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この学園には優等生と劣等生が存在する。
わけはなく、ごく普通の学校である。
強いて言えば中高一貫のため敷地面積はかなりのものだ。
東京ドーム何個分とか、まぁほとんど部活動のグラウンドとして使われている。
だからと言ってか、部活動は全国でも強豪扱いされている。
僕は汗水流して友情を深め合っているのを遠くで見ている傍観者に過ぎない。
夜は汗水流して愛情を深め合っているのですね。
そっちの方は是非カメラを持って傍観者になりたいです、はい。
「誰もいない。」
そんな好条件で雇ってくれる人がいないわけではなく、単純に人がいない。
生徒会の姉妹に釣られて早めに出てしまったために時間を持て余している。
「やぁ、ここは空いているかい?」
「……えぇ、はい。」
声を掛けてきたのはイケメンだった。
男でも惚れてしまいそうになるほどだ。
掘れてまうやろ、物理的に。
「……なにか失礼なこと考えてる?」
「いえ、見惚れていただけですよ。」
キョトンと目を丸くするイケメン。
誤魔化すために無意識に褒めてしまうのは癖だ。
家の姉妹ではこれが良く効くのです。
「うぇっ、えっ、えぇ、私が?!」
狼狽するイケメン。
誰もがそう思っているから直接言われたことがないのかもしれない。
「他に誰もいませんよ。」
ナイスボート的な意図はありません。
「あぁ……面と向かってそう言われたのは君が初めてだよ。」
イケメンの初めてになれるなんて女冥利に尽きるわ。
「あながち、あの娘が言っていたことも嘘じゃないんだね。」
「えっ、何か言いました?」
「いや、別に。」
まさか僕がリアルで難聴を披露してしまうとは。
「それで、座るんですか?」
ベンチは他にもあるのにわざわざ隣に座ろうとするのは僕と同じパティーンだろう。
「あぁ、座らせてもらうよ。」
いい尻してやがる、男のクセに。
「こんな時間に何をしていたんですか?」
「実は入学式の準備があってね。少し暇が出来たからぶらついていたんだ。」
生徒会ってことは冬美姉さんと同じか。
制服も高校のものだから間違いないだろう。
二人が並んで歩く姿はさぞ絵になることだろう。
「それで見つけた男にホイホイ着いてきたんですね。」
「言い方は気になるけど、そういうことだね。」
僕は改めてイケメンを見る。
睫毛ながっ、肌もスベスベだし、唇ぷるぷるやん。
「あまり褒められたことじゃありませんよ。先輩は、女の子なんですから。」
ガタッと驚いたように立ち上がるイケメン。
そんな行動したらバレバレですやん。
「……いつからだい?」
「……。」
正直に答えると僕の食指が動いた時点なのだが。
これを言ってしまうと変態と罵られかねない。
それもやぶさかではないが、入学初日から変態扱いは僕にとっては美味しい。
いや、まずい。
中学の頃は周りに変態がいたせいで一端の青春を味わえなかったからな。
その失った青春を取り戻すために難しい編入試験をパスしたのである。
「いえ、僕が一目惚れしたのですから、女性であって欲しいと思っただけですよ。」
「ふふっ、君は……ジゴロの才能があるね。冬美が推す理由がわかる。」
ようやく女性らしい笑みを浮かべたイケメン。
男子用の制服から覗く首元が美しい。
非常に耽美である。
「姉さんと知り合いでしたか。」
「冬美は男女共に人気があるのに浮いた話一つなかったからね。それも、これを毎日されているなら納得だ。」
うんうんと頷くイケメン。
そんなイケメンの右肩に虫が落ちてきた。
春だから仕方ない。
「あっ、虫。」
「えっ!? きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
イケメンが俺に覆い被さる。
胸板はサラシでも巻いているのか平らだが、良い匂いがする。
「取って! 虫取って!!」
「もがっ! もがががっ!(取ります!取りますから!)」
殆ど二人羽織状態だったが、幸い落ちてきた場所をわかっていたので右手で払うことが出来た。
抱きつかれている状態から右肩の虫を右手で払うとどうなるか。
必然的に抱き締める形になるのである!!
もう一度言おう!
会って間も無いイケメン、もとい美少女を抱き締めているのであるっ!!!!
「早くっ! 早くぅっ!!」
「もがっ! もがががっ!(取れました!取れましたから!)」
未だに抱き締めてくる美少女に伝える手段がない。
仕方なく、美少女の頭を優しくタッチする。
頭ポンポン。
リアルだと髪型が崩れてしまうから受けが良くない行為である。
「ふぇっ……。」
そして、ようやく虫がいないことに気が付いた美少女。
そして、ようやく現状を理解する美少女。
文字のトートロジー、僕も動揺してます。
「きゃあああああああああああああああああああっ!!」
美少女は僕の頬に紅葉を作ると、走ってどこかに行ってしまった。
季節外れも良いところである。
それもこれも。
(青)春だから仕方ない。
そう思うことにした。