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元魔王は隠密になる。

 備品管理司祭に謝罪した後、急いで食堂へと向かったが、デリントン一行の姿は既に無かった。

 遅かったか……まぁ仕方がない。明日の朝食は絶対に彼と食事をしよう。


 食後は就寝まで自由時間。

 だがその間に入浴も済ませなければならないので、あまり長い時間ぶらぶらもしていられない。

 

 とはいえ、現在大浴場には大勢が詰めかけているのは、感知魔法で確認済みだ。

 大勢で賑やかなのは好きだが、入浴はのんびりしたい派なぼくだ。

 人が少なくなったタイミングで入ることにしている。


 ではこの時間にフィリアの様子を見に行くとするか。

 彼女は今、大神殿の奥に居る。

 感知で位置は分かるが、そこが部屋なのか、はたまた別にある浴室なのかも分からない。

 まぁ行ってみれば分かることだ。


 だが神殿の奥、壁で囲まれた聖域と呼ばれる場所へは入っては行けないと、ここへ来た日に教えられた。

 フィリアはその聖域の中に居る。

 

 うん。バレなければいい。


 静寂サイレンスの魔法で足音を消し、姿消し《ハイディング》の魔法で景色に溶け込む。

 難なく聖域を囲む壁までやってくると、次はこの三メートルの壁を軽く飛び越えて侵入成功だ。

 が――、見上げた壁の上には、ひとりの少女の姿があった。

 そして遠くから聞こえる、何者かを探す声。


「――さまっ。ラフィさま!?」


 声が近づいてくると、壁の上の少女は焦ったように動き出す。

 そこから飛び降りるのか? ならば場所を空けてやろう。

 そう思ったが違った。


 足を滑らせ、落下してきた!?


「うわっ――」

「危ないっ」


 静音も姿消しも、声を発すると効果が切れてしまう。

 それでも自然と零れた声に、ぼくの姿は露になってしまった。

 そして落ちて来た少女を無事にキャッチ。


「ふにゅっ」

「大丈夫か? 怪我は無いか?」

「あ、あんた……突然湧いて出て来た?」


 まぁそう見えるだろうな。魔法で姿を消していたのだから。

 怪我はなさそうなのでそっと地面へと下ろすと、人探しをする声が壁のすぐ向こうへとやって来ていた。


「ラフィさまの声が聞こえたような?」

「まさかまた脱走を計ったのか!?」

「まったく。何百年ぶりかに神の啓示があったと思えば、田舎娘が二人も聖女候補に選ばれるとは」


 などという声が聞こえる。

 聖女は数百年ぶりの誕生なのか。

 まぁぼくが魔王だった頃も、数十年、長くても百年ちょっとにひとり誕生していた程度だし。

 そう考えれば、まぁちょっと長かったかも? 程度か。


 しかし魔王であるぼくが居なくなったのだから、聖女なんて必要ないだろう。

 あ、ぼくが転生してきたから、聖女も現れたとか?


 おい、ローリエ。ぼくは別に世界を破滅させようとか、混沌の海に沈めようとか、無に帰そうとか考えてないからなっ。

 ぼくを倒す勇者一行なんて用意しなくてもいいんだからな!


 ……返事がない。

 まぁいい。


「君、もしかし――」

「しっ」


 少女に口を塞がれ、喋ることを阻まれる。

 うん。この子がラフィという名の聖女候補だな。そして聖域から脱走してきた――と。


「表の区画を探すぞ! まだ大神殿からは出ていないだろうからな」

「まったく。聖女になれば貧乏暮らしともおさらばだっていうのに、何がそんなに嫌だっていうんだ」


 声の主たちが去っていくと、少女はようやく安堵の息を吐いた。

 聖女候補であれば、フィリアの事も知っているだろう。

 今彼女は自室なのか、それとも浴室なのか。


「君がラフィか」

「うぐっ――ち、違う」

「ふぅん。じゃあ不法侵入者か。司祭さまに突き出そう」

「待ってダメっ。そうだよ、あたいがラフィだ。だから突き出したりしないでっ」


 燃えるような紅い髪を乱し、彼女は懇願するような目でぼくに縋った。

 青みがかった紫色の瞳は、フィリアに比べると随分鋭く見える。

 年頃は同じだろうが、こちらの方がしっかりした印象を受けるな。


「しかし聖女候補が聖域を抜け出して、どうするのだ?」

「……窮屈なんだよ、あそこは」

「窮屈? 狭いのか?」

「いや、そうじゃなくって……ってかあんた誰?」

「おっと。これは失礼。ぼくはルイン・アルファート。最強のスローライフを目指す為に、ここで神聖魔法を学んでいる」


 淑女に対するお辞儀であいさつをすると、少女は頬を染め後ずさった。


「あ、あんたさ……変な奴だって、言われない?」

「いや全然、まったく。そのように言われたことはないなぁ」

「嘘。なんだよ、その最強のスローライフって。変な奴」


 変だろうか?


「そんな事よりもラフィ。大神殿を出ていくのか?」

「……まだ……考えてない。けど、あたいは聖女になんかなりたくないんだっ」

「ほぉ。だが選ばれているということは、素質があるという事だろう。よかったか鑑定をさせてくれないか?」

「鑑定? あんた、魔法が使えるの?」


 鑑定魔法は神聖魔法ではなく、魔術師が使う系統の物だ。

 聖職者を目指す者が魔術を使うというのは、おかしいだろうか?


「あんた、あたしに聖属性以外の何があるか、見てくれる?」


 だがラフィは思いのほか興奮気味に、ぐいぐい来た。


ニンニン。

お読み頂きあるがとうございます。

本日より暫くは一日一話更新となります。

何時に更新するかは、ちょっとばらばらの時間になるかなぁと。

どの時間がアクセスが多いか、いろいろ試してみたいと思います。

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新作の異世界転移物を投稿しております。
そちらもぜび、お読みいただけるとありがたいです。
ゴミスキル『空気清浄』で異世界浄化の旅~捨てられたけど、とてもおいしいです(意味深)~
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