第八話 お姫様抱っこ
次話更新です。
キャラクターの個性を出すのは難しいですね。
性格の安定はもっと難しいです。
ここまでコンスタントにPVがついています。
連載は初めてですので感覚がつかめませんが、引き続きよろしくお願いします。
クロウベアの息の根を止めると、リラクは大きく息を吐いた。
クロウベアの巨体から降りて、リスティの下に歩み寄った。
リスティは穏やかな息をしながら眠っていた。外傷は治したので、疲労で眠っているだけだ。
ただ……。
目の毒である。服が切り裂かれているため、所々で白い肌を覗かせている。
「…………」
リラクは無言のまま、外套を脱ぎ彼女を包む。
「うん……、見なかったことにしよう」
そう言って、空を見上げた。
「今日はいい天気だなあ……」
空にはどんよりとした雲があった。
クロウベアから魔石を回収し、リスティを両腕で抱き上げて、森を抜けた。
カロウセに戻ると、何かと注目を浴びた。
門番からは職質を受け、街中では多くの視線を感じた。ヒソヒソ声からは『お姫様抱っこ』という言葉。
「お姫様抱っこって何だよ……」
意味を知らないリラクは首を捻るしかなかった。
リラクが泊まっている宿『小鳩亭』に到着した。扉の前には椅子に腰かけている女の姿。足を組み、キセルを咥えていた。
女は煙を吹かし、リスティの顔を見る。
「おかえり、リラク。その別嬪さんをどこで拾ってきたんだい? 二人で泊まるなら二倍払いなよ。あとシーツ代は別料金だからね」
「違うよ、マリアナさん。彼女はリスティといって俺の幼馴染だよ。森で怪我をしているのを見つけて、助けたんだ。——ところでなぜシーツ?」
マリアナは眉を上げた。
「あら、本当だな。部屋は空いてるから一緒に来な。お代は貰うからね」
「わかってるよ。先払いの分から差し引いておいてくれ。ところでシーツは……?」
マリアナは「あいよ」と言って、空き部屋まで案内する。リラクも後ろをついていった。シーツのことは何も教えてもらえなかった。
空いている個室の前に来て、リラクが訊く。
「あと服を貸してもらえないか?」
「何に使うんだい?」
「リスティの服がボロボロで、着替えはここにはないんだ。だと言っても、このままにはさせらないから」
「ああ、そういうこと。いいよ、貸してやる。こんな可愛い子にボロい服は着せられないからね。ただ、あとで返しなよ」
「ありがとう。この後、服を買いに行くから。そのあと返すよ」
マリアナは「わかった」と頷き、ジト目でリラクを見た。「何か忘れていないか?」というような視線を感じる。
リラクは理解できず、ビクつきながら問いかけた。この人には何かしら迫力を感じる。
「……何?」
「それで……誰が着替えさせるんだい? まさか、あんたがやるとか言わないよな? いくら幼馴染でも若い女の子の裸を見るなんてことは、さすがにしないよな?」
「…………あっ」
そこまで考えていなかったリラクを見て、マリアナはため息をついた。
「馬鹿な子だねぇ……、わかったよ。あたしがやっておくから、あんたはさっさとその子の服を買ってきな」
「ありがとう……。よろしくお願いします」
「任せておきな」
マリアナはニッと、頼もしそうに笑った。
リスティのことをマリアナに任せ、リラクは宿を出た。
服を買おうと思ったが、あいにく金がない。昨日言った店のおかげで財布の中身は空っぽだった。
まずは金策をしないといけないなと思い、リラクはハンターギルドに来た。
ハンターギルドは日中ということもあり閑散としていた。混み合うのは夕方からだ。受付嬢も談笑して、リラックスした雰囲気だった。
受付嬢の一人であるミーニアも、他の受付嬢と楽しく話していた。ふとリラクの視線に気づいたのか、こちらを向いた。
「こんにちは、リラクさん。今日はリスティさんと一緒に森へ行ったんじゃないんですか?」
「ああ、さっきまで一緒だったよ」
リラクはリスティのことを黙っておくことにした。わざわざ話して心配させる必要はないだろう。
「そうなんですか。今日はいつもの換金ですか?」
「うん。これを換金してほしい」
リラクはベアクロウから採った魔石を、受付台に置いた。
ミーニアは魔石を見て、
「どれどれ…………すごいじゃないですか! 三等級魔石ですよね!? しかも色が少し違いますから変異種のものですよ、これ! どうしたんですか!?」
と、驚きの声をあげる。
「リスティと二人で倒したんだよ。俺は援護しかしていないけどね」
ベアクロウはリスティが倒したことにした。実際クロウベアを瀕死まで追いやったのはリスティだ。リラクは止めを刺しただけに過ぎない。
ミーニアは感心していた。
「さすがは町でトップクラスの魔獣討伐数を誇るリスティさんです」
「やっぱりすごいのか?」
「そうですよ。リスティさんは毎月百五十体以上の魔獣を倒しているんです」
ミーニアは自分のことのように嬉しそうに話した。
「そうか……」
逆にリラクは表情を険しくさせた。リスティが、ボロボロになりながら自分の責任を果たそうとしたことが、思い浮かんだからだ。
「では、お金を出しますね」
ミーニアは金庫箱から、お金を受付台に乗せた。その金額はリラクがいつも受け取っている額の数十倍だった。五等級魔石と変異種の三等級魔石では比べ物にならない価値の差である。
リラクは硬貨を財布にしまい、ふと思い出したように言った。
「ところで、ハンター保護法って知っているか?」
「はんたーほごほう?」
ミーニアは首を傾げた。
「半年前に国王が新しく出した法律なんだが……知らないか?」
リラクの問いに、ミーニアは腕を組み、眉を寄せる。
「う~ん」
と、唸りながら記憶を当たっている様子だが、一向に思い出せないようだ。
「ごめんなさい、全く覚えがないですね……。ハンターに関わる話なら、ギルド長から説明があるはずなんですけど……」
「ギルド長から話がない? ……まさか」
情報を止めている……?
その考えがリラクの脳裏を過ったとき、きな臭さを感じた。眉を顰める。
「もしかして……」
ミーニアも何かを悟ったようで、いつものニッコリした顔から一変して、真顔になった。
「ハンター保護法について、説明しようか?」
と、リラクから提案をすると、ミーニアは首を振った
「いいえ、お気持ちはありがたいですがやめておきます。ギルド長から直接伺いたいと思いますので」
「そっか」
「はい、リラクさん。貴重なお話をありがとうございます」
ミーニアはお辞儀をした。
顔をあげたミーニアの瞳には、決意めいた強い意思を感じた。
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