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第六話 無謀な選択

初めての別視点&戦闘描写。

難しいです(;'∀')


9/26追記 サブタイトル修正。話数がおかしなことに……。

「ふっ!」


 一振りの銀閃が煌めき、一頭の獣が地面に伏した。

 リスティは血の付いた剣を一振り、血を払う。剣を鞘に納め、小さな小刀を取り出した。仕留めた狼型の獣——グレイハウンドの前にしゃがみこみ、腹を裂く。生温かい血が地面に広がった。

 小刀をしまい、気にせず傷口に手を突っ込む。先ほどまで生きていた獣の熱が肌に伝わった。 この作業を始めた頃は、顔をしかめていたものだ。が、今では何も感じなくなっていた。

 獣の体内をまさぐり、目当ての物を見つけると、体内から手を抜き放つ。血が滴り落ちる手の中には、ひとつの結晶体があった。

 五等級魔石だ。


「これで三個目……」


 ため息をつき、肩にずっしりとした重さを感じながら立ち上がる。

 いつの頃だろうか。身体が重くなったと感じるようになったのは。

 子供の頃は寝つきもよく、寝起きも良かった。が、今では夜に眠ることもできず、起き上がるのも億劫になった。身体に大きな魔獣が圧し掛かったような重さを感じ、起き上がるために気力を使い果たす勢いだ。

 今日も朝の薄暗い内からカロウセ西の森の中で魔獣を捜し歩き、やっとのことで三頭目を倒した。

 カロウセ周辺の森は比較的安全な区域である。というのも、カロウセは周辺の町よりもハンターの数が多いというのが理由だ。特にユニオンが、その規模を大きくしようとするあまり、所属するハンターがこぞって魔獣討伐を行っているからだ。

 リスティもその一人である。彼女の場合はヴェレーノに課せられるノルマが原因だったが。

 魔獣の強さが比較的に弱いことも理由にある。カロウセ周辺の魔獣はハンターギルド指定の危険度ランク最低の五か、その上の四である。グレイハウンドはランク五の最たるもので、初心者のハンターでも数人で相手にすれば容易に倒せる。慣れてくれば一人で倒すのも可能だ。

 そのためカロウセ周辺は魔獣も少なく、住民にとっても住みよい町となっていた。

 ただノルマを達成しようとするハンターにとっては厳しくなる一方だ。

 ふと昨日の話を思い出した。ミーニアが提案したリラクに手伝ってもらうという話だ。


「でも、人に手伝ってもらうなんてダメだよね」


 自分に言い聞かせる。ヴェレーノが言った通りにするのは嫌だった。

 それに……。


「昨日はいきなり帰っちゃったし……、きっと嫌われてるよね……」


 自分を責めるような言葉を一人、ごちた。

 リスティは再び魔獣探しを始めた。身体をふらつかせ、重い足を動かす。

 いつからか焦燥感に駆られるようになった。孤独を感じ、まるでこの世に独りしかいないような感覚。色褪せた灰色の景色が広がるような錯覚を。


 ————。


 微かに獣が唸る声がした。耳を澄ませて声がする方向を調べる。


「……あっちかな?」


 ゆっくりとした足並みで、声がする場所へ向かった。


「あれは……クロウベア?」

 リスティより二倍はある巨体の熊型の魔獣。両腕はモグラのように大きく発達し、爪は鋭い刃のようだ。

 まだリスティには気づいていない様子で、獲物を探すように周囲を警戒していた。

 クロウベアはカロウセ周辺にはいない魔獣で、巨体に似合わない速さで動き、獰猛だ。危険度ランクは三。ランク四なら苦戦しながらも一人で倒したことはある。が、ランク三は未知の領域だ。安全を取って、逃げるべき存在だ。

 だがしかし……。


「あれを倒せば五等級魔石二十個分だよね……」


 危険度ランクの高い魔獣ほど、体内に宿す魔石の質は高い。危険度ランク三のクロウベアから回収できる魔石は三等級。五等級魔石より二十倍の価値がある。

 息を殺し、クロウベアの死角に回り込む。クロウベアはまだリスティの存在に気づいていない。

 緊張で喉を鳴らし、愛用の剣を鞘から抜く。体内に魔力を巡らせ、身体を強化していく。深呼吸をして、目の前にいるクロウベアの背中に狙いを定める。足を踏み込み、一気に駆けだした。


