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「ええいままよ!」
僕は水道で手を洗っていた。
あの後悶々とした気持ちだったが、そのままでは午後の授業に差し障ると判断したのだ。
英断、のはず。
のはずなのだが、どうして僕の両目から小便が止まらないのだ。
ちょっと舌を這わせるだけで、ちょっと匂いを嗅ぐだけで。
それだけで歯磨き粉ぐらいは特定できるのに。
「くんくん。」
「あの。」
「くんかくんか。」
「リアルでその擬音はないと思いますよ、星太さん。」
洗い終わった僕の手の匂いを嗅ぐ美少女。
まごうことなき星太であった。
「女の匂いがする。」
「ぎくっ。」
「それも美少女で。先輩の。」
「ぎくりんこ。」
おいおいどうなっているんだ。
どうしてそんなことがわかる。
僕もついつい変にオノマトッペちまったぜ。
「笑うなら笑え。僕は意気地のない男だ。」
「笑わないよ。あきを笑うやつがいたら僕が許さないから。」
星太の何がそう言わせるのか。
ちょっと中学時代に絡んでいただけにしては凄く好かれている。
それこそ自分が真っ当な人間だと勘違いしてしまうほどに。
「せめて、歯磨き粉さえわかれば…。」
「……オーラツープレミアム。」
「ありがとう! 星太!」
勢い良く星太の手を取ってしまった。
そのせいで周りで息を飲む声が聞こえたが多分勘違いだろう。
それにしても星太に歯磨き粉ソムリエの才能があったとは。
「お礼はキスでいいよ、あき♥」
「えっ、それはさすがに。」
んーと目をつぶりキス待ち顔の星太。
それにしてもこんなに近くで見ても男とはわからない。
服を脱がさないことにはこの秘密は解けないままなのだろう。
流れに身を任せてしまいそうになるが、星太は男だ。
僕は普通にノーマルだから、星太を愛することはできない。
なぁなぁで過ごしていれば、いつか傷つくことになる。
僕は強い意志を持って星太を突き放す。
「ちゅっ。」
「んー、こどもキスだぁー。」
キスしましたとも、おでこにな。
僕はその辺の線引きはしっかり出来ているのさ。
「へへっ、まぁあきからしてくれるのは嬉しいから許す♥」
「さいですか。」
なんか徐々に外堀を埋められている気がします。
こうなったら星太が僕を嫌うことに期待するしかない。
他力本願寺此処在。
「じゃあ、僕は先に行くね。」
「あぁ、また後で。」
オーラツーか。
あれ、もしかして星太は僕の歯磨き粉も知ってる感じか。
意外とスキンシップもしてるから当の昔にバレていたわけだけど。
やっぱりちょっぴり恐怖だな。
星太が女の子だったらヤンデレとかになりそうだな。
そんなことを思いましたまる。
ところ代わって食堂。
このマンモス校には食堂が複数ある。
東西南北に4か所あり、扱っているメニューも差別化されているから驚きだ。
和洋中にB級グルメ、隠れメニューも含めると採算が取れているのが不思議でならない。
学費が高いのはもしかしたら、そのせいか。
いらぬ心配をしてしまう。
「「「おぉっとチャレンジメニューの注文が入りました!」」」
「まじか、どこのチャレンジャーだよ。」
「どうせ新入生だろ、わかるんだなそういうの。」
「冷やかしはよそでやれ、けっ。」
なんかイベントが始まったみたいだ。
すでに観戦するように円になっている。
その中心にいたのは見知った相手であった。
「よう、秋。どうせならお前も観ていけよ。」
「糞太……お前何してんの?」
特等席とばかりに隣に座らされた。
いや席に座れたのはありがたいけど。
「知らん。メニューが多いから色々食べられて、尚且つ安いやつを頼んだらこうなった。」
「あぁ、糞太のガタイのせいで勘違いされたのか。」
それとも新入生恒例のいたぶりなのか。
イベントに飢えているのか。
その全部だろう。
「とりあえず俺の雄姿を見ててくれ。」
「いや、見ててもお腹は膨れないでしょ。僕も何か頼んでくるよ。」
注文をしようと席を立つが、観戦客に囲まれているため抜け出せない。
それに遠目で見たところ、レジの方には長い列が見えた。
僕はしぶしぶ席に着いた。
「えっと、すいません店員さん。」
「はい、なんでしょう? 今は私が実況なのでメニューは承れませんが。」
「……彼と同じメニューをください。」
「へっ、あっ、それは。つまり。」
「「「新たなチャレンジャーの登場だぁー!!!!」」」
「まじかよ、最近の新入生はイカれてるな。」
「あのガタイが良い方はわかるが、もう一人の方はさすがに。」
「冷やかしもあそこまでいけば優秀だな、はっ。」
言えない。
注文しに並ぶのが面倒だけだったとは。
でも学生が利用する食堂だ。
そんなに大したものは出ないだろう。
「「「それではルールを説明します! 制限時間は30分! この東の食堂のメニューをこれでもかと敷き詰めたチャレンジメニュー! 総重量はなんと10キロ! チャレンジ成功するとお代は無料! しかも東の食堂の殿堂入りが決まります! それこそが最大の名誉でしょう! 尚失敗すると10万円払ってまらいまーす。」」」
「糞太、手持ちは?」
「お札は持たない主義だ。」
「どういう主義だよ? それを言うならお金は持たない主義だろ。」
カッコつけているところ悪いが、僕の手持ちもそんなにない。
あぁ、高校デビューにかこつけてお弁当を卒業したせいでこんな目に。
姉妹様の悲しい顔させた罰なのだろうな。
そんなこんなで文字数。




