17
まるで羊水に浸かっているかのような微睡の中。
少しずつ意識が覚醒していくのを感じる。
い、いやだ!
僕はお布団と結婚するんだっ!
そんな必死の抵抗も虚しく朝はやってくる。
「……ぁっ。」
「んぅ……。」
目を開けるとそこには妹様のご尊顔があった。
ちょっと罰が悪そうな、居た堪れなさそうな感じの顔。
あとどことなく頬が赤いような。
「起きたんなら下に行くね。」
「あっ……あぁ。」
そそくさと出て行く妹様。
僕は思う。
やはり妹に起こして貰うのは兄の特権だと思うのだ。
あぁ、全国の可愛くない妹をお持ちのお兄様方には関係のない話だったね。
その全てに追悼と哀悼の儀を。
可愛くない妹がいるからこそ、可愛い妹が映えるのだ。
「……さすがに起きるか。」
また起こしに来てくれる確率もあるが、不機嫌になる確率もある。
下手な博打は打たない。
信用や信頼は失くすのは一瞬なのだから。
僕はそそくさと支度をしてリビングに降りた。
「おはよう、秋くん。」
「おはよう、冬実姉さん。」
ぱたぱたとスリッパの音を立てながら朝食の準備をする姉様。
制服にエプロン姿が最高にマブいぜ。
あぁ、全国の可愛くない姉をお持ちの(以下略
家が桃源郷だと外の世界には出たくなくなってしまう。
でも女神達も下界に降りてしまうのだから仕方なくお外に出るのだ。
「おにぃ。早く食べないと冷めるよ。」
「あぁ、そうだな。いただこうか。」
「ふふふ、なんだか夫婦みたいなやり取りですね。」
「はっ! んなっ! ……そんなわけないじゃん。」
「ははは、僕はこんなに可愛い奥さん達と一緒になれて幸せだなぁ。」
「……ばか。」
「あらあら、私も入れてくれるなんて。秋くんは罪作りな人です。」
いつもどおりに軽口を叩きながら朝食を頂く。
昨夜の修羅場を考えると想像できないほど穏やかな朝だ。
きっと今日は何事もなく平穏な一日になるだろう。
僕はそう思っていた。
「では、行きましょうか。」
「三人で一緒に登校とか恥ずいんだけど……。」
「確かに周りの目が気になるかも……。」
主に後ろから刺される的な意味で。
幸せと不幸の絶対数が同じなら、いつ清算されるのかが気になるところです。
それはもう凄惨の一言でしょう。
……朝はまだ肌寒いですね。
外に出ると、一人の執事がいた。
「あれっ?」
僕は後ろを振り返る。
僕たちの家に間違いはない。
しかし、前には執事&黒塗りの高級車。
疲れているのかな。
「やばいよ、やばいよ。」
「清夏。その台詞はあまりよろしくない。」
「リムジンですか。ダックスフンドみたいで好きですよ。」
センチュリーじゃないからフラグは折られた、のか?
執事が横にいるということは、その主は車の中にいるようだ。
もしかすると早々に僕は刺されてしまうのだろうか。
お尻だけは絶対に死守するぞ。
「朝早くにすまない。」
そう言って出てきたのはイケメン生徒会長の龍崎薫たんである。
王子様系のキャラだとは思っていたが本当にお金持ちだったようである。
僕の乙女心が玉の輿に乗れと言っているわ、きゅんきゅん。
「おはよう、冬実。それに秋君に清夏君。」
「おはようございます会長。」
「おっすおっす。」
「ちょっと、あにぃ。何よその挨拶! あっ、おはようございます!」
いやぁ、朝からあまり固いのもね。
固いのは下半身だけにしておこうぜ。
冬実姉さんはいつもどおりだけど、清夏は少し動揺しているようだ。
まぁ傍から見ればイケメンな王子様だから仕方あるまい。
僕? 僕はメロメロですよ。
正直、性別なんてただの記号だ。
会長が男でも女でも好きになっていただろう。
……ごめんなさい。嘘です。がっつり会長を女性として意識してます。
「ふふふ、相変わらずだね秋君は。」
「会長もいつもどおり素敵ですよ。」
「えっ、あぁそうかい? ありがとう。」
「いえいえ、事実ですから。」
会長が少し照れ臭そうにしている。
僕としては事実を言っただけなのだが、ちょっと臭かっただろうか。
臭いが気になるお年頃なのである。
「それでどうされたのですか会長? 今日は何か特別な用事でも。」
「あぁ、いやなに。冬実の顔が見たくなってね。」
「事前に連絡していただかないと困ります。ご近所の皆様が驚きますから。」
「そうだね。今度からは気を付けるよ。」
会長の冬実姉さんへのアプローチは露骨だ。
むしろわかりやす過ぎる為に周知の事実として認識されている。
会長がどうして性別を偽っているのかは知らないが、秘密を守る為には有効な手段だろう。
「お姉ちゃんにイケメンの会長。それにおにぃの三角関係。少女マンガ的にはありね。」
「兄妹の時点で僕は負け確定じゃない? それなら大穴狙いで会長を巡って争うとかどうよ。」
「えっ? 男同士じゃん。」
「……清夏。お前はそのままでいてくれ。」
「?」
世の中には男同士の恋愛でないと興奮できない人種がいるのだ。
どうか、清夏がこのまま何も知らずに生きていくことを切に願う。
それにしても大穴を狙うって言葉えっちくない?
どうやら僕は手遅れだったようだ。
「折角車で来たんだ。一緒に学校に行かないかい?」
会長の提案に僕たちは乗ることにした、物理的に。