「はああああああぁぁっ!」


 掛け声とともに渾身の一撃をクロウベアの背中へ打ち込む。

 獣の咆哮が静かな森の中に響いた。


「ガァァァァァッ!」

「やったかな? ——っ!」


 リスティの疑問に答えるようにクロウベアは瞬時に振り向き、大きな爪で襲い掛かった。

 飛びのいて攻撃を避けたリスティは、獰猛な唸り声をあげるクロウベアを睨みつけた。


「だめか……」


 渾身の力で振った剣も、クロウベアの身体を深く切りつけることはできなかったようだ。

 クロウベアの身体は強靭な皮膚で覆われていた。リスティの力では一回切りつける程度で倒すのは難しいようだ。が、クロウベアの足元に血が滴っている。リスティの渾身の一撃はそれなりのダメージを与えたようだ。


「だったら何度だってやってやるわ」


 剣を構え、クロウベアと対峙する。クロウベアは大きく発達した両腕を振りかぶり、飛び掛かってくる。


「甘いっ!」


 素早く攻撃を避けたリスティは懐に入り込み、クロウベアに斬りつける。が、やはり傷は浅い。傷口から薄く血を流すだけだった。


「ガァァァァッ!」


 怒り狂うクロウベアは怯むこともなく、リスティに反撃する。躱すリスティ。繰り返す攻防は数十、数百続いた。

 だが、一向にクロウベアが倒れる気配はなかった。


「っ……はぁ、はぁ……くっ……」


 リスティの頬から汗が流れ、顎を伝って地面に落ちる。息を荒くし、肩で呼吸する。疲労で剣が重くなる。

 全身の至る所から血を流した。クロウベアの鋭い爪を、完全に避けきることはできなかったのだ。

 鈍くなった頭で思考する。

 このままではまずい。体力の限界でこちらが倒れてしまう。何か弱点は……。

 無数の傷を帯び、赤く染まったクロウベアを睨みつけた。


「あそこならきっと……」


 瞳に映るのはクロウベアの眼だ。あそこなら強靭な皮膚も役に立たないはず。

 剣を強く握りしめた。勢いよく駆け出した。クロウベアの攻撃を高く飛び上がって避け、そのままクロウベアの頭上へ躍り出る。


「これなら——どうだっ!」


 リスティの剣をクロウベアの目に突き刺した。


「ガァァァァァッ!」


 悲鳴を上げるクロウベア。リスティは剣から手を放し、飛び退いた。空中を舞いながら、心の中で倒したと歓喜する。ほっとして身体から力を抜いた。

 だが——。


「——っ!?」


 巨大な鉄の塊で殴られたような衝撃が、リスティの身体を襲った。

 クロウベアは眼に刺さった剣を痛みなどなかったかのように怯まず、裏拳でリスティを殴りつける。

 リスティはボールのように地面に衝突して飛び跳ね、大きな木の幹に当たり、止まる。崩れ落ちるように、地面に俯せで倒れた。。

 言葉が出ないほどの痛みが、リスティを襲った。


「かはっ……げほっ、げほっ……」


 咳と同時に大量の血を吐いた。内臓をやられてしまったらしい。

 気が緩んだところでの反撃を受けたため、防御すらできなかった。

 クロウベアは、目に突き刺さった剣を器用に外し、地面に捨てる。全身を血だらけにした状態でも、戦意は衰えなかった。残ったひとつの瞳で、倒れているリスティを睨みつける。

 どうやら頭蓋の奥まで剣が届かず、致命傷にはならなかったようだ。

 リスティは全身の強い痛みで、指先すら動かすことができなかった。目の端でクロウベアが近づいてくるのが見える。鋭い爪を両腕で打ち鳴らしていた。おそらくあの爪でリスティの息の根を止めようとしているのだろう。

 そのときリスティに心に湧いてきたのは、死にたくないという気持ではなかった。


 ああ……やっと楽になれる……。


 この苦しい世界から解放される——その気持ちで一杯だった。

 少し懸念したのは、昨日出会った幼馴染のことだ。彼との夜は久しぶりに楽しいと感じた。もっと話をしたい。そう思ったのはいつ以来だろうか。


「……あぁ……い……っしょに……たび……したか……った……」


 瞳から涙が溢れた。

 もし自由が手に入ったら一緒に旅をしたい。今度はユニオンに入らず、誰に縛られない自由なハンターになりたい。そう思った。

 クロウベアがリスティの前に立ち止まり、大きな爪を振りかざした。

 リスティは最期の瞬間を待った。


——その時、一羽の光る鳥がリスティの前に飛び出した。


 リスティが目を閉じる最後に見た光景は、一人の青年の背中だった。

 ——そして意識を手放した。

お読み頂きありがとうございます。

引き続きお読み頂けましたら幸いです。

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