第二十八話 偶然の出会いは、終わりの始まり
リアルで仮に、友達同士の二人の女の子が同じ男の子が好きになって、片方の女の子だけがそのことに気づいた時、その子はどうするのでしょうかね。
カロウセの中心街には広場がある。中央には石造りの噴水があり、周辺にはテント造りの店が並んでいる。石畳の階段では腰を下ろし、仲睦まじく会話くする恋人。ベンチに座り、道歩く人を眺める老人や走り回る子供達がいた。賑わいのあるカロウセ憩いの場所である。
その中にミーニアとリスティもいた。彼女達は街にある服やアクセサリーの店を巡っていたのだ。
ミーニアは少し疲れた顔で笑い、
「ちょっと歩き回りすぎて疲れちゃいました……。あのベンチで少し休みませんか?」
と、ベンチを指さす。
「うん、そうだね。わたしもちょっと疲れたかな」
ミーニアの提案を受け、リスティは頷いた。二人はベンチに腰を下ろし、一息つく。
ミーニアが両腕を上にあげて背中を伸ばし、
「ん~……、今日は色々な所を周りましたね。服屋さんではびっくりしましたけど……」
「そうだね……。あの店のお姉さんが勧めた服……、あんなの恥ずかしくて着れないよね……」
リスティはその時のことを思い出し、頬を赤くした。
リスティ達が服屋に入ると、その店の女主人はリスティを服を見て目を丸くした。その後、妖艶な笑みを浮かべ、女性のラインを強調するような服ばかりを勧めてきたのだ。その服は肌面積が広く、スカート丈も短いものばかりだった。
リスティはあまり素肌を見せるような薄着の服装は避けていた。というのも、男の視線が気になって仕方がないのだ。特に胸元に集まるイヤらしい視線は嫌悪感を抱く。そのため、いつもゆったりした身体のラインの出にくい服ばかりを着ていた。
だから勧められた服もことごとく断り、女主人は酷くがっかりした様子だった。
「でも……」
と、ミーニアが口を開く。
「もしあの服をリスティさんが着たら、リラクさんとか喜びそうですよね」
「えっ?」
「普段何でもないような顔してますけど、絶対にムッツリですよ? リスティさんのような綺麗な女性があんなエッチな服を着たら、きっと鼻の下を伸ばして、だらしない顔をするに決まってます」
「そうかなあ」
普段からやる気のなさそうな顔のリラクを思い出す。もっと働いてほしいと思ってしまい、イラっとしまうこともあるが、あの顔を見るとなぜかホッとする。そして、たまに見せる真剣な表情に、不思議と胸が高鳴るのだ。
なぜかリラクのためなら着てもいいと思ってしまう自分に驚愕する。
ミーニアがリスティの顔を見てハッとし、
「で、でも着ちゃダメですからねっ!? アイツが何するかわからないですよっ!? 男はみんなケダモノなんだからっ!?」
と、慌てて止めようとする。
「う、うん……。着ないから大丈夫だよ。ああいう服は好きじゃないし」
ミーニアの慌てように圧倒され、引き気味に頷いた。
「そ、そっか……。良かったあ……」
ホッと胸をなでおろすミーニア。その様子を見たリスティは、自分のことを心配してくれているのかと、嬉しく思った。
「ところで……、その翠の石のペンダント……。前から気になってたんですけど、どうしたんですか? よく指で触ってますよね?」
「えっ? そうかな?」
「そうですよ。今も触ってましたよ?」
「本当? 気がつかなかった……」
リスティは驚く。完全に無意識な行動だった。
「無意識でやってたんですか……。もしかして大事な人からの貰い物ですか?」
ミーニアがムフフと笑みを浮かべる。
「うん……、実はそうなんだ。わたしがホワイトファングのユニオンに所属していて辛かった時に、お守りだってくれたのものなの」
リスティは大事そうに、ペンダントをぎゅっと握った。
リスティにとってリラクは、幼馴染であり友だった。ただ、この一ヶ月強の間に気持ちが強くなり、今では大事なかけがえのない親友と想う存在である。
しかし、リスティのその表情は、親友を想うというよりは、恋する乙女と言ったほうが正しかった。
「そ、そうなんだ……」
ミーニアはニッコリと笑う。その頬は少し引きつっていた。
