく。
くははははははは。