第二十七話 今日は槍が降るかもしれない
推敲していたらギリギリになってしまいました。
何とかギリギリセーフです。
翌朝、リスティは今まで聞いたことない言葉をリラクから聞き、目を丸くした。
「ごめん 今日は用事があって忙しいから魔獣討伐はなしでお願い」
リスティがリラクとパーティーを組んでからというものの、いつも言うリラクの言葉は、『働きたくない』である。だが今日は、『忙しい』だった。あのリラクには信じられない言葉である。
リスティは動揺しながら、
「あっ、うん。わかったよ。今日はミーニアもお仕事お休みらしいから、ハンターギルドへ行くこともないし、わたしもお休みにするよ」
「わかった。朝食は先に済ませたからもう出るな。んじゃっ」
「はい、いってらっしゃ……い……」
リラクはそそくさと小鳩亭を出て行く。
リスティはその後姿を眺めながら、手を振り見送った。
「……リラク、どうしたんだろう?」
心配顔で、リラクが出て行った扉を見つめる。
少しして、ミーニアがリラクが出て行った扉から入ってきた。どうやら朝食を食べるために、隣の家から来たようだ。ミーニアが不思議そうに首を傾げる。
「おはようございます、リスティさん。ところでリラクさんはどうしたのでしょうか? ちょうど出て行くのを見たのですが……」
「おはよう、ミーニア。何か今日は忙しいから、魔獣討伐は行けないそうですよ」
ミーニアは目を見張った。
「忙しいっ!? あのリラクさんが忙しいと言ったのですか!? 初めて聞きました。今日は槍でも振るのでしょうか?」
リスティは苦笑し、
「そこまで言うのは酷いよ。でもどうしたんだろうね」
「はい、本当は昨日ことを謝りたいと思っていたので、残念です」
ミーニアはしゅんとしていた。
昨日の夜、怒っていたミーニアにリスティはリラクの考えを伝えたのだ。その話を聞いたミーニアは、自分の言ったことが無理強いだったと気づいてくれた。「朝に会ったら謝る」と、リスティに約束していたのだ。
「仕方ないですね。今日は仲直りのしるしに、リラクさんにご馳走をしようと思っていたのですが……。ところでリスティさんはお暇ですか?」
「あ、うん。今日はリラクもいないからお休みするつもりだったから」
「そうですか。では二人でお出かけしませんか? 美味しいケーキ屋さんがあるって、同僚から聞いたんです」
「いいわね。そういえば最近は出かけてなかったなぁ……。行ったところと言えば、森かハンターギルドだけだったし」
「リスティさんは真面目すぎるんですよ」
「そうかな?」
「そうですよ。リラクさんほど気を抜く必要はないですけど、もっとお休み取りましょう。ハンターはリスティさん以外にもいっぱいいますから、一人くらい休んでも平気です。無理して身体を壊したら、それこそ元も子もないですよ?」
身に覚えのあるリスティには耳の痛い話で、苦笑いする。
「あはは……、確かにそうだね。じゃあ、今日は目一杯遊びましょ?」
「はいっ! では、朝ご飯を早く食べて、さっさと出かけちゃいましょう」
二人はそう話合いながら、食堂へ向かった。
◇
リスティに今日は一緒に行けないことを伝えたリラクは、衛兵の詰め所へ向かった。
詰め所はカロウセの端にあり、宿舎など複数の建物が顕在し、隣には訓練をするための広場があった。とはいってもその規模は、ホワイトファングのユニオンハウスに及ばない。やはりあのユニオンは異常だったのだろう。
リラクは事務所のを見つけ扉を開けた。目の前には受付があり、制服を着た人の好さそうな男が椅子に座っている。男はリラクに気づき、声をかけてきた。
「何か御用でしょうか……って、リラクさんですか。また何かやらかしましたか?」
「いや、ちょっと聞きたいことがあってねって……、カイルさんって副隊長だよね? 何で受付に座ってるの?」
その男はリラクの知っている人だった。一ヶ月前、ホワイトファングの事件で良く話していた衛兵である。
カイルは笑い、
「ここ最近はある事件でみんなピリピリしてまして。ここに座ってもらっても、相談に来た人がみんな帰ってしまうんですよ。だから代わりに僕が出ています」
「やっぱり夜に女の子が襲われる——あの事件の犯人捜しですか?」
「そうですね。手がかりが少なくて、犯人がわからないんです。今は夜の見回りを強化するくらいしかできなくて……。本当に嫌になります」
「なるほど……」
衛兵達も犯人を捕まえようと必死らしい。だが、手掛かりがないというのはどういうことだろうか。被害者は全員生きているのだ。犯人の顔を見ているはず。
リラクが思考を巡らせている時に、カイルの背後から男の声がした。
「おい、カイル! 何を勝手ににペラペラと……」
「あっ、ゴードン隊長。この方はリラク=ヒーリアさんです。以前、ホワイトファングの事件を解決した——」
「——ああ、お前さんがあの事件を解決した騎士様か。俺はこの衛兵部隊の隊長のゴードンだ。あいにくで悪いが、俺は不作法でな。話し方は勘弁してほしい」
ゴードンはリラクの前に立った。リラクよりも身長が高く、髭を生やした壮年の男だ。一見して古強者の印象があった。
「リラクだ。俺は気にしないから大丈夫だ。もともと騎士という身分も分不相応だからな」
「そうか、それはありがたい。ところでよ。王都から領主様経由で、お前さんが来た時には全面的に協力するようにって話だが……。お前さん……、何者なんだ?」
リラクは笑みを浮かべた。
「ただの回復魔術だよ」
ゴードンは胡散臭そうにリラクを睨み、
「本当かあ……? まあ、そういうことにしておいてやろう。それで何が知りたい? と言っても、俺達が知っていることなど大したことはないぞ。カイルが言った通り、犯人探しに夜回りくらいしかできていないからな」
リラクはさっき気づいた疑問を訊く。
「なぜ犯人の似顔絵も何もないんだ? 確か被害者は全員生きているよな? 犯人の話を被害者から聞けないのか?」
ゴードンは深いため息をついた。
「俺達もそれができたら苦労はしない。正直あれを生きていると言うのか……。俺にはわからん……」
「どういうことだ?」
リラクは首を捻った。
そこでカイルがゴードンの代わりに説明する。
「被害者の方は全員、精神的にショックを受けていまして、話せる状況ではないんです。全員、自分のベッドでずっと震えているそうです。ですので我々も無理強いができず、ただ話してもらえるのを待つくらいしかできていないのですよ」
「そういうことか……」
リラクは深刻な表情で、カイルの話を受け止めた。回復魔術では精神回復をさせることはできない。『浄化』は、副次効果で気持ちをリフレッシュさせることができるが、その感覚は水浴びをする程度でしかない。治すだけという意味であったら方法はあるが、代償が大きい。しかも治したとしても、事件解決には役に立たない。
「畜生がっ! 犯人はどこをほっつき歩いているんだ。さっさと牢屋にぶち込まれやがれってんだ!」
——部屋に大きな音が響く。
ゴードンが壁を殴ったのだ。額には青筋を浮かべている。その拳は壁にめり込み、手の跡が残る。よく見ると、似たような跡は彼方此方にある。日常的に壁を殴っているようだ。
リラクは今できることをしようと思い、カイルに提案する。
「とりあえず現場を見せてほしい。どういうところで事件が起きたかで犯人の行動範囲が絞れるかもしれない」
「そうですね。わかりました、ご案内します」
「よろしく頼む」
リラクはカイルと共に詰め所を出て、犯人を捜し始めた。
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