18
リムジンの中は広かった。
だが、広すぎるために各々が好きな席に座れば話すことすらままならない。
仕方がない。
そう、仕方がないのだ。
僕が会長の隣に座っているのは。
付き合ってもいない男女が隣り合うなんてふしだらだからね!
「えっと、あにぃはどうして会長の隣に陣取ったの?」
「清夏。会長は冬実姉さんに好意を持っている。それを死守するのは弟としての当然の役目だ。」
「その割には嬉々として会長の隣に行っている気がしたのですが。」
「気、気のせいだよ! 僕はノンケ(ry」
ここでノンケだと言ってしまうと会長の性別に疑惑の目を向けられるのでは?
僕は会話の中で脳みそを超速回転していた。
多分、今の僕の中のニューロン数は億を超えている。
……それ、普通だな。
「でもないのかなぁ。将来的に目覚める可能性も無きにしも非ずみたいな。」
「あにぃ、なに言ってるか意味不明なんですけど。」
「清夏。秋くんは色々な方面に配慮しているのよ。このご時世だもの。」
なんとか誤魔化せたか。
まぁ、確かに今のご時世だったら同性愛の一つや二つ。
って姉さんに僕ホモって思われてる!?
せめて、バイにしてよ!
「ふふふ。」
ふと笑い声が聞こえた。
隣に座っている会長からだ。
会長は口元に拳を持ってくるポーズで笑っていた。
「君たち兄妹は仲が良いんだね。」
目の端に涙を溜めている会長。
ちょっとドキッとしてしまった。
あっ、会長その涙貰ってもいいっすか?
ちょっと自分塩分不足なんです。
他意はありません、本当です。
「会長はご兄弟はいらっしゃらないのですか?」
「私は一人っ子だからね。素直に羨ましいよ。」
「会長も家に来ますか?」
「ふふっ、それは口説いているのかな? 秋くん。」
いたずらっぽい笑みを浮かべる会長。
あぁ、もうこの人は。
本当に男だと偽っている自覚があるのだろうか。
いちいち僕のツボを的確に押してくる。
今すぐにでも押し倒したくなる。
「会長がそれを望むのなら。」
だから、この言葉も決して嘘じゃない。
はっと息を飲む声が聞こえる。
会長だけじゃない。
冬実姉さんも清夏も頬が少し赤い。
あれっ、また僕何かやっちゃいました……。
出来れば無自覚チートで無双する鈍感な主人公になりたかった。
「まぁ、こんな冗談も言い合えるくらい仲が良いんですよ!」
そう言って会長と肩を組む。
会長は男。会長は男。本当は女だけど、今は男。
華奢な肩から伝わる温度も。
少し躊躇いがちに伏せる顔も。
その全てが男なのだ!
「友情! 高架下で殴り合って大の字になって空を見上げるタイプの!」
「清夏はだいぶ古いタイプのマンガが好きなんだな。」
「はっ? いくらおにぃでも王道を軽んずるのはギルティなんだけど!」
「そうですよ、秋くん。全ての物語は王道があるからこそ邪道や覇道が生まれるんです。」
「えっ? 古いと言っただけでこの言われよう。いや、僕も好きだよ!全部!」
「やっぱりあにぃって移り気しやすいタイプなんだ。」
「あちこちに愛をばらまいてお姉ちゃんを困らせるのね。」
「はい、退路を断たれました!」
どっかで聞いたことのある歌詞を呟く冬実姉さん。
あれもだいぶ古いやつじゃなかったっけ。
でもあの頃のマンガってその時代の良さが詰まってるんだよなぁ。
うむ、やはり王道を軽んじるのは良くないな。
「君たちはいつもこんな感じなのかい?」
「いつもはもっと落ち着いてる。あにぃは会長の前だからテンションが高いだけ。きもい。」
「清夏。兄に言葉のナイフを突き立てるのはやめなさい。」
「清夏。秋くんは自分が気持ち良くなるために人を不快にさせるのが上手いだけよ。」
「言葉のマシンガンでボロボロだぜ……会長は軽口を言い合える人とか近くにいないんですか? 生徒会とかに。」
少し考え込む会長。
しかし、あまり良い解答は見つからなかったようだ。
「生徒会はみんなの模範となる存在だからね。普段から真面目にするよう心掛けているから。」
それも一つの形だと思う。
僕みたいに馬鹿をやったり好き勝手やるのが全てじゃない。
でも、会長も冬実姉さんに好意を持つという設定で少しは変えようとしているのかもしれない。
少しずつ、そう少しずつ、変わっていけばいい。
だから、僕は会長の心の氷を少しずつ溶かしていけばいいのだ。
「ふぇっ!」
「……秋くん。会長の胸に抱き着いて何をしているんですか?」
「い、いやぁ、モノローグ的にこうするのが正解かと……。」
「嫌がる生徒会長に詰め寄るあにぃ。男同士なのに……男同士なのに……良い。」
ん? 清夏の目が変わったか。
もしかして、僕のせいで目覚めたのか。
しかし、これも成長か。
清夏、お前も変わっていくんだな。
「秋くん、真剣な眼差しで妹君を見つめるのも良いが離れてくれないか?」
会長の態度も少し変わってきたようだ。




