第二十話 快楽草
とうとうストックがなくなりました。
今日の話は急いで書いたので、推敲不足があるかもしれません。
どうぞよろしくお願いします。
静寂が戻った執務室。割れた窓、散乱した書類。室内は戦闘により混沌と化していた。
「さて、衛兵を待たないとなあ……。さすがにここから離れるのは良くないしな」
リラクはミーニアに向けて、苦笑いを浮かべた。
「そうですね。ここで逃げたら犯人になっちゃいますよ?」
「だよなあ……。ああ、面倒くさい……」
と、リラクは愚痴る。その姿は「働きたくない」と言っているいつものリラクだった。
ミーニアはその姿を見て「仕方ないの人ですね」と、ため息をつく。
「さっきまであんなにカッコ良かったのに……」
と、続けるが、その声は小さく、誰にも聞こえていない。
リラクは割れた窓に近づき、下を見る。
下には人だかりができており、騒然としていた。ただ見ているのは野次馬ばかりで、衛兵が来ている様子はない。
「まだ時間が掛かりそうだな……」
と、リラクが呟いている時、ミーニアは地面に落ちている白い封筒が目に留まった。
「手紙かな?」
拾い上げたのは差出人不明の手紙だった。封筒は白紙で何も書いていない。が、封は空いていた。すでに誰かが読んだ後なのだろう。その時、手紙から甘い匂いが漂ってきた。今まで嗅いだことのない、菓子類とは全く異なる独特な匂い。
「何だろうこの甘い匂い……。何かのお花の匂いかな?」
と、首を捻った。
ミーニアは手紙から視線を外し、割れた窓の側に立つリラクの背中を見つめた。昨日の夜、そして今日も、彼はミーニアの危機に身を挺して助けてくれた。
「リラクさん……」
その名を呟くと、不思議と胸が高鳴っていくのを感じた。
「あれ……? わたし……、もしかして本当に好きになっちゃったのかな?」
——自分の感情に驚いていた時のことだ。身体の芯がじわっと熱くなっていくのを感じた。それだけでは終わらない。全身の疼きが止まらなくなり、汗が浮かび上がる。息は荒くなり、熱を帯びる。身体に力が入らず、ペタンと女の子座りした。
「はぁ、はぁ……んぅっ……、どうしちゃったのかな……わたし……?」
太腿を擦り合わせる。
「もしかして……、興奮してるの……?」
頭に浮かんだのは性的興奮だった。だが、ここは自分の家でも、宿屋でもない。ホワイトファングのユニオンハウスだ。プライベートな空間では全くない。
「わたしって……、変態だったの……?」
その事実に驚き、疼く身体を両手で抑えながらも、リラクから視線を外さず、じっと見つめていた。
と、その時ミーニアの視線をずっと浴びていたリラクは、困惑していた。
「何だ……? この背中に感じる熱い視線は……」
そう呟くが、該当する人は一人しかいない。
リラクはミーニアの方へ振り返り、
「どうしたんだミーニア……って、本当にどうしたんだよっ!?」
床にペタンと座り込み、熱病に侵されたような眼差しでリラクを見つめるミーニアに驚く。慌ててミーニアに駆け寄った。
ミーニアはのぼせた顔で、瞳を潤ませている。表情は何か物欲しそうだ。
「リラクさん……、身体が……熱いんです。何か火照ってしまって……。わたし……リラクさんのことが好きになっちゃったみたいで……。もう……ダメになっちゃいそうです……」
「はぁっ!?」
ミーニアの突然の告白に素っ頓狂な声を上げる。過去に告白など受けたことのないリラクにとって、『好き』という言葉の破壊力は凄まじく、頭の中がパニックになる。
「えっ!? ちょっと待って!? いきなりどういうこと!?」
ミーニアはリラクの足元に這うように近寄り、顔を上げる。その表情は何かに耐えているかのようで、もう限界寸前といった感じだ。
「このままだと、どうにかなってしまいそうなんですっ! もう我慢できないんですっ! 下さいっ!」
「何をっ!?」
「ここまで言ってわからないんですかっ!? 貴方のこ、こ、こだ……」
ミーニアは羞恥からか、更に顔を赤く染め、何か言おうとしている。
リラクは混乱する頭の中、ふと違和感を覚えた。
この急展開はさすがにおかしい……。夢ならともかく、現実で起きるわけないだろう。
と、そこでミーニアの近くに転がる手紙に気がついた。
「ちょっとごめんよ」
「あんっ」
リラクの足に擦り寄るミーニアを優しくどかし、手紙を拾い上げる。手紙からは甘ったるい臭いがした。リラクは顔を顰め、得心する。
「なるほど、そういうことか」
冷静さを完全に取り戻したリラクは、ミーニアを見下ろし、頭の上に左手を当てる。
「…………?」
ミーニアは惚けた目で、リラクを眺めていた。
「——毒解除。 浄化」
ミーニアの周りが淡く光り、優しい風が舞い上がった。ミーニアの真っ赤に染まっていた顔が見る見るうちに素へ戻り、荒い呼吸も収まった。
「…………あれ?」
ミーニアは目をぱちくりさせ、『何が起こったのかわからない』といった感じの顔をした。
「どうしたのでしょう、わたし……?」
「この手紙のせいだよ」
持っていた手紙をヒラヒラさせる。
「手紙?」
「おっと、この手紙に近づくなよ。また、おかしくなるぞ」
リラクはミーニアが近づこうとするのを止めて、できる限り手紙をミーニアから離す。
「その手紙はいったい何なのですか?」
「この手紙自体には問題ない。問題があるのはこの手紙に使われている紙だ」
「紙?」
「ああ、この紙には快楽草の臭いが染みついている」
「快楽草?」
ミーニアは訊いたこともない名前に、コテンと首を捻った。
「端的に言えば、魔薬だ」
「まやくっ!? 何でユニオンハウスにこんなのがあるんですかっ!?」
ミーニアは驚愕し、リラクに訊く。
リラクは封筒から手紙を取り出し、内容に目を通しながら、
「快楽草は一言で言ってしまえば、媚薬だ。しかも男には効果が薄く、女には効果絶大という特殊性がある。鼻の良い犬系統の獣人のミーニアには、特に効いたみたいだな。実はこの薬には依存性もあってな。何度もこの薬を体内に取り込むと、薬の快楽から抜け出せなくなるんだ。だから快楽草は、その特殊性と依存性から、犯罪に使用されるケースが多いこともあって、使用、所持、栽培の全てが禁止の違法薬物なんだよ。見つかったら即処刑だ。……ふむ、なるほど」
「何かわかったのですか?」
ミーニアの問いに、リラクは頷く。
「ああ。これは衛兵に伝える内容を一個追加だな」
楽しそうに笑った。
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明日は投稿する予定です。
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