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「では濃密な時間について再度伺います。」

「いきなりですわね! それはもう流した話でしょ!」

「流すのは汗だけにしましょう。」

「もうやだ、この後輩怖い。」


黒少女は先輩のようだ。

というか美少女な先輩をこんなに弄れるなんて。

頼んだらしっぽりいけるのではなかろうか。


「とりあえず服を脱ぎましょうか。話はそれからです。」

「とりあえずの使い方間違ってるわよ。あと私は冷え性だから拒否しますわ。」


そんな理由で拒否されるとは思ってなかった。

僕は暑がりだから着けなくていいよね?

とかに応用できそうだ。

素晴らしき発見。


「それで僕は何をすればいいんです。」

「前回の話を全く聞いてなかったのかしら。小説を書いてほしいだけよ。」


やっぱりそれかぁ~。

でも書くのは嫌なんだよなぁ~。

マスを掻いて誤魔化すか。

おまわりさん、僕です!


「先輩は書く専なんですか?」

「あぁ、私はどちらもかしら。読みます?」


一冊の本を渡された。

冊子ではなく、ちゃんと製本されている。

あれっ、これ本屋にあるやつじゃね。


黒崎くろさき 可憐かれん。」

「ペンネームじゃなくて本名よ。」


聞いたことがある。

子供でも知っているほどの有名人だ。

中学生作家でありながら軒並み賞を受賞した天才少女。

そういえば、どこかで見た顔だと思った。

新人賞の会場で見たんだった。

そうか、もう高校生になっていたのか。


「これを見せられては書く気が失せるのですが。」

「うっ、そういう意図はなかったのですが。」


黒少女こと黒崎先輩は申し訳なさそうに伏し目がちになる。

プロに素人の文章を見せるというのは中々にハードルが高い。

飛び越えるより潜った方が早いくらいだ。


「黒崎先輩はどうして僕に小説を書かせたいんです?」

「いや他意はありませんわ。でも、文章には人生の変遷が見える。あなたを深く知る為に必要だと思ったのよ。」

「それを評価していたら部員がいなくなったと。」

「いや!彼らはプロになりたいと言ったから本音をぶつけただけよ!」


黒崎先輩は歯に衣着せないタイプだろうしなぁ。

プロ目線の評価とか一般人にはきつすぎる。

僕の周りの小説家達は編集と喧嘩しながら書いていた。

実績があって自信になってようやく書き続けられるのだ。

実績もない者にとっての評価は毒に等しい。


「ということは、この小説サークルのクラッシャーは黒崎先輩なんですね。」

「い、嫌な言い方をしないで! それにそのとき来てなかった部員の席はまだ残ってます!」


真面目な部員を一掃してしまったと。

それでも研究会が存続しているのは先輩の実績なのか。

幽霊部員が最低人数は残っているのか。そのどちらかだろう。

そして、新しくやってくるのは先輩に色目を使う輩どもときた。

最低限小説を好きかを試さんとする先輩の気持ちはわかった。


「黒崎先輩って不器用ですよね。」

「憐憫の目で私を見ないで。」


それなら小説を書くのもやぶさかじゃない。

それに先ほどの黒崎先輩の悲しそうな顔を見たら他の研究会になんて行けない。

僕も案外甘々なのかもしれないな。


「ジャンルは何ですか?文字制限は?」

「書いてくれるの!? う、うむ。それじゃあ恋愛もので二千字程度の短編で頼むわ。」

「了解です。」


素人に二千字も書かせるとは。

先輩はこう見えて意外に鬼畜なのか。

あっ、黒タイツが僕を攻め立てる。

そのリビドーに、感情の奔流に身を任せる。

僕はペンの先から感情が溢れだす。

同時に苦悩や苦痛が僕を襲ってくる。

でも、僕は知っている。

この先に何があるのかを。


――――――


「できましたよ、黒崎先輩。」

「あぁ、ごめん。ちょっと、その……あなたに見惚れてましたわ。」


先輩もおべっかを使えたのかと笑ってしまう。

最後の読点を打った瞬間に僕は現実に戻ってきていた。

その間、黒崎先輩を放置してしまったが頼んだ手前ずっと僕を見ていたらしい。

ちょっと恥ずかしいな。


「では、読ませてもらいます。」

「えぇ、どうぞ。」


黒崎先輩に原稿用紙を渡す。

今度は僕が待つ番である。

先輩は文字を読むときには眼鏡を掛けるようだ。

長い髪を耳に掛ける仕草は確かに美少女そのもの。

その顔が驚愕に変わる。

眉間に皺が寄る。

目に涙を溜め、鼻を啜る。

そして、頬を赤らめる。

百面相のように変わる先輩の顔は見ていて飽きない。

やがて、読み終わったのか。

先輩はこちらを射殺さんばかりの目で見てきた。


「まず感想ですが。」

「はい。」


サークルを壊した評価が来る。

僕は身構えた。


「しゅ、しゅごい……。」

「はっ?」


聞き間違えたかな。


「あまりに凄すぎて少し逝ってしまって。今も身体を駆け巡るものに抗いながら言葉を紡いでいて。だが、それも……もう、我慢のげん、かっ、いぃっ!!」


ビクンビクンと大きく痙攣し黒崎先輩は机に突っ伏してしまった。

まるで絶頂したみたいだったが、まさかね。

文章を読んで絶頂とかコーラを飲んで酔っ払うくらい有り得ない。

だが、黒崎先輩は実際に小さな痙攣を繰り返している。


「先輩、こんなところで寝たら風邪引きますよ。」

「んふぅっ……あぅ……んひっ…。」


目の焦点が合っておらず、呼び掛けにも反応しない。

かなり体調が悪いようだ。


「先輩、ちょっと失礼しますよ。」


肩を掴んだ瞬間。


「だ、だめぇええ!!」

「うげっ。」


先輩が大きく痙攣した。

おいおいマジかよ。

こりゃ相当に重傷だぞ。


「先輩、すいません。」


僕は先輩をお姫様抱っこする。

すると、先輩は虚ろな目で僕を見ながら、虚空を掴む。

先輩の甘い息だけが僕の耳を侵す。


「よいしょっと。」

「んきゅっ……。」


僕は先輩をソファへと移動させた。

これで少しは良くなったはず。

あとは、ハンカチを濡らしてきて額に乗せる。


「はぅ。」


気持ちよさそうな先輩を見ながら僕は思った。

今日はバイトがなくて本当に良かったなと。

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