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入学式。
誰もが真新しい制服に身を包み、新たな目標や決意を胸に秘め、期待と不安に胸を膨らませる。
胸になんでもかんでも入れ過ぎな気がするが、色々と詰まってるんですよ、げへへ。
僕はイケメン美少女から紅葉というご褒美を頂いた後、ぽつぽつ現れた新入生に付いて行った。
敷地が広すぎるため、迷子になって入学式に間に合わず、悪目立ちするフラグは折っておいた。
生徒会とか風紀委員とかに目を付けられて冬実姉さんに迷惑を掛けるわけにもいかないからだ。
ちらちらと窺う視線を感じるが、頬の紅葉を羨ましがっているのだろう。
そう思いたい。
「あれ、秋? 秋じゃないか!」
「ん?」
僕に近寄ってくる大きな影。
聞き慣れた声に吐き気を催して振り返る。
「俺だよ! 肥溜だよ! 肥溜 糞太だよ!」
「あぁーあぁー聞こえない。」
「集るハエを追い払うように……、早速で困るぜ!」
肥溜 糞太。
中学の頃につるんでいた三魔将(黒歴史)の一人。
中三最後の大会で中学生横綱となった男だ。
その豪胆さや面倒見の良さから数多くの後輩から慕われ、女子にもモテていた。
しかし、その幻想をすべてぶち壊す性癖が彼にはあった。
それは。
「そんな路傍の糞を見るような目で俺を見るなよ。」
「おうふ。」
冗談みたいな名前が冗談ではないのだ。
そう、彼は重度のスカトロマニアなのだ。
恐らく実際に経験すれば顔を顰め、性癖を改めるきっかけにはなるだろう。
だが、未だにその機会は訪れていない。
モニター越しだと臭いって感じないからね! 仕方ないよね!
「おい、糞野郎。なんでお前がここにいる? ここは優秀な生徒しか入れないはずだろう?」
「それはこっちのセリフだが……俺の実績は知ってるだろ? 水洗だよ水洗。」
この野郎、あえて変換ミスしやがったな。
だが、そんな指摘をするつもりはない。
「秋こそ、どうしてこの学校に? はっ……まさか俺を追って!?」
「断固として違う! お前が僕の金魚の糞よろしく追ってきたんだろう!!」
「おほぉう! やっぱ元祖はキレが違うぜぇ! この一回で拭ける感覚、堪んねぇ!」
「……話が進まんから話すぞ。俺は過去を断ち切るためにこの学校に来たんだ。」
「その過去が目の前にいたんじゃ目糞鼻糞だな。」
がははと笑う糞太。
くそったれ!
声には出さないけど。
「あー久しぶりに笑ったぜ。最近、稽古ばかりで腐ってたからな。」
まぁ、こいつにも色々あるんだろう。
才能だけの天才ではいずれ落ちる。
才能もある天才でなければ駄目なのだ。
「それで秋のほっぺの紅葉はなんだ? 日焼けとかじゃないんだろう?」
「こんな綺麗な手形の紅葉があるか。それに日焼けする状況ってどんなだよ。」
うたた寝と春の陽光、手形の紅葉のシンクロ召喚なんてロマンデッキ過ぎる。
事故はプレイングで補えないんだぜ。
「冗談だよ。どうせまた女にやられたんだろ? 入学初日にやるな。」
「僕を勝手にチャラ男にしないでくれないか、風評被害も甚だしい。確かに女にやられたんだが。」
「やっぱり正解じゃねえか。」
「違う! あれは事故だったんだ……。」
嫌な事故だったね。
でも、色々柔らかくて、いい匂いで、辛抱堪らなくなりそうだよ。
あっ、噂をすればイケメン美少女だ。
先ほど見せた顔が嘘みたいに完璧なイケメンになっている。
「おや、その声我が友秋ではないか。」
「ぐふっ!」
吐血してしまった。
この胡散臭い喋り方。
既に三魔将(糞太)の件があったから、もしかしてとは思ったが、考えないようにしていた。
だがしかし、もしかして。
「おや、同志糞太も一緒ではありませんか。」
「おう、お久しぶりぶりだな。」
「あぁ、頭痛が痛い。」
線が細い切れ長の男。
メガネをくいっと上げる白手袋が制服と相まって執事然としている。
だが、中身は生粋のサディスト。
鞭と蝋燭は彼のデフォルト装備なのだ。
流石に今は持っていないが。
「蝋燭沢もこの学校だったのか! 知らなかったぜ!」
「以前から再三同じ学校になると言っていたはずですがね。」
「僕は全く持って全然預かり知らぬところなのだが。」
「えぇ、その方が面白いと思いましてね。同志糞太は偶然ですが、我が友秋は必然でしたよ。」
「一体どういうことだってばよ。」
「活字中毒とはいえパンフレットを学校に持ってきてはいけませんよ。」
どこぞの忍者もビックリな諜報力!
単純に僕の失態だったよ、ちくしょー。
「それにしてもお前はどうしてこの学校に? 流石に僕を驚かすためだけじゃないんだろう?」
「私はこの学校の馬術部に呼ばれましてね。選手兼調教師として推薦を貰いました。」
蝋燭沢 鞭
中学の頃につるんでいた三魔将(黒歴史)の一人。
調教師の家系に生まれた鬼畜メガネである。
犬や猫といった一般的な動物から虎やライオンといった猛獣をも手懐ける。
彼に手懐けられないのは女(じゃじゃ馬)だけらしい。
だから童貞なのね、納得。
「お前らがいるということは、あいつも来ているのか?」
「あぁ、俺は知らないが、蝋燭沢はどうよ?」
「彼は私達と、というより我が友秋に懐いていましたからね。あまり事情は知らないのですよ。」
「そうか、もうこの際全員いても良かったんだけど。」
もうすでに三魔将(黒歴史)の二人が同じ学校になったのだから。
しかし、いないとなると仲間外れにしてしまった感じがして申し訳なく思う。
いや、こいつらが勝手にいただけなんだけどね。
「まもなく入学式が始まります。生徒並びにご来賓の皆さんは着席をお願い致します。」
やっと入学式が始まるらしい。
席に着いた感じだと二人と同じクラスっぽい、解せぬ。
そうして波乱の学校生活が始まるのです。