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「それで会長。僕をお昼に誘った理由をお聞かせ願えますか?」
所変わって会長に案内された一室。
事前に予約しないと使えない上、防音設備完備に録音録画機器持込み不可という部屋だ。
僕の知識を総動員して考えてみた結果、完全なヤリ部屋だと理解した。
もしかして、誘われてるのかな。
秘密を握られてからといって自暴自棄になるのはまだ早いと思います。
でも悔しがりながら行為に耽るというのは結構滾るものがありますよね。
事後に事も無げに服を着るシーンとか特に好きです。
「……。」
あれ、聞こえてないのか。
もしかして、無視しているのかな。
確かに抱き締めたけど、その仕返しにしては手間を掛け過ぎだ。
僕は思考の末、恐る恐る声を掛けた。
「えっと、薫さん?」
「あぁ、君をお昼に誘った理由だったね。」
合ってたよ。
名前呼びしないと返事しないとか可愛過ぎかよ。
もう僕は会長を男扱いなんて出来ない。
ホモォの風評被害も甘んじて受け入れるよ。
「私が男子の制服を着ているのには理由があるんだ。」
「あっ、そうなんですね。てっきり女の子が好きなんだとばかり。」
「わ、私はノーマルだ! 男が好きだ!」
「ということは僕の事も?」
「うっ……す、少し、気になっている程度だ。」
あぁ、ヤバイ。
恋愛経験皆無なのに年上としての威厳は保ちたい。
そんな見栄が垣間見えて、僕の嗜虐心を刺激する。
食指が動く。
「僕も薫さんの事、気になってますよ。両思いですね。」
「そ、そうなのか……。」
「皆に言えない秘密、もう一つ作っちゃいますか?」
「秘密って。それは一体どういう……?」
僕は顎クイして会長の顔を覗き見る。
これから何が起こるのかわからない不安。
でも少しだけ期待するような熱っぽい視線。
唇に親指を這わせると、ビクッと震える。
えっと……つい悪ノリしたけど、良いのか?
僕の予想だと顎クイした時点で紅葉を頂けるとばかり。
ええい、ままよ!
据え膳食ってやるぜ!
僕がヘタレ主人公じゃないことを証明してやる!
「会長〜入学式の片付けもせずに何をやって……えっ。」
舌っ足らずな声に可愛らしい顔。
うん、生徒会のマスコット的な子かな。
でも、ごめんね。
今取り込み中なんだ。
先輩だろうけど察して貰えると助かる。
「会長が男を連れ込んで…えっ、それで逆に迫られて…あの、その。ふっ、副会長〜!!」
「ちょっと待って。さすがに副会長はダメ。」
冬美姉さんが来るの?来ちゃうの?
身内にホモバレとか勘弁してくれよ!
焦る余り僕はテーブルに乗せていた膝からバランスを崩し、会長の方へと倒れる。
「きゃっ。」
「ふがふが。」
あれ、可愛い悲鳴が聞こえたけどどうなってるんだ?
真っ暗で何も見えない。
「あらあら、これはこれは。」
聞き慣れた声が聞こえた。
僕は顔を上げようと動くが頭を何かに挟まれ動けない。
「あっ……んぅ、ちょっ。ち、違うんだ冬美!」
「顔を真っ赤にして一体何が違うんですか会長。あと秋くん、会長の股に顔を埋めて何をしているんですか。」
「がっ。(えっ。)」
今そんな状況なの?
挟まれていたのは会長の太ももでした。
これは会長のを虚無僧の如く咥えてた可能性が微レ存ですね。
音色は会長の喘ぎ声ですって、やかましいわっ!
「副会長〜耽美ですぅ。四足歩行の動物なんですぅ〜。」
「楓、帰って来なさい。」
「はっ、会長と見知らぬ少年が密室でイチャラブなのですぅ。」
「その逢瀬を邪魔したのは楓なのですよ。」
「で、でもノックはしたのですぅ。」
うーん、どうやら僕も少々暴走していたらしい。
ノックに気付かないなんて……あれ、この部屋確か防音だったよな。
「ノックは聞こえないからチャイムを押すのですよ、楓。」
「あぅあぅ。」
やれやれと顔を振る冬美姉さん。
なんだ僕のせいじゃないんだと安心。できねぇな、できねぇよ。
「大方、秋くんが暴走した結果こうなったんでしょう。会長も、秋くんは可愛ければ男女関係なく迫ってくるのですから一対一では会わないように。」
「うっ、今度からはそうするよ。」
「えっ、なんで納得したの? 僕はそんなにインモラルじゃないよ。本当だよ。」
ついプルプル震えてしまう。
あれ? 今日一日を振り返ると案外的外れじゃないな。
「会長、今日のことは全部オフレコにしましょう。」
「……そうだね。そうして貰えると助かる。」
意図を汲んだ会長が頷く。
これが会長が望んでいた言葉だ。
まぁ元から会長が女の子なんだと言い触らすつもりは毛頭ない。
そんな勿体無いことはしないのだ。
「はわわ、通じ合ってます。もう既に。」
「はしたないですよ、楓。」
グゥーとお腹が鳴った。
会長の方から聞こえたけど、これ以上弄るのは可哀想だ。
「お腹が空いたんで僕はこれで。」
「私も未だですから一緒にどうです、秋くん?」
冬美姉さんは逃さないとばかりに言った。
やっぱり姉さんも少し怒ってるみたいだ。
「わかりました。冬美姉さん。」
僕は気まずい空気の中、昼食を食べた。
想像していた昼食とは違い、ほとんど味を感じなかった。
いや、元から味など感じはしないのだ。




