15
「んうぅ~あきく~ん。」
「あぁ、はいはい。秋君ですよ~。」
「ちょ、ちょっと。あたしにも構いなさいよ。」
現在、冬実姉さんと清夏に絶賛甘えられています。
右腕には冬実姉さん。左腕には清夏。
これが俗にいうハーレムエンドってやつか。
……どうして、こうなった。
――――――
事の発端は僕が研究会、まぁほとんどサークルだよね。
その帰りが遅くなってしまったのが原因である。
あれから黒崎先輩が良くなるまでずっと看病していたのだ。
さすがに遅いからと帰ってしまえるほど僕は冷たい人間じゃない。
当の黒崎先輩は。
『す、すまないわね。はしたないところを見せてしまいましたわ。』
と言って、恥ずかしそうにしながら解散となった。
いやはや、先輩のはしたないところが見れて僕は満足です。
そこそこ遅くなってしまったのだが、僕は冬実姉さんや清夏に連絡をしていなかった。
正確には電池が切れて連絡できなかったのだ。
それがこの状況を作り出したと。
冬実姉さんと清夏は入学祝いをするために早く帰ってきて準備をしていたようなのだ。
それなのに連絡がつかないから殊更に心配を掛けてしまった。
「あきくぅ~ん。」
家に着いて扉を開けた瞬間に清美姉さんが抱き着いて来た。
時々幼児退行してしまう可愛い姉である。
それからはずっとこのとおり。
身体の一部が離れることはない。
ご飯の時も肩を密着させていた。
「冬実姉さん。もう離れないと。」
「いやっ、冬実って呼んで。」
「冬実、離れなさい。」
「いやっ!」
取り着く島がない。
そして痺れを切らしたのは清夏だった。
「お姉ちゃん、おにぃから離れて。」
「ふふっ、清夏は羨ましいでしょ?」
「はぁっ!? そんなわけないし!ありえないし!」
「そうなのか清夏?」
「全然だし!というか中三で甘えるとかださいし!」
「ここに高二で甘えてる姉がいるぞ。」
「うぐっ。」
しどろもどろになる清夏。
自分で姉をださいと言ってしまった手前気が引けているようだ。
清夏はお姉ちゃんっ子だからな。
「まぁ、もうしばらく離れなさそうだし、清夏もどうだ?」
俺は空いている方の腕を清夏に差し出す。
「はあっ!?」
「嫌ならいいんだ。」
「いや、あの、その別に。嫌とかじゃないし。」
そう言っておずおずと抱き着いてきた清夏であった。
そして、冒頭に戻る。
「すんすん……秋くん?他の女の匂いがします。しかもこれは私と同じ……先輩?」
「ふ、冬実姉さん! 何を言ってるんだ!?」
「確かに甘い匂いがするわ。」
「清夏まで!?」
急に雲行きが怪しくなってきた。
甘い空気が一転、修羅場へと。
山の空気と女心は変わりやすいとはこのことか。
意味合ってるかな?
「ほっ、ほら、あれだよ。冬実姉さんも見たとおり会長と色々あったから!いやぁ、会長っていい匂いしてたしそれじゃない?!」
「会長の匂いとは違います。それに会長は男ですよね?」
「うっうん、そうだよ。会長は男だよ。いやぁ、逞しいものぶら下げてたから間違いないよ!」
「あ、あにぃ。今日一日で一体何があったの……。」
会長の性別を言えない手前、誤魔化せないか。
清夏、そんな兄を変質者を見るような目で見るんじゃありません。
「それに帰りが遅くなった理由を聞いていませんでした。」
「ね、ねぇさん!締まってる締まってる。」
「あにぃ、諦めて。怒らないから。正直に話して。」
二人の瞳からハイライトが消えた。
これはまずいぞ。
逃げようにも両腕は取られている。
力尽くで振りほどけば二人に怪我をさせてしまうかもしれない。
僕は腹を括る。
「小説サークルに入ったんだけど、そこの先輩が急に倒れちゃってね。看病してたら遅くなったんだよ。」
「小説サークル? 深窓の令嬢がいる、あの。」
「有名な小説家がいるんだよね? 可愛い小説家の。」
えっ、黒崎先輩、深窓の令嬢とか言われてるの?
ベタだけど窓越しに佇む先輩は確かに令嬢と言っても差し支えない。
中身はサークルクラッシャーだけど。
今度教えてあげよう。
そしたら、また恥ずかしそうな先輩が見れるぞ。
「部活だと時間的拘束があるから研究会にしようと思ってね。バイトもあるから。」
「確かに一見矛盾はなさそうですね。」
「お姉ちゃんがそう言うなら、あたしも文句はないよ。それよりあたしは御稚児ちゃんについて聞きたいんだけどっ!」
あぁ、そういえば清夏が間違えて中等部の入学式に連れて行ったんだよね。
挙句にモデルに勧誘して世界を目指す約束をしたとか。
なんなの青学の柱になっちゃう感じなの?
清夏がドイツに行ったら、お兄ちゃん泣いちゃうぞ。
「星太は僕の中学生の時の友達だよ。」
「しょうた? なんか男みたいな名前だね。まぁ、あんなに可愛い子を発見出来ただけでも価値のある一日だったわ。このあたし自ら勧誘してしまうくらいにね。」
男なんだけど訂正した方がいいのかな。
でもカッコよく約束したのに、やっぱりなしっていうのはどうなんだろう。
ちょっと自分に酔ってる感じの清夏には言い辛い。
「あの子、おにぃの彼女なの?」
「えっ、星太が? そんなわけないじゃん。」
「でも噂になってましたよ。教室でイチャついていたとか。」
「……おにぃって見境ないよね、ほんと。」
「えっ、僕って見境ないの?」
「会長ともイチャついてましたね。」
「僕って見境ないね。」
ひとまず修羅場は回避できたぞ、やったね。
「それで天草先生を言葉攻めにしたというのは本当ですか?」
僕の学校生活が修羅場すぎる。




