第三十二話 月と少女
今回は少し短めです。
魔薬の売人を捕縛したリラクは、離れた場所で待機していたカイル達に売人を引き渡し、衛兵の詰め所に向かった。
衛兵の詰め所にある事務所で、ゴードンは衛兵達が拘束している売人を見て、顔を引きつらせる。
「なあ……、どうして此奴はここまで震えているんだ? お前は一体何をしたんだよ?」
「いや……、ちょっと脅して質問しただけだよ」
リラクは何でもないように答える。
売人の身体はすでに動くようにリラクが治している。手首の怪我も同様だ。ただ、その時味わった恐怖が染みついているらしく、トラウマになっているようだ。
ゴードンは訝しげにリラクを見た。
「本当か? カーターの時といい……。お前は本当にただの回復魔術師か?」
「だから前にそう言ったじゃないか」
「……カイルはどう思う?」
「あー……、回復魔術師というのは間違ってないと思いますよ。ただ、ちょっと特殊な経験をなさっているのではないかと……」
カイルはリラクを見て、苦笑いを浮かべた。
カイルは知っているのだろう。回復魔術師の中には拷問や尋問を得意とする人間が存在していることを。
回復魔術師は怪我を治すことができる。ということは、生かすも殺すも自由自在である。
リラクは拷問や尋問は得意という訳ではなかったが、過去にそういった経験はあるし、その分野の専門家からコツを聞いていた。
ゴードンは不承不承といった感じで、カイルの話を聞き、納得する。
「そうか……。で、アジトはどこだかわかったのか?」
「ああ、カロウセの西にある森の奥地にある洞窟の中だそうだ。快楽草もそこで栽培しているらしい」
ゴードンの問いに、リラクは答える。
快楽草は特殊な環境下で栽培する。太陽光を一切浴びさせず、魔力を帯びた特殊な光だけで育てるのだ。太陽光を充てると、快楽草は毒性の低い、弱い媚薬にしかならない。
「わかった……。明朝アジトへ向かう! おい、カイル! 今夜中にこの売人の男から魔薬を買った人間を聞き出せ。この調子ならすぐ吐くだろう。ここにいない奴らにも伝えておけ」
「わかりました」
カイルは姿勢を正し、ゴードンの命令を承諾する。
「リラク……、ということだ。お前もアジトへ行くよな?」
「ああ、もちろん行くさ」
リラクは頷いた。今回の事件にはリラクも責任を感じていた。嫌だとは言わない。
「なら、今日は解散だ。みんな英気を養っておけよ。明日は戦争だッ!」
「「「おうッ!」」」
この場にいる衛兵達から声が響き、部屋の壁を震わせた。
「さあーて……、明日が楽しみだぜ……。今までの怒りを全てぶつけてやる……」
ゴードンは好戦的な笑みを浮かべた。もともと頭を使うより身体を動かすほうが好きなのだろう。髭面を相まって、獲物を狙っている野獣にしか見えない。
「さて……、明日ですべてを終わらせる……」
リラクは呟き、明日に思いを馳せていた。
明日再び集合ということで、リラクは一度小鳩亭に戻ることにした。
夜も更けていることから、表の扉はすでに閉まっている。
リラクは宿の裏手に回り、裏口の鍵を開けて中に入った。宿の女将であるマリアナに帰りが遅くなることを事前に伝えたら、裏口の鍵を貸してくれたのだ。
裏口の鍵を閉め、暗い廊下を進み、自分の部屋に辿り着く。扉の鍵を開けようと鍵を差し込み——、気づく。
鍵が開いている……。
リラクは警戒心を高め、そっと扉を開けた。
薄暗い部屋の中、窓から月明かりが差し込み、辺りを照らしていた。そこにはベッドに腰かける一人の少女がいた。彼女の金色の髪が月明かりに反射し、神秘的な輝きを見せ、その青い瞳が窓から覗く月を映す。彼女が着る生地の薄い服からは女性的なラインがハッキリとわかり、特に丸みを帯びた大きな胸は、男の理性を刺激した。
リラクは金髪の少女を見て呆然と立ち尽くし、彼女の名前を呟いた。
「リスティ……」
お読み頂きありがとうございました。
今までリスティの登場シーンはあまり印象深くできませんでしたので、今回は張り切りました。
美少女らしく感じていただけたら嬉しいですね。
次はベッドシーンです。




