第三話 ノルマ
ノルマという言葉は嫌いです。切羽詰まりますよね。
※追記9/28
書き直してみました。ストーリーに変更はありません。ただ、こちらも短くなりました……。
「ノルマ?」
リラクがリスティに訊く。
「うん……。そのノルマが厳しくてね……。達成できないと、給料が半分以下になるの」
「それは厳しいな……」
ユニオンがノルマを指定することは珍しくはない。給料制であるので、働かないハンターを出さないためだ。が、ノルマ不達成で給料が半分以下になるのは厳しい。
リラクは訊いた。
「で、そのノルマはどのくらいなんだ?」
「一ヶ月で五等級魔石一〇〇個」
「ひゃくっ! 多すぎないか……?」
驚きのあまり、リラクの声が裏返った。
ハンターの熟練度によるが、一ヶ月に五〇個も稼げば十分だ。なのに、その二倍は明らかに多い。
「うん。でも、所属しているみんなは必死でやってるよ。わたしも毎日森に行って魔獣を倒しに行ってるし」
「毎日か……。俺は二日に一回くらいなのに……。すごいな……」
普段から働かないリラクではあるが、魔獣討伐に出かける回数は他の一般ハンターと大差はない。リスティの毎日というのが異常なのである。
「怪我とか大丈夫なのか?」
「うん……。今のところはね。ユニオンのメンバーの中には亡くなった人もいるけど」
「だよなぁ……。でも、人数が良く減らないな。普通なら解散していないか?」
「人気のユニオンだから希望者が後を絶たないらしいの。だから解散はないかな」
「駒の補充はいくらでもできるってことか。リスティには悪いけど酷いユニオンだな。な。……そういえば、他の村の奴らはどうした?」
リスティが目を伏せる。声色もより暗くなった。
「……みんな逃げちゃった」
「逃げた?」
「……うん。みんなノルマがきつくて、達成できないこともあったりして……。嫌になって逃げちゃった……」
リラクは呆れたように、
「薄情な奴らだなあ……。しかもリスティを置いて……。ひでぇな。逃げるなら普通に脱退すればいいじゃん」
だが、リラクの言葉にリスティは首を振った。
「ダメなのよ。所属員の管理は副リーダーのヴェレーノさんがやってるけど、脱退を認めてくれないの」
「え? そんなことあるのか?」
ユニオンは会社とは異なり、雇用関係はない。リーダー、副リーダーに許し乞う必要もないのだ。
「うん。わからないけど、そういうルールなんだってさ。だから自由に辞められないの」
「そうなのか……」
リラクは自分の持っている知識との食い違いに首を傾げた。リラクの知識では、ハンターギルドに申請を出せば問題なく脱退できるはず。
リスティが悲しげな顔をして、
「わたしどうしたらいいのかな? ヴェレーノさんに『辞めたい』と言ったら、『誰か代わりを探してこい』って言われたわ。こんなユニオンに誰も誘えないよ……」
「リスティ……」
リラクは何か元気づけたいと思った。そこであることを思いつく。
「あっ、そうだ。ちょっと手を出してほしいな」
「ん?」
リスティは瞳を潤ませ、不思議そうな顔をしながら右手を出し、そこへリラクは鞄から取り出した物を置いた。
「……ペンダント?」
リスティの手の平に置いてあるのは、翠色の石のペンダントだった。一瞬、淡い輝きを放つ。
リスティがペンダントを見つめる。
「綺麗……」
「このペンダントは昔ルーティアの婆から貰ったものだ。俺にはもう必要ないからあげるよ」
「えっ? ルーティア様の? 高いんじゃ……?」
「大したもんじゃないよ。ちょっとしたお守りだ。肌身離さず持ってもらえると嬉しいな」
「うん、ありがとう。ちょっとつけてみるね」
と、リスティはペンダントを身に着け、ハニカミながら笑った。
「どうかな……? 似合うかな?」
「うん、似合ってる」
リスティの笑顔を見て、リラクも微笑む。
「——あら、リスティさん。あなたこんなところで何をしてるの?」
女の高圧的な声がした。
リスティが怯えた顔で、ヴェレーノの顔を見上げる。
「ヴェレーノさん……」
二人の前には、両腕を組む一人の中年の女が立っていた。
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