表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/39

第三十話 自責と憤怒

前回のあらすじ。

変態なカーターがリスティーに襲いかかる。

カーターがリスティのペンダントを引きちぎると、全てが光の飲まれた。


さぁて、伏線を回収しながらのフルボッコ回です。

 リスティーの持つペンダントが強い光を発する数分前。

 ミーニアはカロウセの街を走り回っていた。リスティがいなくなってから数時間が経過した。空は赤と紺が混じり、夜になるのもあと少しだ。

 ミーニアがリスティから離れていた短い時間で、リスティはいなくなってしまった。すぐ戻ってくると思い、ベンチで待っていても一向に戻ってこない。

 胸騒ぎを感じ、探し回ったがどこにもいない。リスティと一緒に廻った店を探し、家に戻っているのかと思い、小鳩亭へ戻ってみたもののいなかった。

 息を切らし、足を止める。汗が頬から顎を伝って地面に落ちた。


「はぁ、はぁ……。リスティさん……、どこにいるんですか?」


 ミーニアの呟きは行き交う雑踏で掻き消えていく。不安と焦燥だけが砂時計のように積もっていった。


「どうしたんだ、ミーニア? そんなに慌てて」


 ミーニアが振り返ると、そこにはリラクが立っていた。表情はいつもの通り、やる気のない眠そうな顔をつくっている。なぜか数名の衛兵達と一緒にいた。そのことに不思議に思いながらも、今一番の心配事をリラクに告げる。


「リラクさん、リスティさんを見ませんでしたか?」

「リスティ? 見てないけど……、どうかしたのか?」


 リラクが首を捻る。

 ミーニアが必死に声を上げる。


「突然いなくなったんですっ! どこを探してもいないんですよっ!」


 ミーニアの必死さがリラクに伝わったらしく、リラクの表情が真剣なものになった。


「わかった。ちょっと待ってくれ」


 そう言って、リラクは自分の鞄に手をかける。

 ——その瞬間、カロウセの街に光の柱が立った。翠色のとても幻想的な光だ。


「なんでしょう、あの光は? 何か催し物とかありましたっけ?」


 あのような光の柱は、ミーニアは初めて見た。が、その光が魔術的な物で、かつとても高度なものであると、素人目でも理解できた。だから何かの祭りかと思った。

 近くにいた衛兵達や周辺を歩いていた人達も、同様に光の柱を見ている。彼らもミーニアと同じように考えているようだった。ミーニアが言ったことと同じような話が聞こえてくる。

 ——しかし、

 一人だけ違った表情を浮かべていた人間がいた。リラクだ。彼は光の柱を見て、目を見張っていた。その後、唇を強く噛み締める。

 ——そして、一陣の風が吹いた。


「きゃっ!?」


 急に吹いた風にミーニアは髪を抑える。


「なんだったんだろう、今の風? ねぇ、リラクさん? ……ってあれ? ……リラクさんは?」


 ミーニアが辺りを見回したがリラクはいなくなっていた。残っていたのは地面に残るレンガを砕いた足型だけだった。




 ◇




 リラクは家々の屋根を飛び、一直線に天へと昇る光の柱へ向かっていた。

 あの翠の光の柱が何かをリラクは知っている。リスティに渡したペンダントには様々な機能がついている。そのひとつが防衛機能だ。ペンダントの鎖を強引に引きちぎると、石に内包してある魔力を一気に使い、光の柱を作って周囲に知らせるのだ。


