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業界のアイドル、あきちゃんだよ~よっろしくぅ!
はぁー、この自己紹介を定期的にする流れ、もういいかな。
もういいよね、そこが私のゴールだから…。
あれ、目から小便が出てきやがる。
ふと視線を感じ、後ろを振り返る。
さすがに糞野郎とは言え、モノローグまでは読めないよな。
自意識過剰過ぎたかな。
僕の需要なんてゼロ通り越して第三限の方にまで行っちゃってるからな。
いっちゃてる♪いっちゃってる♪
「ところで小説サークルなのか。小説研究会なのか。サークルって勝手に大学のイメージが強いんだよなぁ。大学かぁ~その頃には僕にも彼女とか出来たりしてるんだろうか。」
そこで真っ先に浮かぶのが星太の時点で僕は疲れてるんだろう。
次点で龍崎会長なのだから、僕の性癖が心配である。
ノンケでいたい。ずっとトイザらスキッズ。
そんなこんなで小説サークルの部室に、私が来た。
「百面相のように顔が変わっていたけど大丈夫?」
「先輩に会うのに緊張していただけですよ。」
まさか後ろから来るとは予想していなかった。
あき、うしろ!の野次がなかったぞ、おい。
「とりあえず中に入ってちょうだい。」
「そんなとりあえず生でみたいな感じで言われても。」
中に生。
どっちのワードもエロいと感じるのは私が思春期だからさ。
決してバイトのせいなんかではない。
「さて、それじゃあ入部テストの件だけど。」
そういって窓際の席に座る黒崎先輩。
間取り的には団長の席だといえば伝わりやすいだろう。
「あぁ、それですか。僕は別にダメなら別のところでも(ry」
「合格よ。文句のつけようがないくらいにね。」
そう言った黒崎先輩の、いや黒崎可憐の顔はとても妖艶な笑みを浮かべていた。
ヤンデレの女の子が身悶えるかのような、そんな不穏な空気。
夕焼けバックに黒タイツで僕を責め立てていても不思議はない顔だ。
「たった二千字。されど二千字。そんな短編でここまで感情を揺さぶられることなんて今までなかった。感覚的にはそう、あの本を読んだ後のような読了感。」
「先輩が素人の小説を過大に評価してくれるのはありがたいのですが。」
「他の人は誤魔化せても私だけは誤魔化せない。それに公式の情報で年齢だけはわかっていたはず。」
黒崎先輩の綺麗な顔が間近に迫る。
これが色っぽい雰囲気ならウェルカムスイーツだが、そんな甘い感じではない。
はっきりわかんだね。
「あなたのそのバイトって、もしかして。」
「先輩、少し黙ろうか。」
僕は更に接近してくる先輩の唇に人差し指を当てる。
呆気に取られる先輩をよそに僕は虚空を見つめ言った。
「あんまりいい趣味とは言えないんじゃないかな。」
「っ!?」
「誰っ!!」
僕の一言で気配が遠ざかっていった。
他に誰かいたのか。
意図せず危機回避できたみたいだ。
「この学校って忍者でもいるんですかね。」
「忍ぶ趣味を持っている人は結構いるみたいだけどね。」
「なにそれ、怖い。」
どうやら黒崎先輩も少し落ち着いたようだ。
さっきまで目の焦点合ってなかったからね。
「えっと、それで、あの…。」
「あぁ、多分先輩の想像通りです。」
「っ!? やっぱり!?!?」
言うが早いか黒崎先輩は本棚に直行し、本を何冊か手に戻ってきた。
「ずずず、ずっとファンでした! サ、サインしてください!!」
「あぁ、はい。」
目の前に並べられた本の数々。
帯にはこれでもかと美辞麗句が並べられている。
天才。最年少。芥川賞。直木賞。ノーベル文学賞。
見ているほうが恥ずかしくなってくるぐらいの絶賛具合に軽く眩暈がする。
ってか内容的にかなり過激なはずなのに全年齢のところに普通に置いてあるのが謎だ。
もっとこそこそ読むものだと思うんだけど。
表紙に慣れたようにサインをする。
元々は殴り書きのような字だったので、かなり練習した。
今では習字教室とか開けるレベルにまで成長した。
それでも楷書でサインしないからあまり役には立っていない。
「あ、ありがとうございます……。」
「えっと、そんなサインくらいで感動に咽び泣かなくても。」
「だって、メディアに一切の露出とかなくて。男か女かもわかんなくて。唯一受賞したときに年齢だけが載ってて。それが冗談みたいな年齢で。」
初めて一本の作品を書き上げたのは12歳の時だったからな。
ただ感情の赴くままに書き上げた小説。
タイトルも濁流とか何の捻りもない。
病院のベッドの上で書き上げたその作品を同部屋のお爺さん。
の見舞いに来ていたお孫さんが読んで出版社に持ち込んだ流れだ。
今ではその人が僕の担当をしているという数奇な運命である。
「えっと、それじゃあ僕も貰っていいかな?」
「えっ?」
僕は目の前にいる黒崎可憐先生の本を差し出した。
昨日本屋に行って買ったものだ。
「すごく面白かったよ。ちょっとジャンルは違うけど、洗練された言葉のセンスと若さからくる勢いが綺麗に調和していた。特に夜の描写はすごく幻想的で見習わないといけない部分があったよ。」
「やばっ。しぬっ。いっそころして。」
「あっ、ちょっと生意気だったかな。ごめんね。」
「そっちじゃないです! 大先生に書評貰えるとか神過ぎるだけなんで。」
先輩は慣れた手つきでサインを書いてくれた。
僕の正体を知った上で書いてくれたのは先輩が初めてだ。
「成瀬君は自由に部室使ってもいいし、幽霊部員になっても大丈夫だから。」
「いやちゃんと部活動しますよ。中学生のときは散々だったんで、青春を取り返します。」
「高校生の台詞じゃないわね。それと成瀬君の正体について知っているのは誰かいるの?」
「僕の担当編集だけですね。だから、先輩が初めてなんですよ。」
「あはっ、やばい、鼻血出そう。」
そんなこんなで僕の正体がバレテーラ。
団鬼九。
本人は官能小説家だと思っているが、世間での評価は純文学の寵児。
図書館にも普通に本が置いてある。
ちなみに編入試験に自分の作品が出てきたおかげでギリギリ合格できたラッキーボーイ。
近々の悩みは先輩の押し付けた人差し指をどう堪能するかである。




