元魔王は不愉快になる。
微妙な反応のまま、その理由を二人は話してくれなかった。
翌日――朝から教室内が騒がしい。
「ルイン! フィリアちゃんと同郷なんだろ? 紹介してくれよっ」
「あ、俺も俺も」
「ぼ、僕もお願いしたいのね」
「面倒くさい」
「「えぇ!?」」
そんな感じでぼくは学友たちをあしらう。
「マリアロゼさまはいらっしゃらないんだろうなぁ」
「あの方はオレらのような庶民とは、別次元に生きておられる方だからな」
「おい、俺一応子爵家の三男なんですけど?」
ぼく以外にも貴族階級の親を持つ者もいる。男爵家、子爵家の子供たちだ。
大地の女神ローリエの大神殿で学ぶ為の入学金は、他よりも安い。
だから下級貴族しかここには居ない。
そんな中で、あのマリアロゼというのは侯爵家のご令嬢だ。
住む世界が違うと言われれば、納得するしかないのだろう。
「ふんっ。聖女候補だってだけで、みんな浮かれすぎ」
「歴代聖女さまにはさ、性格の悪い女も居たって話じゃない」
あー、それ、ぼく知ってる。
うん。何人か性格の悪いの居たよ。
なんか勇者を女賢者と取り合ってたのか、ぼくの前で罵り合ってたり、自分可愛さに勇者を後ろから撲殺したり。
聖女って怖いねーって、その時は思った。
程なくして司祭がやって来て、聖女候補三人の紹介を行うという。
そう……三人だ。
昨日「踏まれたい」とか言っていた変態をチラリと見ると、案の定、顔真っ赤で身震いしていた。
「全員静かに――今日一日、君たちと共に授業を受ける聖女候補のお三方です。それでは紹介しましょう。まずは――」
教壇に立つ司祭がそこまで言うと、銀髪の女が司祭を塞ぐようにして前へ出た。
この女がマリアロゼだろう。ぼくが知らない顔だから。
長くウェーブした黒髪。そして瞳も同じく黒。
フィリアやラフィは白い法衣を着ているのに対して、この女は真っ赤なドレスを身に纏っている。
ぼくたち学徒もまた、白い法衣だ。女子のそれはフィリアたちのとは少しデザインが違うが、気のせいレベルのものだ。
そんな白装束軍団の中で真っ赤なドレスとは。
凄く浮いているが、本人は気づいていないのだろうか?
その女は腕を組み、ぼくたちをぐるりと見渡す。
「マ、マリアロゼさま……」
「お黙りなさい。発言は私が許可を出してからですわ」
「うぐ……」
司祭の年齢は五十半ば。それが十数歳の小娘に言いくるめられるとは。
「ふんっ。そうですわね……んふふ。噂通り、なかなか良いお顔だこと」
マリアロゼはそう言って、ぼくをじっと見つめた。
いや後ろか?
振り向くと女子と目が合う。そして首を振られる。
「ルイン・アルファートですわね。デリントンから聞いていますわ」
「デリントン?」
最近すっかり耳にしなくなった名前。それを聞かされ、ちょっと不快になる。
ぼくを裏切った元学友……くく。くははははは。
「きゃっ!?」
「な、なんですかこの地震は!? みなさん、机の下に!!」
おっと。魔力を駄々洩れさせてしまった。
「お、収まった?」
「な、なんだったのだいったい」
ぼくですごめんなさい。
デリントンの名を聞いて不快に思い、思わずふつふつと怒りを沸かせて地面を揺らしてしまった。
幸いけが人は居ないようで一安心。
「ぐぅ……ちょっとルイン・アルファート!」
「なんだ?」
教壇に掴まり揺れに耐えていたマリアロゼが声を上げる。
何故かお怒りのようだ。
「私を助けなさいよ!」
は? 何を言っているのだこの女は。
そもそもぼくが不快な思いをしたのはお前のせいだろう。
いや、そもそも何故デリントンの名前がこの女から出る?
デリントンはこの国の有力貴族の一声で――有力貴族――
こいつかー!
「私に従いなさいっ。そうすればあなたも司祭に抜擢してあげてよ。なんだったら高司祭にだって……。ふふ。なんたって私は、次期聖女ですもの!」
「あの、マリアロゼさま――」
「お黙りなさい! 私の聖属性レベルは4ですわ! つまり私が聖女決定したも同然!」
マリアロゼの言葉に学友たちがざわめく。
聖属性4……確かに凄い。クリフドー師匠ほどではないが。
しかしぼくには信じられなかった。
何故なら、この女からはぼくに似た性質を感じるから。
つまり闇――
こっそり鑑定を行うと、ぼくの読みは正しかった。
それと同時にこの女は嘘を付いてると分かるし、同時に決して聖女になれないことも――。
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【マリアロゼ・アルカーマイン】
種族:人間
属性:火(1) 氷(1) 闇(2)
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