「そういえば、ミーニアもその翠の石のイヤリング。ずっと着けているよね? どうしたの? 前はつけていなかったような……」
「これはリスティさんと同じでお守りみたいなものですよ。あは、あはは……」
と、ミーニアは誤魔化し笑いをする。
そのことに気がつかないリスティは微笑み、
「同じ翠の石だし、お揃いだね」
「そうですねー」
急遽、ミーニアは話を切るように手を叩き、
「あっ、そうだ。リスティさん、お腹は空きませんか?」
「うん、確かにちょっと空いたかも……。ずっと歩きっぱなしだったしね」
「わかりました。ちょっと出店で何か買ってきますね。少し待っててくださいね」
「うん、わかった」
リスティの返事を聞いたミーニアは、小走りで出店のある方に駆けて行った。
「どうしたんだろう、突然?」
ちょっと不自然な行動をするミーニアに疑問を抱きながら、彼女を見送った。
リスティは空を見上げる。青々とした空から太陽の光が地面に降り注ぐ。一ヶ月前までには、辛いと思った日ざしが今は気持ちよく感じた。
「リスティさん……」
そこへリスティに声をかける金髪の青年が立っていた。彼の表情は長年探し求めた宝物を見つけたかのような満面の笑顔だった。
リスティはカーターの表情の機微に気づかず微笑みを浮かべ、
「あれ? カーターさん、久しぶりだね」
金髪の青年は、元ホワイトファングの同僚——カーターだ。リスティの認識では、カーターはホワイトファングに所属している時の良き仕事仲間だった。ホワイトファング時代には、何かとリスティを気遣ってもらった記憶がある。
カーターは柔和な笑みを作り、
「会いたかったよ……。どこで何をしていたんだい? ホワイトファングのユニオンハウスが無くなって、どこにいるのかわからなかったんだ。引っ越しもいつの間にか終わってたし」
「ああ、ごめんごめん。ずっと友達の所に行ってたの。引っ越しも友達が手伝ってくれたからすぐに終わったし」
引っ越しをする時、リラクが率先して手伝ってくれた。ミーニアと二人で「本当にリラク?」と、疑ってしまうほどの出来事だった。
「その友達って、リラク……って名前の男のことかな?」
「えっ? そうだけど……。リラクのことを知ってるの?」
カーターがなぜリラクのことを知っているのか不思議に思い、首を捻る。
「ああ、ちょっとね……。やっぱりそうか……」
カーターはリスティの質問を軽く濁し、表情を硬くした。
「カーターさん……?」
「あっ、いや何でもないんだ。ただ……」
カーターは慌てて誤魔化し、勿体ぶった言い方をする。
リスティは訊き返す。
「ただ?」
「ちょっと、リラクさんのことで話したいことがあるんだ」
「えっ? なに?」
リラクとカーターの関係が気になった。一体何があるのだろうかと疑問に思う。
「ここではちょっと……、場所を変えて話したいんだけど……」
「でも……、今友達を待ってるから。その後でいいかな?」
「大丈夫。すぐ終わるからついてきて」
「えっ? ちょっと!?」
カーターはリスティの手を引っ張り、連れて行く。
しばらくカーターと一緒に歩き、辿り着いたのはひと気のない路地裏だった。建物で辺りは日影になり、表通りより暗い。通りで行き交う声も静かだ。
「ここなら大丈夫かな」
カーターはリスティの腕を離した。
「どうしたのいきなり?」
リスティは戸惑っていた。今までカーターがここまで強引なことをしたことがなかったからだ。リスティの知っているカーターは優しく、大人しいイメージだった。
「やっとだ……。やっと、この時が来た……」
「どうしたの……?」
カーターの様子が急におかしくなり、訝しむ。
——その瞬間、カーターがリスティの顔に何かの香水を吹きかけた。
「えっ? なにを……」
リスティは急な眠気に襲われた。一気に意識が遠のいていく……。
ドサリとリスティは地面に倒れた。
「…………」
カーターは眠っているリスティを見下ろした後、天を仰いだ。
「ああ、長かった……。とうとう手に入れた……。我が麗しのリスティィィィッ!」
その表情は狂喜に満ちていた。
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