元魔王は力を手にする。
「えぇ!? あたいも行きた~い」
「わ、私も!」
「いやダメじゃ。この先は危険じゃし、何よりもう祈りの時間であろう」
「「うっ」」
ぼくの拳に宿った聖なる光は、直接相手を殴ることで絶大な効果を発揮する。
どのくらいの効果なのか、それを確かめるためにこれから墓地へと向かうのだ。
不満を口にする二人に、今からの事は明日、ちゃんと話すからと約束をして部屋へと帰らせた。
「では行こうかの」
「はい、師匠!」
「おほっ。儂、今まで弟子は取ったことないのじゃがの。まぁよい。久々に見込みのある奴見つけたからの。そうじゃ――」
部屋の奥にある鉄の扉。その先が墓地へと続く回廊だという話だ。
その前で初老の男が振り返る。
右手を出し、ぼくに握手を求めてきた。
「儂の名はクリフドー・ボーマンじゃ」
「クリフドー師匠……ぼくはルイン・アルファート」
「うむ。では行くぞルイン。覚悟は出来ておるな? この先の墓地はただの墓地ではない。今世に未練や恨みを残し死した者の墓場じゃ」
「……大神殿の地下にそのような禍々しい墓地があっていいのか?」
「細かい事は気にすんな。ほれ、行くぞっ」
クリフドー師匠に背中を押され、ぼくは開け放たれた鉄の扉の奥へと入って行った。
石煉瓦で造られた通路には狭く、ぼくが両手を広げてぎりぎり届きそうな幅しかない。高さも二メートルより少し高い程度か。
天井近くに明かりが灯っているが、火ではない。
「魔法の灯り?」
「そうじゃ。『聖なる灯火』じゃ。定期的に儂が灯して回っておる。本当は高司祭どもの仕事なんじゃがのぉ」
灯火を見る限り、高濃度の魔力が練り込まれたもののようだ。
恐らくは高位の魔法であろう。
つまり、今の高司祭どもにはそれが扱えるだけの能力がない――と。
ゴミのような高司祭ばかりだと、女神ローリエも苦労するだろうな。
――ほっといてください!
くくく。
しかし既に現役を引退したというこの師匠は、戦士としてだけではなく、聖職者としてもかなり優秀なようだ。
これは彼に教えを乞い、なんとしても他の神聖魔法も学ばねば!
やがてぼくたちの行く手に再び鉄の扉が現れる。
「二つ扉を潜れば墓地じゃ。墓地には不死の魔物、ゾンビやグール、スケルトンがおる。たまにゴーストやレイスも出るでな。肉体を持たぬ魔物も、聖なる拳があれば殴れる」
「属性付与だからな。それは理解している」
不死の魔物は元から闇属性。だが確か1ぐらいだったか。
倒す前に鑑定をして確認をしておこう。
鉄の扉を二つ越え、ついでに何やら結界のような魔法の壁も越えやってきた墓地。
うん。腐敗臭がぷんぷんする。
地面は土。あちこちに十字架が立ち、一見すれば何者も存在しない辛気臭い場所だが。
ぼくらが足を踏み入れた途端、ぼこぼこと土が盛り上がり、地面から人の手が生えた。
半分腐ってやがる。
こっそり鑑定の結果は、闇3とのこと。やはり高くなっている?
「さぁルインよ。聖なる拳を使うがいい。上手く倒せなくとも儂がサポート――」
「"神の祝福を我が下に。聖なる光よ我が手に宿れ――聖なる拳"。成仏っ」
光る拳で手近なゾンビを殴ってみた。
だが拳がゾンビの腐った体に到達するよりも前に、光に触れ崩れ落ちてしまった。
「なっ!? 打撃よりも先に、光に触れ浄化しおったか……これは予想以上じゃの」
「しかし師匠。これでは殴った実感もなく、爽快感が得られない」
「む? そうか。そうじゃの。ではもう少し奥へ行くか」
グール。長年浄化されず放置されたゾンビが進化した魔物。闇(4)。
ゾンビよりも耐久力が高いグールだが、やはり拳に触れる前に浄化されてしまった。
スケルトンもまた然り。
ゴーストやレイスは、不死の魔物としてはゾンビやグールより上だが、そもそもが肉体を持っていない。
本来であれば聖なる拳を付与して殴れるのだと師匠は言うが、やはり殴れなかった。
拳から発せられる光に触れただけで、ここの奴らはみな成仏してしまうのだ。
なんてことだ……。
ぼくはもっと殴ったぞという爽快感が欲しかった!
まぁ無い物は仕方ない。
それよりようやく手に入れることができた、聖属性の攻撃手段だ。
それが何よりも嬉しかった。
ぼくは遂に……遂に最強のスローライフを実現する第一歩を踏み出せたのだ!!
「師匠! もっともっと魔法を教えてください! ぼくの考えた最強のスローライフの為に!!」
「何故のんびり暮らす為に魔法が……まぁよい。お前は見込みがありそうじゃからの」
「くくくく。待っていろ、ぼくの最強スローライフ!!」
迫る有象無象の不死どもをばったばったと一撃で屠り続ける。
あぁ、やはり一撃で全てが終わるって、素晴らしい。
楽だし、爽快感もあるし。
うむ。殴れないのは残念だが、触れずに倒すのも爽快感あるではないか。
ふはは。
ふははははははは。
「はーっはっはっはっは!」
「うん。お前、いつか破壊坊主と呼ばれそうじゃな」