「あそこだな」


 リラクは光の柱が昇る一軒の家を見つけた。光の柱の影響により、屋根に大きな穴が開いている。

 リラクは家々の屋根を飛び、その勢いのままその屋根の穴に飛び込んだ。

 穴は家の床を突き抜け、地下にまで及んでいた。

 リラクは地下に降り立ち、その目に飛び込んだのは、ベッドに縛られているリスティーと半裸のカーターだった。

 リスティーは、両手足を縄で縛られており、シャツの前が大きくはだけている。その姿を見たリラクは胸の奥から怒りが込み上げる。


「この光の柱は何なんだッ!? 僕とリスティーの邪魔をするなッ!」


 カーターは光の柱を殴っていた。翠の石のペンダントのもうひとつの防衛機能だ。光の柱は周囲に危機を知らせるだけでなく、バリアを張り、対象者を守る。

 だが、その効果時間は短い。すでに光の柱は集束を始めていた。


「……おい」


 リラクは怒りから来る唇の震えをどうにか抑えて、低い声を発した。


「あん? ——へぶしッ!」


 カーターがリラクの声に反応して振り向くと同時に、その顔をリラクは右手の拳を固めて殴った。

 カーターは吹き飛び、石壁に激突する。その激突におり、カーターの背後にある石壁を砕いた。

 さすがは元トップユニオンのホワイトファングのハンターである。意識を失わずに腫れ上がった頬を左手で押さえ、地面に腰をつけていた。驚愕した表情でリラクを見つめる。が、殴った相手がリラクと気づくと、すぐに憎しみを込めた目で睨みつけ、立ち上がった。


「リラク……、また貴様かああああああッ!?」


 カーターが怒鳴り声をあげる。その表情は酷く歪み、醜悪の一言だった。


「それが本当のお前か……」

「ああ、そうだよッ! 優しい男を演じていたのは、すべてリスティーのためだッ! 僕はリスティーを初めて見た時から好きだった。だからリスティー好かれるように、がんばった……。だがッ! リスティーは全然こちらを見向きもされなかったッ!」

「だから、こんなことをしでかしたってことか?」

「ああ、そうさッ! この薬があれば、女は誰でも僕の言う通りになる。あとは僕の色に染めてしまえば、僕の物だッ!」


 リラクは奥歯を強く噛み締めた。


「俺は今……後悔している。あの時、お前を見逃していなければ、こんなことにはならなかった……」

「あの時……。やっぱりお前は気づいていたのかッ!」


 カーターは、リラクが言っている『あの時』が、いつであるかを瞬時に理解し、激高する。


「ああ、そうさ。お前から快楽草の臭いがしてすぐにわかった。使用者だと。ただ臭いが薄かったから、女にモテるためにやったのかと思って、『浄化プリフィケーション』でお前の持っていた快楽草の効果をすべて消して見逃した。お前には仮があったからな……。もしお前の話がなかったら、リスティーは死んでいた。だが間違っていた。こんなことになるなら、お前をあの時衛兵に突き出しておけば良かった……」


 リラクは拳を強く握りしめた。力の入った拳からは血が滴る。手のひらに爪が食い込み、切ったのだ。

 心の中では自分を責め続けていた。

 カーターの怒号が部屋に響き渡る。大きく唾を飛ばし叫んだ。


「お前が使った魔術のおかげで、持っていた快楽草がすべて無くなったッ! そのおかげでまた買わなくちゃいけなくなったんだぞッ! 稼いだ金もすべて底をついたッ! すべてお前のせいだッ!」


 カーターはリラクに向かって駆け出し、殴りかかった。


「うるせぇよ……」


 リラクは呟き、カーターの右の拳を軽く左によけ、その強く握りしめた右手の拳で、顔面を殴り飛ばした。


「ぶふっ!?」


 一撃目より強い強烈なリラクの攻撃は、カーターを吹き飛ばした。金属製の扉を破壊して部屋から飛び出し、隣の部屋の壁に激突する。——が、リラクの攻撃は終わらない。


「ヒッ!?」


 カーターが小さな悲鳴を上げる。

 一瞬でカーターの距離を詰めたリラクは、再び殴った。一回、二回、三回と、何度も殴り続ける。顔、胸、腹、腕——ありとあらゆる場所を殴った。

 カーターの表情は憎むものから、段々と恐怖に色づいていく。「やめてくれ」という声を発しても、リラクはやめることはなかった。無言でただ殴り続ける。リラクが手を下した時には、カーターだったものは顔の原型をとどめておらず、肉塊のようになっていた。


「カヒュー……、カヒュー……」


 肉塊から辛うじて掠れた呼吸音がする。まだ生きているようだ。

 リラクは踵を返し、リスティの部屋に戻る。

 すでに光の柱は消失し、リスティはリラクを熱っぽい視線で眺めていた。まだ快楽草の効果が続いているのだろう。

 リラクはすぐに解毒の魔術をリスティに施し、腰に差している短剣で、リスティを縛る縄を切り裂いた。

 するとリスティーは、自分の着ている服の状態など気にせずに、リラクに抱き着いた。リラクの胸にうずくまり、声も出さず、押し殺すように涙を流した。


「ごめん……、本当にごめん……」


 リラクはリスティを強く抱きしめ、謝ることしかできなかった。

お読み頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